002-第1話:異世界転生のやり方はアレ②

「わたしね、勇者を探すなら――地球にしようって、ずっと前から決めてたの!」


「…………」


「だってね、優秀な勇者っていえば日本出身!

 しかも集合住宅に住んでて、職業は自宅警備員かヒキニート!

 これ、ラノベの常識でしょ!」


(……それ、どこのラノベ界隈の常識なんだよ。ほんとに、教えてほしい……)


なんて内心でツッコんでるうちに、当の本人がお約束のテンションで畳みかけてきた。


「わたしの言うとおりなんでしょ!? だよねっ、やっぱりそう思うよねっ!」


少女は満面の笑みで、念を押してくる。


「いや、そもそもここは集合住宅じゃなくて……学校だし」


「えっ!」


「それに、オレは勤労精神あふれる探偵で――ヒキニートじゃない」


(便利屋に片足を突っこんでる。……まあ、自覚はある、けどな)



***



「あれ? おかしいな……!?

 でもでも、この設定資料集にはちゃんと載ってるんだけど……?」


そう言って彼女が差し出したページには、こう記されていた。


『伝説の勇者』決定稿

・年齢:十七歳

・身長:178センチ

・体格:標準~やや細身。鍛えれば筋肉質になる伸びしろあり

・髪:黒髪、ややクセのある短髪

・瞳:黒

・顔立ち:整っているが、地味

・特長:生活感のある手指。背筋が自然に伸びている

・備考:転生後、食生活や訓練次第で“見違えるようになる”……かも?


……確かに、いろいろと特長を抑えていた。


ここに名前『仙ヶ道流せんがみちる』とでも書き加えれば、

たちまち、オレのプロフィールの完成形だ。


けれど、こんなの――

このあたりにいる同年代の男子なら、いくらでもいる。


このUFOの中を、埋め尽くせるくらいには、な。



***



「ところで、あんた――いったい、何者なんだ?!」


「わたし? あ、名乗りが遅れちゃった!

 ――わたしは、リアーナ。リアーナ・ルナリス!

 神界で二番目に愛されてる女神よ!」


少女は胸を張りながら、どこか誇らしげに名乗った。


「あなたには特別に! わたしのこと、リナって呼んでもいいよっ」


「いや、それよりも……オレを外に出してくれよ!」


「ダーメっ!」


リナは胸の前で両手をバツの字に交差させて、

ぶんぶんと首を横に振った。


「なんでだよ?!」


「だって、もう……ここまで来ちゃったんだもん!」


そう言って、リナは指を“パチン!”と鳴らした。


すると――

聖堂正面の扉が、大きな音を立てて開く。


「うそ、だろ……!?」


その先に、見えたものは――


「木……星……」


あれは、小学生のころ。

親父にねだって買ってもらった、望遠鏡で初めて覗いたあの惑星だった。


縞模様も、輪郭も、間違いようがなかった。

その木星が――


聖堂の扉の向こう、闇の中にぽっかりと浮かび、

オレの足元にまで、届くように広がっていた。



***



「だから、お願い……あなたじゃなきゃダメなの。

 わたしの“勇者”になってくれないと……!」


「絶対に異世界に行ってもらわなきゃ! だって、勇者転生ゲームで勝つには――

 “決められたアイテム”を取ってきてもらわないといけないんだもん!」


(異世界……勇者? この、オレが……?)


「ほしいのは――『ラストエリクサー』

 どんな傷も、病も、たちどころに癒す、神のしずく……」


リナは、そこでふと目を伏せた。


その名前は、オレも知っている。

ゲームでもおなじみの、あの最強アイテムだ。


――普通なら、ここは笑って流すところだ。

だって、そんなことを口にしたのは……こんな小さな少女なんだから。


けれど、このとき、オレの脳裏に――“あの子”の姿がよぎった。

澪理みおり。オレの妹だ。


「なあ、リナ。その“ラストエリクサー”ってやつ……

 地球の女の子にも、当然のように効くのか?」


「当たり前でしょ! 神界でも指折りのスーパースペシャルレアだもん!

 絶対に――あなたの望み通りの結果が得られるから!」


……その言葉は、まさにオレが聞きたかったものだった。


「わかった。

 それさえ取ってくれば、オレを地球へ――元の場所へ戻してくれるんだな」


「ええ!

 神界で二番目に愛されてるリアーナ・ルナリスの名にかけて、

 ちゃんと約束するわ!」


彼女は、力強く頷いた。


異世界に行くと思うから、現実味がなくなるんだ。

――いつもの探偵仕事の延長だと思えばいい。


「よし! じゃあ、やってやる! さあ、すぐに行くぞ! リナ……」


……変な間があいた。


「えっ? な、何を言ってるのよ……あなた……」


不穏な空気が、ふっと漂う。



*** つづく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る