第4話. 前兆の後に
シアが戦場に着くと、先槍の3人は立膝でしゃがみ込んで深く頭を下げていた。それぞれ桔梗の槍を地面に着けないように気を払って抱えている。
「あなた達がフォアボーテシア?」
「はいっ!」
3人は神の顔を見るのもおこがましいと、頭を下げたまま声を合わせてシアの問いに応える。
「そんなに構えないでいいよ。私はただの傭兵みたいなものなんだから」
その言葉に、先槍の3人は頭を上げてシアの顔を拝む。オルツは、普通の人のようなシアの姿に驚嘆を隠せないでいる。目の前にいるのは噂に聞いていた神とは違う、ただの人間の女性だ。
「ここまでリクシア王国を守ってくれてありがとう」
「生ける伝説であるシア様に労いの言葉をいただけるとは……。身に余る光栄です」
シアは段々と近づいてくる砂煙の中の魔道具をしっかりと視認する。
「あれを片付ければいいんだよね」
「はい。シア様にお願いするのは心苦しいのですが」
「いいよ。じゃあ、音と衝撃に気をつけてね」
フォアボーテシアは訳の分からないまま耳を手で押さえた。
シアは軽く右腕を水平に持ち上げた。そして左右に軽く振ると、手の先から砂煙の中央に向かう空間の全てが消えていった。魔法の障壁もシアの前では露と消えてしまう。
一瞬の静けさの後、耳をつんざくような爆発音と共に消し飛んだ空間に空気が勢いよく流れ込む。この時にできた空気の流れはうるさく立ち上っていた砂煙をあっさりと消し去る。そしてまた静けさが訪れる。
「これで終わった?」
「はい。シア様の圧倒的な力を持ってすれば、終わらせられないものなどありはしません」
シアがセレニオ村に戻ろうとすると、ファナティア勢いよく立ち上がった。そしてシアにゆっくりと近づいていく。
「あの……シア様! 私……シア様に憧れて生きてきました。こうしてフォアボーテシアになったのだってシア様のようになりたくて……。どうしたら、シア様のようにかっこよくなれますか?」
「あなただってフォアボーテシアの1人として、憧れられる存在でしょうに」
ファナティアは信仰する神を前に、ためらいもせずに言葉を求める。
「私はシア様の力を借りることしかで戦えなくて、シア様の存在には遠く及びません」
「どうしたらなんて……。あなたがしたいこと、正しいと思うことを貫けば何かしらの正解には辿り着く。そう思えば自分のやることに自信を持てるでしょう」
シアの曖昧な言葉を、ファナティアは自分の心に刻む。
「はい……。必ず、シア様に近づいてみせます」
シアはセレニオ村に瞬間移動の座標を決めて帰ろうとする。
「それじゃ、これからも頑張ってね」
「はい! リクシア王国のために命を尽くします」
シアは一瞬でその場から消え去り、先槍の3人だけが残された。緊張が一気に解け、言葉が溢れ出す。
「なんだあれ。噂には聞いてたが……すごいな。あれが崩壊現象か……。理論だけのものだと思っていたのに。それに、瞬間移動をついでみたいにあんな簡単にやられちゃ……絶対に敵わないな。神話よりすごい……」
「ファナティアはどうだ? 憧れの神様と話してみて」
アスラトは黙ったままのファナティアに問いかける。すると、ファナティアは俯いたまま口を開いた。
「自分の方向が定まりました。シアへの祈りでこの国を守ります」
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シアがセレニオ村に戻ると、フィオが大喜びで迎えてくれた。
「おかえり! どうだった? 瞬殺でしょ?」
シアがフィオの頭を撫でてやると、フィオはすり寄って甘えてくる。シアの脇にぴたりと寄り添い、子猫のように母の温もりに身を預ける。
「ただいま、フィオ。お留守番ありがとう。すぐに終わらせてきたよ」
村の外で待っていたジリアス達が村の中に入ってきた。
「わざわざ外で待ってたの? 村の中で待ってて良かったのに」
「私共は元々レクロマ様とシア様にこの上ない無礼を働いた者の子孫です。これ以上迷惑をかけるわけにはいきません。それなのに武器の支援だけでなく、このように戦いに参加していただいて……」
「いいんだよ。あなたはレティアと血も繋がってないでしょ。もうそんなことを気にする必要もないのに。あなた達はこの村に人間が入らないようにしてくれているし、私だってこの国を守りたい気持ちは変わらない。私の力を使いたいのであれば協力は惜しまないよ」
ジリアスも後ろの従者たちもシアに深々と頭を下げる。
「後学のために、シア様の下に屈したファレーン王国の兵についてもお教えいただけないでしょうか」
「お母さんじゃなくても、フォアボーテシアに聞けばいいのに」
フィオは嫌味に聞こえないようになるべく穏やかな言葉で聞く。シアはフィオの頭の撫でながら「良いよこれくらい」と言って話を始める。従者は簡単な筆記用具を取り出して書取りを始めた。
「歩兵の数は100くらいで少なかったけど、何個か変なのがいたよ」
「変なの……と言いますと?」
「絶縁の加工をされた金属の半球の中に何人か入って、周囲に魔法の障壁を作ってた。中の人間は魔力を見た感じ魔法が得意そうだったから、何人かで障壁を作って防御しながら魔法で攻撃しようとしてたんだと思うよ。フォアボーテシアの魔法を耐えながら近づいて攻撃しようって算段だったんじゃないかな」
フィオはシアにすり寄ってシアの意識を自分に向けようとする。シアは話しながら優しく構ってあげる。
「お母さんはフォアボーテシアも敵わないような奴らを一瞬で倒して帰って来たんでしょ。さすが、人間とは違うね」
「フィオもすぐにできるようになるよ」
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