第11話 真面目に女子トーク

 その夜、2階の部屋をネイトが使っているので、下の階のイピディアの部屋のベッドにミラは寝かされた。


「本当にイピディアは床のお布団でいいの?こんなに良いベッドなのに?」

 床にいそいそと布団を引くイピディアを見ながら、ミラが申し訳なさそうに言った。


「客間で寝ても良いんだがな、ミラは目覚めてから初めての夜だろ?慣れてない家だし、まだいろいろ分からなくて夜も怖いかも知れないし……添い寝したいのは山々なんだが」


「……イピディアっていいヤツだったんだな……添い寝は断固として断るけど」

「ヤダ寂しい。添い寝のご褒美ぐらいいいじゃないか。……いや、私は別にいいヤツじゃないよ、お前に対してだけ甘々なんだよ。ミラ限定」


 ミラがふふっと笑った。

「あたしの何処がそんなに良かったの?」

「……好きになるのにどこが良かったから、とかないだろ……分からないよ。とにかく可愛くてさ。コルブロが好きな事は知ってたけど、なんか構いたかった」


「あたしはあんたの魔法に憧れがあったよ。万能の魔女だもん、なんでも出来て凄いよ」

「私にはお前の様に神を呼び出す力はないけどな……まあそれぞれ得意なとこがあるって事だよ」


「コルブロ……本当に明日来るかな」

「来るよ、きっと。ミラの事気にしてた。……アイツは何なんだ?アイツの薬で眠ったって……」

 ミラが上を向き、天井を眺めた。


「……コルブロは、あたしと同じ孤児院で育った親のない者同士なんだ。でも、あたしも彼も本当に小さかった時の事は覚えてなくて、物心が付いた頃には魔法が使える様になってた。2人とも便利だからって民間呪術院に引き取られたんだ……孤児院には相当な額のお金が支払われたんだって」


 イピディアは布団に入って横向きになってミラの方を向いた。

 自分より高い位置にあるベッド上の彼女の表情は分からない。


 ミラが続ける。

「コルブロは魔法の薬の調合が上手くて、病気や怪我に効く薬も作ってたけど……裏では毒薬も作らされてた。そんなもんなんだよ、あの頃の魔女や魔術師の使い道なんて。あたしも密かに『特定の地域を水浸しにしろ』って言われてやったりしてた。ナイル川の氾濫っぽく見せて」


「それが生き方だったんだから仕方ないよ。私だって何百人も見殺しにして来たぞ。3500年も生きてるとさ……でも、出来る時には出来る範囲で人助けもしたな。そんなもんだよ」


「……ところで、あたし、3500年も眠ってたから眠くないかも」

「マジか。……確かに……人生数十回繰り返せる……ぐらいの年月……寝てたもんな」

「寝れないとなると夜は暇だなあ……あれ?イピディア?」


 ミラは身体を起こしてイピディアの方を見た。

 彼女は疲れていたのか、小さな寝息を立てて眠ってしまっていた。


「……ホント、あたしを助けてくれたんだよな……ありがとう」

 ミラは小さな声で礼を言った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 次の日の昼。

 コルブロは約束通りの時間にやって来た。


「こんにちは。そして久しぶり。パエリアと特典のジュース持って来たよ」

「いらっしゃい。ホント久しぶりだな。こっちもサラダを用意しておいたぞ」

「お邪魔します」


「3500年ぶりなのに『学校卒業して以来!変わんないねっ』感があるわね……」

 行儀の良いコルブロの様子を見てネイトが言う。


「これは……ええ?ネイト様じゃないですか」

 彼女の声に顔を向けた彼が驚く。


「ミラの召喚魔法、全然衰えてないんですね……しかし急だな。今まで何処にいたんだろう……」

「詳しい話は中でしよう。まずは上がれよ」

 イピディアが言う。


「コルブロ!」

 上がって来たコルブロを見てミラが嬉しそうに言った。

「ミラ〜!良かった、本当にミラだ。チラッと見た時まさかなって思ったけど。乾燥も綺麗に戻ってる……もしかして湯戻しした?」

 彼も嬉しそうに言うが、元の綺麗な状態の彼女に驚いて言った。


「乾燥?湯戻し?あたしが乾燥してたの知ってるの?どう言う事なのホントにさ、あたしはあんたに貰ったお試し睡眠薬みたいなの飲んで、3500年も寝ちゃったんだよ?」

「それは想定外だけど効果覿面だ。本当にゆっくり眠れたんだな。俺って凄いわ」

「自己肯定感高いな」

 イピディアが呆れて言った。


「まあ話は後にして、再会祝いパーティーにしましょう」

 ネイトが言う。

「ネイト様はパエリア楽しみにしてたものね」

 ミラが笑った。

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