第2話:鵜の目鷹の目

 リヴァプール奇襲は、戦略的敗北に終わった。当初奇襲に成功したフランス海軍であったが、騒ぎを聞きつけたイギリス海軍により遁走を行うまでに海戦に持ち込まれる。善戦はしたものの結局奇襲艦隊は潰滅、逆にカレーよりイギリス軍の上陸を許す羽目になった。だが、陸ではむしろフランスの十八番であった。グランダルメは世界最強、かどうかまではわからないが、所詮イギリスは海軍国、官位を銭で購えるような陸軍では格が違うとすらいえた。結局のところ英仏戦線は膠着、結果として消耗戦となる。一方でドイツ軍が密かに動き始めていた。巧みなる隠密行動によって戦線より姿を消したそれはなんと黒海に出現、封鎖作戦ならぬ解囲作戦を行ったのだ。しかし、皆様忘れていないだろうか?ジブラルタル海峡やスエズ運河はイギリス領である事実を。そう、ドイツ軍の悪癖、手段の目的化である。確かにドイツ軍の力を以てすれば黒海封鎖を解囲することは可能だろう。しかし、ジブラルタル海峡やスエズ運河を解囲しなければどちらにせよ黒海のロシア海軍は地中海を抜け出せないのだ。結果として黒海解囲作戦は成功するものの、それはイギリス軍に時を与えることになった。一方でドイツ海軍のほうはひと味違った。スカゲラックにて整備を整えたドイツ海軍は敢えてスカゲラックより動かず、イギリス海軍を待ち受けていた。そう、ユトランド沖海戦の日付は刻一刻と迫りつつあった。

 一方その頃、東ではバルチック艦隊が最期を迎えつつあった。柱島を出発した連合艦隊はイギリス海軍の支援のもと初めての遠洋航海作戦を開始、シンガポールにて一泊した後マラッカ海峡を抜けカルカッタを目指した。一方でバルチック艦隊はマダガスカルにて体制を整えた後ベンガル湾に向かった後で様子をうかがうことを決意、斯くして決戦の舞台は整った。人はそれをマレー沖海戦と呼ぶ。

 戦いの詳細はあまりに多く書かれているので概論だけを述べるが、特筆すべきことと言えばこの戦いで初めて偵察機が使われたことだ。まだライト兄弟が飛行機を作ったばかりだというのに日本軍はすでに戦艦に偵察機を配備、そう、日本にも飛行機研究者はいたのだ。二宮忠八と矢頭良一である。彼らの発明した飛行機、「八咫烏」は矢頭良一渾身の発動機「伊吹一号」を心臓部に備え、外観は二宮式玉虫の形をした合作品であった。その偵察機によりバルチック艦隊の位置を捉えた連合艦隊はカルカッタより出航、ベンガル湾独特の大時化がうねる中戦いは始まった。当初の予定であったはずの戦法が封じられた中であっても連合艦隊はなお優位に立つことができた。そう、偵察機の位置誘導のもと鷹の目を使うように位置を変化することが可能な連合艦隊に対しバルチック艦隊は完全に翻弄された。結果としてバルチック艦隊の多くは拿捕、日本軍の損失はわずかに一部の戦艦の砲塔が破損しただけであった。

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