Paradigm Beat!!

深海 紘

第0話 崩れた秩序(1)

戦争は、終わったんじゃない。

その形を変えただけだ。


21世紀後半。

世界は不況と局地的な衝突に喘いでいた。

特に日本は酷かった。

“戦後再度の混乱”そんな言葉がメディアを埋め尽くした。


国は、守れなかった。

法律は機能せず、治安は崩壊し、

人々は国よりも企業のロゴを信じるようになった。


そこに現れたのが、民間軍事会社。

治安維持、災害対応、時に内乱の鎮圧まで請け負う連中。

“契約”と“責任”で世界を守る存在。


やがて企業は、政治をも、教育をも呑み込み始めた。

国はただ、それを黙認した。

個人の自由はある。でも、選択肢は少ない。


働く先は国家じゃない。

巨大企業のどれかだ。

そこの傘に入れなければ、生き残るのは難しい。


現実は重すぎた。誰もがそれを直視するには疲れすぎていた。

だからこそ、人々は“作られた熱狂”を求めるようになった。


きっかけは、小さな試みだった。

民間軍事会社の訓練を“ショー”として公開する。

それに音楽と照明を加える。

気がつけば、それは競技になっていた。


銃撃と制圧、ライブステージ。

爆音と煙、レーザーと絶叫。

勝敗の興奮が、リズムとともに中継される。


ネットでは連日「どこかで何かが起きている」ような映像が流れ続けた。

誰が敵陣を突破したとか、どのパフォーマンスが世間を沸かせたとか

その大半は、演出された“虚像”だった。


現実かどうかは問われない。

そこに映るのは、派手な勝敗と、編集された熱狂だけ。


実際のところ、この時代の“強さ”とは

銃の腕でも法律でもない。

“画面の中に、どれだけの人間を釘付けにできるか”だ。


メディアこそが、最大の武器。

情報と映像を制した者が、世界を制す。


人々はそれに熱を上げ、

企業はそれを金に変え、

政治はただ、それを見ていた。


そうして生まれたのが、《LBS》。

Live Battle Survival。

ライブ・バトル・サバイバル。


“暴力の代わりにショーとしての戦い”を。

それが、現代のエンタメであり、

この時代の「正義」になった。


誰も死なない。

けど、敗者は大きな代償を支払う。

資金、契約、誇り、そして立場。


その舞台に立つのは、選ばれた者たち。

精鋭。スター。ヒーロー。


そんな世界とは、無縁だと思っていた。

自分が、その扉に立つまでは─

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る