お化け屋敷『オモウダケ』:夏がくれた奇跡

niHONno

第1章:夏の終わりの計画

じりじりと肌を焼くような8月の太陽。ほとんどの生徒が部活や受験勉強に追われる中、ゆうたたちの高校では、少し変わった伝統があった。夏休みの終わりに、高校生活最後の一大イベント――文化祭が開かれるのだ。夏の終わりの、最後の祭り。それが終われば、あとは卒業まで一直線。だからこそ誰もが、この高校生活最後の祭りに特別な思いをけていた。ゆうた、りく、みさきの三人は、クラスの企画の中心として、言いようのないさみしさを振り払うかのように、汗をぬぐいながら、とびきりのアイデアをっていた。


「最後だし、ドカンとでかいことやりたいよな」


りくが腕を組みながら言うと、みさきがキラキラした目でスマホの画面を差し出した。


「お化け屋敷とかどう? ただのじゃなくて、心理的なやつ」


そこにゆうたがニヤリと笑って、悪魔的なアイデアを付け加えた。


「テーマは――『思ったことが、現実になる部屋』。

こわいって想像そうぞうした瞬間しゅんかんに、それが目の前に現れるんだ。最高に怖くないか?」


「それ、本気でトラウマになるやつじゃん!」


りくが顔をしかめる。


「でも、面白そう!」


みさきのその一言に、周囲から「おもしろそうじゃん!」「やろうよ!」と声が上がった。

クラスの企画が「お化け屋敷」に決まり、全員が手元にある紙に企画名を書き、教室の隅に置かれた段ボール箱へと入れていく。

そして、ゆうたが投票箱とうひょうばこのフタを開けようとした、その瞬間、箱の中で「もさっ」と投票用紙とうひょうようしが動いた気がした。


「なんだ?」


ゆうたが首をかしげる。その時、箱のフタと本体のわずかな隙間すきまから、白い手がちらりと見えた気がした。


「…っ」


ゆうたは思わず息をのむ。しかし、目をらしてみても、そこにあるのはただの段ボールの影だけ。気のせいか。彼は特に気にすることなく、フタを開けた。そして、投票用紙を数え始める。「お化け屋敷」と書かれた投票用紙は、なぜかクラスの人数より一枚だけ多かった。


「誰かがいたずらで入れたんだろう」


その場にいた誰もが気にめることはなかった。最終的に「お化け屋敷」は満場一致まんじょういっちで可決された。お化け屋敷の名前は、ゆうたの提案で「オモウダケ」に決まった。


がらんどうの3年B組の教室。お化け屋敷「オモウダケ」と手書きの看板が掛けられたその場所は、ペンキの匂いと、微かな埃っぽさで満ちていた。

ゆうた、りく、みさきの三人が中心となり、かざけを始めた。美術部から借りてきたマネキン、家庭科室かていきょうしつ端切れはぎで作った不気味なカーテン、あえて光が届かないように配置したロッカー。


すべてが順調だった。


だが、その「思いつき」が、本当に現実を侵食しんしょくし始めるなんて、この時の彼らは知る由もなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る