対峙、思考、戦略

「さて、向こうはツヴァイに任せて……私はこっちを仕留めるか」


 アインスは、ブラウと対峙する。


「残念だったなぁ。あの大岩が現れたとき、お前は能力を発動させてなかった。つまり崖の上に他の誰かがいたのはわかっていた。俺たちに二度も奇襲が通用すると思ったか?」

「別に期待はしてなかったよ。一度目の奇襲で2人も倒せると思わなかったくらいだ。ふふっ、王国最強のエーデルブラウとは随分と大層すぎるかもしれないね」

「俺がブラウだと知ってて襲ったのか。もう少し頭の切れる女だと思ったが……」


 ブラウは唐突に、瓦礫がれきの山へと腰がける。

 彼の行動に、アインスは目を細める。


「……何のつもり?」

「わからないか?」


 ブラウは、ニヤリと口端を吊り上げる。


「まだ俺の出る幕じゃないってことだ」

「は?」


「……危ない! アインス!」


 離れた場所に立っているドライが叫び声をあげる。

 アインスは咄嗟に振り返るが──そこには誰もいなかった。

 しかし彼女の目の前を、ドライの放った矢が通過する。


「……は?」


 ドライは明らかに、敵に対して攻撃を行った。しかしそこには誰もいない。

 混乱するアインスだが、すぐにその理由はわかった。


「チッ」


 舌打ちとともに、誰もいなかったはずの場所に槍を持った男が現れる。まるで空間に絵が浮かび上がってくるように。

 ちょうどドライの矢が通過した、その少し奥のあたり。槍を構え、今まさにこちらに攻撃を仕掛けようとしていた体勢だ。

 男は、先ほどの落石攻撃で倒したと思っていたカールだった。

 ドライは、彼を狙って矢を放ったのだ。


「もう少しで殺せたんだけどなぁ〜」

「……」


 アインスは思考する。

 あのとき、国王像の岩陰から出てきたのは確かにブラウとゲオルクの2人だけだった。

 だけど、彼はいつの間にか私の背後を取っていた。

 今、目にした光景。

 そしてドライだけが敵の接近に気づけた理由。


「ふーん、なるほど」


 透明になる能力だ。

 ドライは聴覚強化でカールの足音に気づけたのだ。


「さっきはやってくれたね〜お嬢ちゃん。悪い子にはお仕置きしないと」


 すぅ、と息を吸うカールの体からバチバチと赤い光が放たれると、その姿はまた空間に消えていく。

 咄嗟にアインスが斬りかかるが、既にその場を離れたようで双剣は空を切る。

 ……妙だ。

 アインスは顔をしかめる。

 5秒よりも長く透明でいられるなら、あのギフトは持続型ということになる。

 なら、どうしてわざわざ姿を見せた?

 ずっと透明の姿でいれば、少なくとも私は状況を理解するのにもっと時間を要したはず。

 持続型の能力は、発動中に体力を消費するなどの制限がかかっていることも多い。

 つまり、能力を解除せざるを得ない理由があったということだ。

 あのギフトにはまだ謎が隠されている。

 それを紐解けば──



 対して、カールは身を潜め、思考する。

 あの女は俺の接近にまるで気づいてなかった。

 しかし弓矢の女は違う。明確にこちらを認識して攻撃を仕掛けてきた。

 能力は絶対だ。この透明になった姿は誰にも見えていないはず。なら考えられる可能性は1つしかない。

 カールは足元に視線を落とす。

 音だ。

 やつは、足音を聞き取ったのだ。

 おそらく奴の能力は聴覚強化の類か……天敵ともいえる厄介な能力だが、種が割れれば大したことはない。

 それならまずは──


 アインスとカールはこのとき、皮肉にも同じことを考えた。



 ──勝てる。

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