第11話

花火大会ってのは、本当に終わりが早い。

特に田舎の小規模の物とか。


勢いよく、花火が打ちあがる。

何個も何個も

連続で


ダイナミックに。


もう終わっちゃうの?

まだ始まったばかりなのに。


心臓がキュウと音を立てる。


私は空を見る。


目に焼き付けるこの景色を。


そして、こっそり、隣を見る。

花火に見ほれる君、


その横顔が花火の色に照らされて

とても

きれいだった。


空の花火なんかよりも

君の瞳の中で光る、花火に目が吸い込まれてしまう。


君の瞳が揺れた。


パチン


目が合う。


君がそっと、私の手を取った。


大きくって、骨ばって、堅い

でも、あったかくて、やさしい


そんな手。


放したくない。

離れたくない。


そんな一心で、私は君の手をギュッと握り返す。

君も、強く、でもやさしく、私の手を握り返す。


辺りが一瞬、シーンと静まる。


夜の静けさ、

時が止まったかのように、

冷たい風が二人の間を吹き抜ける。


ひゅるひゅるひゅる


一筋の光が高く高く昇っていく。


終わるな。終わってほしくない。

終わるな。終わるな。


私は、君の手をギュッと握って空に祈る。


芝生の草の匂い、

きらめく夜空の光。

涼し気な風。

君のぬくもり。


この瞬間のすべてが、

すべてがずっと、続けばいいのに。


ドン!


大きな音が辺りにとどろく。


「きれいだ。」

君が、そういう。


「ほんと、きれい。」

声が震える。

気が付けば、頬には一筋の涙が伝っていた。



7月7日の夜空に咲いた花はあっけなく散っていった。

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