第2話 噂のマッドサイエンティスト

「ただいま!」

 ミラが民間呪術院の建物の中に入り、大きな声を出す。

「おう、ミラ、お帰り。レピディアには勝てたか?」

 扉の向こうから身体を傾けてこちらを見たコルブロが声を掛けて来た。


「ぜーんぜん。勝てるわけないよ『万能の魔女』だよアイツ……」

「お前だってそれなりに強い『水の魔女』なのにな。彼女はよく分からない程の強さを持って生まれた、出自の分からない適当な魔女だしなぁ……」

「分からない事だらけじゃん」


「まあまあ、今出来たばかりの滋養強壮剤入り眠り薬でも試さないか?」


 しょんぼり話すミラに、コルブロが怪しい色をした液体が入った焼き物を持って近付いて来た。


 彼は民間呪術院の魔女研究部門の責任者だ。いつも怪しい薬を作ってミラで試している。

 こう見えても筆頭魔法使いで薬剤師でもあり、彼の元には様々な病気の治療薬を作ってくれと求める人が毎日の様に訪れる。


 ミラとは幼い頃に両親を亡くして孤児院に引き取られた者同士であり、自分達の力の強さを認められて呪術院に就職している。


「……滋養強壮剤入りの眠り薬?シャキッとしたいのかぐっすり寝たいのかよく分からない薬じゃないか」

「これを飲んだらサッと眠れて目が覚めたら驚く程シャキッとする」

「本当に?」

「本当だ」

「じゃ、今からのお昼寝に使おうかな」

「うん、使うといい」


 ミラはそれを受け取り、一気に飲んだ。

 コルブロはニコニコしながらその様子を見ている。


「……アレ?本当に眠くなって来た…じゃあ、暫く眠ってくるよ」

「うん。ゆっくり寝ておいで、ミラ。起きたら寝覚めの感想聞くからな」

「……おやすみ、コルブロ……」


 ミラはそう言うと、2階の自分の部屋に行き、粗末なベッドに横になった。



「レピディア、ナツメヤシの収穫を手伝ってくれないか?」

 少しぼんやりしていたレピディアは、声を掛けられて我に返った。

「は、はい……ただいま参ります」


 王の家臣の収穫を手伝いに果樹園に行く。

 魔法の杖で空中に纏めて収穫し、籠に大量に入れて行く。


「おーい。レピディア。3階の外回りの燭台の油を替えてくれ」

 別の者にも声を掛けられる。

 彼女は嫌な顔ひとつせずに魔法で出来る限りの手伝いをする。


「レピディア様がいてくれて本当に助かるわ」

「便利なもんですな、魔法というものは……」

 宮中の者はそう言って彼女に感謝をしていた。

 

 しかしレピディアの顔は浮かない表情だ。

 ミラと最後に戦ってから10日、あれだけ毎日の様に自分に付き纏っていた彼女が一切会いにも来ないのだ。


「……病気でもしたのかな」

 レピディアはとうとう心配になり、仕事が空いた日に民間呪術院の門を叩いた。


「……べ、別に心配した、とかじゃないんだからな……ただ、お前の顔を見ないと……なんだか寂しくて」

 彼女は門番が出て来るまでミラへの言い訳を考えていた。


 けれども門番の答えは想像していたものとは違った。

「コルブロが数日前、大きな麻袋を担いで出て行ってしまった。……ミラもいない。探したのだが……見つからなかった」

「……え?」


 コルブロとミラは、最後にレピディアと戦った日から、忽然と姿を消していたのだった。

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