第5話:塵も積もれば山となる

 ロシアは、ザバイカルを失陥した。真相は後述するとして、結果的にそれは皮肉にも世界の中心地が未だ欧州に移動したままであることを意味していた。と、いうのも……。


 アメリカ合衆国の参戦は衝撃的であった。だが、それは心理的衝撃でしか無かった。と、いうのも、この当時の合衆国軍は非常に弱かった。否、弱いなんてものじゃなかった。事実上の民兵一揆によってイギリス帝国から離脱することに成功したとは言え、所詮それはテロリスト集団の一揆行為に過ぎなかった。と、いうのも、だ。……合衆国軍は、派兵を決定して実行したといえど、それ以上のことはしていなかった。いや、出来なかったと言った方が正しいか。つまるところ、第27代大統領ウッドロウ・ウィルソンが精神疾患に罹ったのではないかと囁かれていたのは、そういうことであった。彼は彼我の力量を顧みずに、好意的解釈をすれば果敢に、まあはっきり言ってしまえば無謀にも欧州に殴り込んで合衆国領を増やそうとしたのだ。当然、実戦経験のない軍隊など、ただの銃を持っただけの人間である。員数こそ圧倒的に多かったが、所詮は新興国、派兵していった先から撃ち殺され、早くも厭戦気分が漂い始めていた……。

 だが、合衆国軍の派兵は全くの無駄、というのは少々早計である。と、いうのも、合衆国軍の圧倒的兵数を聞いたロシア帝国はなんと、本来東に振り分ける兵隊まで西に振り分けてしまったのだ。つまり、ロシアがザバイカルを失陥したのは、合衆国軍の員数に怯えたからであった。実際に、ロシア軍が合衆国軍と交戦した際に、兵数が同数にもかかわらず圧倒的に優勢であり、東に振り分けたら良かったと後悔した程度には、合衆国軍の兵隊というものは貧弱であった。

 そして、そんな混沌とした戦局を見たイギリス帝国は、ある禁じ手を発動させることにした。それは……。

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