第11話「はじめてのコラボ、お姉さんとオスガキ」
ミルグラムのDM通知が、朝から鳴りっぱなしだった。
──「コラボしませんか?」
送り主は、【ルナ=ルミネ】という配信者。
声優っぽい低めの囁きボイスと、ゆるい雑談が人気の女性配信者だ。
実は僕も、こっそり配信を覗いたことがある。
リスナーからは“ルナ姉”と呼ばれていて、コメントにはハートや投げ札が絶えない。
「え、僕と……?」
戸惑いながらも返事を送ったら、
すぐに返ってきたのは、軽やかで優しい言葉だった。
「気になってたんだよ、君の声。
甘やかしたくなる感じっていうのかな」
(……完全にオスガキ扱いじゃん)
でも、嫌じゃなかった。
むしろ──
“姉系女子とオスガキの絡み”なんて、見たい側の自分がいる。
***
夜。
配信タイトルは【はじめてのコラボ!お姉さんに甘やかされる!?】
タグには「コラボ」「新人」「声の暴力」などが並んだ。
通話が繋がる。
「ん、あっ……こんばんは〜……」
「こんばんは。やっとお話できたね、オスガキくん?」
開始2秒でこれである。
コメント欄が爆速で反応した。
「オスガキ認定されたwww」
「ルナ姉すでにペース握ってる」
「開幕からニヤニヤ止まらん」
「声の温度差すごっ……好き……」
「いや、えっと……オスガキって、そんなはっきり言わなくても……」
「でも、そうでしょ? 自分でも、少し自覚あるんじゃない?」
「……そ、そんなこと……」
(ある、とは言えない……けど、否定もできない……!)
「ふふ、かわいい」
「この“かわいい”の破壊力」
「ルナ姉に飼われそう」
「逃げてオスガキくん(逃げる気ない)」
「これ神回確定じゃん」
「じゃあ今日は──オスガキくんに、ちょっとお姉さんの圧、かけていこうか」
「ちょっ……優しくしてって言ったじゃん!」
「ちゃんと甘やかすよ?でも、ちょっとからかうのは、お姉さんの特権だから」
ルナ姉の声は低くて艶っぽくて、それだけで空気が引き締まる。
でも、その中にある“優しさ”が、ちゃんと伝わってきて、安心する。
僕は自然と、声が甘くなるのを止められなかった。
「ねえ……そんなふうに言われたら、また調子に乗っちゃうかもよ?」
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「この二人やばい」
「攻め×オスガキって最高だったのか」
「マジで耳が幸せ」
コラボは1時間ほど続いた。
最後はふたりでリスナーのコメントを読みながら、まったりした空気で締めた。
「楽しかった、またやろうね?」
「……うん。また、甘やかしてよ?」
「ふふ。もちろん」
***
配信が終わったあと、僕はしばらく椅子に座ったまま、ふわふわした気持ちで空を見上げていた。
(ああ……なんか、楽しかったな)
いつもは独りで喋る空間に、誰かが“隣”にいた。
画面越しとはいえ、ちゃんとやりとりして、会話して、冗談を言い合って。
──声って、やっぱりすごい。
姿が見えなくても、こんなにも距離が近づけるなんて。
「……またコラボ、したいな」
自分の声が、誰かの声と溶け合う感覚。
それは、ちょっとだけクセになるものだった。
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