第15話 Rewrite戦――この物語に名前をつけるのは誰?

 ゲームには存在しなかった、正解のないルート。


 セシリアは、目の前に現れた少女――“新しいヒロイン”エリスと向き合っていた。

 金糸の髪を揺らし、淡いピンクのドレスをまとった彼女は、あの《断罪イベント》を潰した日から、記憶の中のどこにも存在しないセリフを語っていた。


「わたしの記憶の中には、あなたがいないのよ」


 それは、ヒロインの顔をした“誰か”の言葉だった。

 彼女は誰で、なぜこのルートに現れたのか。なぜ、セシリアの知るエンディングを塗りつぶしていくのか。


 だが、それでもセシリアは、逃げなかった。


「……わたしは、この物語を自分で書いた。でも、書かなかったエンディングがある。だから今は――あなたと向き合うしかないのよね、エリス」


 淡い沈黙のなかで、エリスの視線がすっと細まった。


「“あなた”が書かなかったエンディング? その言葉の意味……あなたは、知っているの?」


 問いが鋭くなる。セシリアは一瞬、答えを躊躇った。だが、彼女の後ろには、今まで“救ってきた”攻略対象たちがいる。ゲームのルールを越えて心を通わせた、仲間たちがいる。


 そして彼女は、決意する。


「わたしは、この物語に“名前”をつける。誰かが書いた“ルート”じゃない。誰かの選択肢に沿うだけの“ゲーム”じゃない。わたしが――ヒロインであることを、自分で証明してみせる」


 その言葉は、決してゲームスクリプトには存在しないセリフだった。


 その瞬間、空が割れた。


 まるでRewriteボタンが押されたように、背景の風景が書き換わっていく。


 舞踏会の庭園が、瞬く間に霧の劇場へと姿を変える。天井のない幻想空間に、ひとつずつ、削除されたセリフの断片が浮かんでいく。


「Rewrite戦(リライトバトル)――開始を確認。記録されていないセリフと行動によって、エンディング候補が上書きされます」


 AIらしき声が頭上から響く。セシリアは拳を握る。


「やってやろうじゃない……物語の本当の主語が、わたしだってことを証明するために」


 霧のなかから、ヒロイン・エリスが再び姿を現す。その表情は、悲しみにも怒りにも似ていた。


「Rewriteなんて、してはいけなかったのよ。本当は……。でも、わたしも戦う。これは、“わたしたち自身の物語”のために」


 二人の少女が、互いの存在証明のためにぶつかる。

 スクリプトに書かれていない戦い。用意された選択肢のない決戦。


 名もなきラストを手繰る戦いの、幕が上がる。

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