ー2章ー 8話 「命を照らす光と、訪問者」

牧草が芽吹いた翌朝──

冷たい朝露が村の空気をひんやりと包む中、ナツキは誰よりも早く厩舎へと足を運んでいた。

吐く息は白く、まだ日が昇りきらない村は静まり返っていたが、その静寂を破るように、突然声が上がった。


【村人A】「おい!見ろよ!鶏が……!鶏が牧草を食べたぞ!!」


驚きと喜びが入り混じった声に、ナツキは反射的に振り返る。

そこには、昨日まで動こうともしなかった痩せ細った鶏が、ふらつきながらもぴょこりと立ち上がり、緑の牧草をついばんでいる姿があった。


【ナツキ】「ほんとだ……やった……!」


感嘆の声と共に、ナツキの胸に温かいものが込み上げる。

生きようとする意志がそこには確かにあった。

歓声が広がり、村人たちが駆け寄ってくる。


──しかし、次の瞬間。


【村人B】「あれ!?あの鶏、何か……光ってないか?」


驚きの声に誘われ、皆が目を凝らす。

鶏がついばんでいたのは、牧草の隣に混ざって生えていた緑スライム由来の薬草だった。

その体がぼうっと淡く光り始め、羽毛に艶が戻り、まるで若返ったかのように元気に跳ね回り始めた。


【リュウジ】「……薬草!?スライムの薬草か!?」


思わずリュウジが駆け寄り、鶏の様子を確かめる。

それは明らかに異常な──いや、奇跡的な回復の兆候だった。


【ナツキ】「まさか……薬草って動物にも効果あるの……!?」


まさに、生命を蘇らせる力がそこにあった。


【村人C】「みんな!薬草だ!家畜に食べさせるんだ!急げ!!」


歓喜と興奮が一気に広がり、村人たちは一斉に動き出す。

細心の注意を払いながら薬草を摘み、牛や鶏、豚たちへと運んだ。


蒸したイモでは口を開こうともしなかった牛が、薬草の香りに誘われて一歩、また一歩と動き出し、やがてむしゃむしゃとそれを口にした。

ガリガリに痩せて骨ばっていた体が、食べることで少しずつ力を取り戻していく。


【村人B】「すげぇ……立ち上がった……!こんなに早く元気になるなんて……」


【村人D】「豚も鶏も……全部だ。みんな、目が生き返ってる……!」


生き物の息吹が、村に再び戻ってきたのだった。

誰もが息を呑み、その光景に見入っていた。


【ナツキ】「……よかった、本当によかった……」


震える声でナツキが呟く。

頬にはいつの間にか涙が伝っていた。

それはあの日、何もできなかった自分に対する赦しの涙でもあった。


【リュウジ】「ナツキ、これは全部ナツキが“食べさせよう”って努力したからだよ!スゴすぎるよ!」


ナツキは驚いたように顔を上げる。


【ナツキ】「そ、そんな……私はただ……スライムたちの力があったから……」


【リュウジ】「いやいや!奇跡を呼ぶには“誰かの行動”が必要なんだよ!それがナツキだったんだ!」


真っ直ぐに向けられた感謝の言葉に、ナツキの胸が熱くなる。


二人は笑い合い、その姿に村人たちも自然と笑顔を浮かべていた。

希望が、確かにここにあった。


──しかし、その平穏は長くは続かなかった。


【村人E】「……リュウジさん、あれ……岩陰に……」


村の外れ、岩の影にひっそりと佇む影。

リュウジが目を凝らすと、そこには緑色の肌、小柄な体躯に短剣を構えた存在──ゴブリンがいた。


【リュウジ】「……アイツら…また襲いに来たのか……?」


けれど、その様子はいつもと違っていた。

怯えたような目、震える手足。

攻撃する素振りはない。

だが逃げもしない。


ただ、こちらをじっと──何かを訴えるように見つめていた。


警戒を解くことはできない。

だが、何かが始まろうとしている予感がリュウジの胸に芽生えていた。


──物語は、新たな出会いと試練へと進んでいく。

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