1-2カナリアの噂話(3) 噂の分類 名残、人払い、そして…
そう聞いた僕は察し、血の気が引いた。
獲物として見られる前提のもと気をつけよ、と。この依頼、命の危険があるのか?!それに一般人バイトを連れてきたって?それに…
「いや、何か、おかしくないですか。」彼はどこから突っ込めばいいか整理がつかない様子で少しうつむき、声がくぐもらせる。
何が?といった顔でこちらを振り向くシスイ。
「ヨモツ鬼灯が言ったのを聞いたろう?」
確かにそうだ、でも…
「おくらい様は、難を祓ってくれる善良な神様じゃないのか?」
「あぁ。対価を得て人に手を貸す
淡々と答える。
「生贄ってことだろう…?そんなの!」
と言いかけた時だ。
僕はこの時に見た彼女の顔を忘れない。
はっとして、本当に言葉が出てこなかった。
侮蔑でも憤怒でも悲哀でもない。
なんとも言えない、温度のない目をした彼女。
「君は、この世界は向いていない。」
―—少し早めの昼休憩をとることになり、手ごろな平地を見繕って2人で食事となった。
思い返せば、比較的おしゃべりな僕が黙っているから気を遣ったのかもしれない。
蓮見さんは「食え!」と笑顔でひときわ大きな肉を僕に差し出して、続けた。
「この世界に向かないのは、君だけじゃあないよ。」
ふと顔を上げて、彼女を見る。僕、さっきまでうつむいていたのか。
「大抵はそうさ。」
細い薪を2本追加して、火の端が少し揺れる。
「今回、強引に連れてきたのは悪かった。
私の思い違いだったようだ。依頼が終わったら、日常に戻りなさい。」
「そう、ですね……」
僕は、祖父に言われたことを分かっていなかったのだろう。
パチ!と薪が爆ぜる。
「…希望を持たせる気はないが、仕事だからね。
さっきの話の続きをしようじゃないか。」
シスイは今回の件で、カバタが持っている情報を再確認した。
「…うん、ニュースやネットで拾える情報はその範囲なんだね。君が平凡で助かる。」
「平凡て!」
悪意がないぶん厄介だ。突っ込みを入れるしかない。
「ごめんごめん!そういう意味じゃあないんだ、決して。ふふ」
意外と素直に謝ったあと、マイペースなシスイはかまわず進める。
「さぁて、面白くなってきたよ…!」
A5くらいの地図を豪快に地面へ広げるシスイ。
町の結界の外側まで示された地図。それも建築物が詳細に記されている。
「初めて見た…!」
市民はほぼお目にかかれない品で珍しいものだ。
所々にある赤いマーキングは鬼灯の発見場所だという。
「ふふ、先ほどやっと届いたんだ。まぁ急だったからね。」
なんだか勝ち誇ったような顔をしている。
僕の顔にいつ届いたのか?!とありありと書いてあるのだろう。
(なんか、悔しい……!)
ネットでも、鬼灯に会った場所の投稿はない。
僕も地図を見せてもらうと、マーキングは殆どが郊外にあった。
「僕も仕事柄あちこち走りますけど…畑の方が多いのに、人がいる場所に集中しているんですね~。鬼灯は道を歩いてきてるのかな?!」
…面白くなかったか。
シスイから先ほどの笑みが消える。
「君、気配には敏感な方だね?」
「あぁ、そうですね…。そう言われます。」キョトンとした顔で答える。
「よし、そろそろ移動を始める。片付けを頼めるかい。
あと道中、人の気配があれば教えてくれないか。」
「はい!」
シスイの意に反するだろうが、そう言われてカバタは少し元気になった。
ほどなく山歩き再開。
またシスイを先頭に縦一列で歩く。
(結局、あの地図を見て僕は何ひとつ推測を立てられていない。
蓮見さんは違うようだけど…)
山道まで覆いかぶさるように茂って垂れた枝の葉が、シスイの髪の端を撫でる。
カバタには彼女が注意散漫になっている様子が分かった。
「噂なんて、どこからか湧いてくる。そういうものじゃないんですか。
今はネットもありますし…」
カバタはなんとなく口火を切ってみた。
「そうさ、噂なんてそんなものさ。ふふ。でも、噂にも種類があるんだよ。
トンネルに入れば、どれかわかる。」
そう言って次に彼女はしゃがみ込み、道端の草をときどき触って歩いている。
話をしながら進んでいると、自分の足元にちらほらと石畳が見える。
石と石の間には雑草が入り込んでいる。…トンネルが近くなってきたのか?
