褒められすぎて、オスガキになっちゃった!?

すりたち

第1話「この世界、おかしくない?」

「……ん」


まぶたが重い。

光が目の奥に差し込んできて、ようやく僕は意識を浮上させた。


「……どこだ、ここ……」


見知らぬ天井。白くて、シンプルなLED照明がついている。

起き上がると、ベッドは柔らかく、包み込むような感触だった。

部屋は1Kくらいの広さで、机と椅子、テレビ、パソコン、クローゼット。住めるレベルには整っている。


だけど──ここは、僕の部屋じゃない。

どう見ても、見覚えがない。


「……夢?」


独り言がぽつりと漏れる。でも、どうにも現実味が強すぎた。

試しにほっぺたをつねる。痛い。

匂いも、肌触りも、空気の質感すらリアルだった。


「そういえば、あのとき──」


思い出した。

雨の中、横断歩道を渡っていて、いきなり目の前にトラックが飛び出して──


……あれ、俺、轢かれたよな?


「……転生?」


まさか、って思ったけど、これ以上ないほどそれっぽい状況だった。

夢にしては具体的すぎる。

しかも、目の前の机には新品同様のノートパソコン、スマホ、そしてゲーム機。

配信機材まで用意されている。


「準備よすぎない……?」


部屋をぐるっと見渡して、改めて自分の姿も確認する。

姿見の前に立つと、そこには黒髪の少年が映っていた。

ぱっと見は高校生くらい。でも、顔は少し整いすぎてる。可愛い系……だけど、男っぽいかっこよさもある。


「なんか……妙にバランスいいな」


どこか他人事のように呟く。

けれど鏡に映るその顔が、まぎれもなく“僕”の顔だった。


スマホを手に取る。なぜか指紋認証も顔認証も通った。

そして表示されたニュースアプリの見出しを見て、目を疑う。


『男性の人口、ついに100万人を下回る』

『男性保護法が改正、ナイト制度を新設』

『ストリーマーランキング:1位は“えちえちボイスの男の子”!』


「……なにこれ」


男の人口が激減? ナイト制度?

配信で男が人気? なにかの冗談みたいだ。


眉をひそめながらニュースを追っていくと、この世界の常識が少しずつ見えてきた。


──ここは、男女比が極端に偏った世界。

女が9割以上を占め、男は超がつくほどの希少存在。


そのため、男は「守られるもの」として扱われているらしい。

公共の場には男性専用シェルターやボディガード制度、法的な貞操保護まであるとか。


「……これ、俺がいた世界じゃないな」


ようやく確信した。


これは、転生だ。

それも、ファンタジー世界じゃなくて、現代日本のようでいて“貞操観念だけが逆転した”世界。


一通りニュースを見終えたあと、僕は半信半疑のまま動画サイトを開いた。

「男 配信」って検索してみたら──


──出てきたのは、信じられない光景だった。


「ね〜、今日もいっぱい見に来てくれてありがと♡

あっ、コメント全部読んでるからね〜。え? 今日の声いつもよりえっち? ふふっ、それ褒めてるの?」


配信画面に映るのは、僕と同じくらいの年齢の男の子。

顔は出してない。けれど、甘い声と、ちょっと小悪魔っぽい話し方で、視聴者の女性たちを完全に虜にしていた。


「声たまんない…」

「今日も癒された」

「オスガキ最高かよ」

「保護欲が爆発してる」


──オスガキ?


聞きなれない単語だった。でも、意味はすぐに察せた。

「男の子なのに小悪魔で、調子に乗ってる感じ」が“萌え”の対象になっているっぽい。


そしてコメントの量、視聴者数、投げ銭の額──どれも桁違いだった。


「……すげぇ」


思わず笑ってしまった。

こんな世界、現実じゃあり得ない。

でも、だからこそちょっと──いや、かなり興味が湧いた。


「……俺も、やってみたいかも」


自然と口からこぼれた言葉に、自分で驚く。

まるで、この世界に導かれてるみたいだ。


「この世界のことを知るために、やってみるってのも、悪くないよな」


そう、これは調査だ。

真似したいとか、オスガキになりたいとか、そんなのじゃなくて──


……たぶん。


僕はパソコンの電源を入れて、ゆっくりと椅子に座った。

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