第23話 女心と休みの予定
「ありがとうございました!」
琴平舞衣はお客に本を手渡すとにこやかな笑顔を見せる。それを横で見ながら流石だなぁと俺は感心していたのだが、お客が店から出たとたんにドヤ顔で俺を見てきた。
「どう!上手く出来てたんじゃないかな?」
その通りレジでの接客対応は問題ないどころか上手かったとすら思っている。思っているのだがこのドヤ顔を見せられると素直に褒めるのは何だか癪に障る。しかし俺が何も言わないからかなのか琴平舞衣は少し不安そうな顔をし始めてしまった。少し大人気なかったな。
「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫だ。
上手く出来てたと思うぞ」
「良かった〜!」
俺の言葉を聞いた琴平舞衣は安堵の声を漏らしすと椅子に座わり込む。そして俺の方を見ると
「もう!変な間があるから何かしたのかと思って不安になったじゃん!」
唇を尖らせて抗議をしてくる。まぁ初めてのバイトだし不安にもなるよな。ちょっと可哀想な事をしたかもしれない。
「すまんな。褒めるのに慣れてないんだよ」
俺は唇を尖らせている彼女の横に座りながらそんな言い訳をする。まぁ褒めるのに慣れないのは本当なので許して欲しい。
「なら私の事を沢山褒めれば慣れるよね」
「そうだな。俺が慣れるまで頑張ってくれ」
「すぐそうやって適当な返事する!」
何やらおかしな事を言い出したので適当に流したのだがそれがお気に召さなかったようだ。
今度は頬を膨らませてしまった。不機嫌の度合いがさっきより上がってしまったようだ。
「琴平さんがおかしな事を言うからだろ?」
「おかしな事なんて言ってないから!可愛らしいお願いじゃん!」
「可愛らしいお願い?」
「そうだよ!ほんとは褒めて欲しいけど恥ずかしいからちょっと茶化しちゃたんだよ。それくらい察してくれないと」
「え〜難解すぎない?」
「全然難解じゃないから!善通寺くんはもう少し女心を理解した方がいいんじゃない」
いつの間にやら俺が女心が分かってないという話になってしまった。しかし今の話を聞いて余計に分かる気がしなくなってしまう。
「そうだ!私が女心を教えてあげる!」
しかしそんな俺とは反対に琴平舞衣は何故か俺に女心を教える気になっている。
「いや、別に教えなくてもいいぞ」
「遠慮しなくていいから!善通寺くんには色々相談にのってもらってるからね。そのお返しだと思ってよ!」
そんなお返し要らないんだけど。俺は喉まで出かかったその言葉を何とか飲み込んだ。
ここでそれを言うと絶対にヘソを曲げるしな。
それに何かしらの理由を付けて譲らないような気がしたのだ。俺はため息をつくと琴平舞衣の申し出を渋々ながらも受け入れることにする。
「お手柔らかにたのむ」
「まかせてよ!」
しかし楽しそうにしている彼女を見ていると、まぁ別に何かあるわけでもないし良いかと思ってしまうのだった。
「そういや誘いを断ってから何かあったか?」
俺はふと気になったので聞いてみた。
上手く断れたのは知っているがそれ以降は特に聞いていなかったのだ。
「特に何にもないよ。楽しかったから今度は一緒に行こうってメッセージが来たくらいかな」
「なら良かった」
あっさりと言うのでどうやら心配する様な事はなかったみたいだな。
「他の日は誘われてないのか?」
「うん!連休中は全部バイトって事にしてあるからね」
「明日休みなのにか?」
「そう!嘘ついちゃったよね」
そう言って琴平舞衣は舌をチロっと出して笑っている。あざとい仕草なのに彼女がやるとそうは見えないから不思議なもんだ。
「まぁ良いんじゃないか。でもバレない様に気を付けろよ」
「分かってるよ!てか善通寺くんの休みは?」
「俺も明日は休みだよ」
まだ働き始めて3日目の琴平舞衣を1人で働かせる訳には行かないのでバイトに入るときは基本的に俺とセットになる。そうなると休みも一緒になるというわけだ。じゃないと俺が働き詰めになってしまう。
「善通寺くんも休みなんだ」
「そうだな。暫くは琴平さんが休みの時は俺も休みになる事が多くなる」
「そうなんだ!それで明日は何かするの?」
「明日は本屋巡りに行こうかと思ってる」
「前に言ってたやつだね。どの辺に行くの?」
「隣町に行くつもりだけど」
「なるほど、隣町にね」
そう言うと琴平舞衣は何やら考え込んでしまったのだが俺は悪い予感がした。予定もヤケに詳しく聞いてくるし、また何か変なことを考えてるんじゃないだろうな?
そんな事を考えていると悪い予感が当たってしまった。
「私も一緒に行くから!」
「はい?」
琴平舞衣がとんでもない事を言い出したのだ!俺は思わず疑問の声をあげるがそんな事などお構い無しに彼女は続ける。
「私も一緒に行くっていってるんだよ!」
「いや何でだよ?」
「前に約束したじゃん!」
確かに言ったけど、連休中にとは言っていないんだが?困惑する俺をよそに琴平舞衣は俺の方に身体を寄せてくる。この流れはまずい!そう思った時にはもう遅かった。
「約束は守ってくれるよね?」
そう言って上目遣いで俺を見てくる琴平舞衣を前にして俺は無言で頷いてしまう。
ほんとそれは反則だろ!満足そうな顔をしている琴平舞衣を見ながら俺は自分の不甲斐なさを嘆くのだった。
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新作になります。
完結目指して頑張ります。
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宜しくお願いします!
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