「よし。蒲田、噂の種類について…聞くかい?」
そう聞いてカバタはシスイの方を注視して話を聞く姿勢に入った。
「私の持論だが、噂の種類は大きく分けて三つある。ひとつは—— 」
と指を立てて説明を始めた。
① ただの噂か、昔なにかがあった名残。
② 人払いのための嘘
③
「ひとつめは問題ない。大方、そこにいた神や妖たちは誰かに倒されたか、存在が消滅したと考えられる。人が寄り付かないから浮浪者がいることもあるね。」
「②は曰く付きの場所は都合の悪いものを隠蔽・保管するのに持ってこいだからわざと噂を流したりする輩のせいだね。何か問題があれば警察に任せればいい。まぁ、大概は人間がやっている事だ。」
次の瞬間、彼女の笑顔がまた消える。
「最後の③は、愚か者を大口あけて待っている輩がいるという事さ。わざと肝試しで使えそうな軽い感じの噂を流して、獲物を待つ。
だから、くれぐれもひと夏の思い出作りに絶対興味本位で行くものじゃあ、ない。それだけ、逃がさない算段が出来上がっている悪質なもんさ。ゆめゆめ、気を抜くなよ。」
「ひえぇ・・・」とカバタは思わず情けない声を出しそうになるのをぐっと堪える。
(僕は、この世界にふさわしくないかもしれない。
この前はあんなこと言われたけど、何の力もない。
けど、この人は放っておけない。
本当は寂しいのに強がって、それしか許されなかった女の子なんじゃないか。)
カバタは決意を新たに荷物を背負いなおし、シスイの傍に近づいて行った。
いつもより距離が近いため蓮見さんは一瞬戸惑うが、少し前と顔つきが違うことに気づいたようだ。顔の緊張を緩めている。
「ん?カバタ、頼りにしているy…」
「すみません、疲れたので休憩いいですか?
僕一人分の荷物じゃないので、いやぁ重くて重くて!!」
―—道の端に2人並んで腰をかける。
少し不思議そうに蓮見さんがみているが、流れに従ってくれている。
そして、荷物を整理するふりをしながら小声で伝える。
「右斜め後方15mくらいに誰かいます。ひとり。なにか大きな荷物を持ってる。」
僕は気配を感じた後、距離を詰めてくるか様子を見ていた。
確信し、情報収集のため昼食準備の時にわざと少しだけ近くに寄ってみた。
「嫌な感じは、あまりしませんでしたよ。かくれんぼに慣れている感じもない。
僕らとの間隔は守るけど距離感が近いし、少し近づいても変化はなかったです。
荷物が大きくて引っかかるのか、単に重いのか、俊敏さは……」
カバタはやけに静かなことに気づいた。
ふと目線をバックパックからシスイの方にやると、彼女は瞬きを忘れて驚いていた。
ようやく、「カバタ…君…すごいな。15mって。」
なんとかゆっくり言葉を絞り出すが、体は固まったままだ。
いつもどっしり構えて偉そうな彼女がそんな顔もするのかと、僕はしみじみと観察しておいた。
(おもしろいものが見られたな。)
改めて、カバタは特技としていわゆる“索敵”ができることを説明した。
「大したものじゃないんですけど…こういう環境なら25mいけますよ。
田舎の祖父に鍛えられたんです。祖父はもっと凄かったですよ、僕の倍くらいかな。」
照れくさい僕を見て、シスイはわなわなとしている。
堪え切れず「君のおじい様は、元特殊部隊の隊員かなにかかね?!なんか勲章もらってないか?!」と問う。
「普通の、優しいおじいちゃんでしたよ。」
カバタはにっこり笑って嬉しそうに答えた。
「君が…普通だと……?」
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