第2話 モブ幽霊の倉敷さんはあなたの願いを叶えたい
②空き教室 (夕)
SE:扉が閉まる音
SE:鈴の髪飾りが鳴る音
「あっ、みーくん。待っていましたよ」
「急に消えたからビックリしたって? ふふっ、私は壁をすり抜けながら移動することができるんですよ。凄いでしょう?(得意げに)」
「……あ、そんなこと言ったらまたみーくんを怖がらせてしまいますかね」
「そんなことない、可愛らしい人だってわかったから……? もう、私は年上のお姉さんなんですよ。可愛いなんて言われてもそんな……まぁ、嬉しいんですけど(最後だけ小声で)」
「ところで、ようやくみーくんと普通にお話しできましたね。改めまして、よろしくお願いしますね?」
主人公、「よろしく、倉敷さん」と言う。
「あれ、『倉敷さん』呼びですか……。少し距離がある気がしますが……仕方ないですよね。みーくんにとっては出会ったばかりなんですから(寂しそうに)」
主人公、困ったように俯く。
「あっ、ごめんなさい! 困らせるつもりは全然なかったんですけど……ええっと、そうだ! そろそろ『みーくん』呼びの理由をお話ししますね?」
「……私、実はあなたと会ったことがあるんです。生きていた頃に」
「ふふっ、ビックリしていますね? 大丈夫ですよ、覚えていなくて当然のことですから」
「あれは今から二年前、高校二年生の時のことです。その日は修学旅行で、私も楽しみにしていました。ですが私は極度の方向音痴……。集合場所がわからずにうろうろしていた私に声をかけてくれたのがみーくんだったんです」
「道案内をしてくれた男の子。つまりは、道案内のみーくんってことですね」
主人公、唖然とする。
「何ですか? 思った以上に地味な関わりだった……。いやいや、私にとっては恩を返したい一人だったのですよ、みーくんは」
「あっ、駄目ですよ? ヒロイン幽霊さんと比べたりしたら。あちらは大きな目的がありますが、私は小さな恩を返すのがここにいる意味なんです。モブな幽霊ですけど、これが私ですから」
主人公、和水の手を握る。
SE:鈴の髪飾りが鳴る音
「わっ、どうしたんですか急に手を握って…………手を握って? す、姿が見えるだけじゃなくて、触ることまでできるようになったんですか……?」
「もしかして、みーくんが最後の人だから……(小声で)」
主人公、「最後?」と訊ねる。
「ありゃ、聞こえてしまいましたか。……そうなんですよ。私の記憶が正しければ、あなたが私の最後の人です」
「幽霊になってからの一年間、私は小さな恩を返す旅をしていました。例えば……そうですね。駅で落としものを拾ってくれた女の子がいました。ちなみに彼女は『えっちゃん』です」
「えっちゃんもそうですが、基本は鈴の音が聞こえるだけです。なのでひっそりと恩返しをした訳です。えっちゃんの場合は逆上がりの練習をサポートしましたね。……そうなんです、恩返しの仕方もすっごく地味だったんですよ(苦笑しながら)」
主人公、首を横に振る。
「そんなことない? ふふっ、ありがとうございます。みーくんは優しいんですね」
「そんな優しいみーくんに恩を返すために、わたしはここに来たんですよ」
「小さな恩を返す旅はこれで最後です。しかもみーくんは私の声が聞こえます。姿だって見えます。こうして触れ合うことだってできちゃいますし」
和水、主人公に近寄る。
「むに~(主人公の両頬を引っ張りながら)」
「みーくんの頬っぺた、意外と柔らかいんですね。可愛らしいです(囁きながら)」
主人公、驚いて後ずさる。
「あー……。す、すみません。調子に乗りすぎましたかね? 触れられるのが嬉しくて、つい……」
主人公、両手をブンブン振る。
「大丈夫、驚いただけ……? そっかぁ、だったら良かったです(ほっとしながら)」
「ですが、今はふざけている場合ではなかったですね。あなたに大切な話があるのですから」
「こほんっ」
「……みーくん。私、あなたの願いを叶えたいんです。小さな恩返しではなく、もっと特別な。……そしたら私、成仏できると思うので」
主人公、顎に手を当て悩む。
「あらあら、早速悩んでいる様子ですね? 無謀なことでも大丈夫ですよ。私がなるべく寄り添ってみせますから!(胸を張りながら)」
主人公、ますます悩む。
「あ、眉間にしわが……。もしかして私、自分勝手なことを言ってしまったでしょうか……。願いを叶えたいのはあくまでこちらの都合ですから(しょんぼりしながら)」
主人公、慌てて首を横に振る。
「違う? それなら良かったです……けど」
主人公、「倉敷さん」と呼ぶ。
「はい、倉敷さんですよ。何ですか?」
主人公、「倉敷さんの願いを叶えたい」というのが願いだと言う。
「え…………?(震えを帯びた声で)」
「私の願いを叶えたい。それがみーくんの願い……?」
「な、何を言っているんですかみーくんは。私はこうしてあなたとお話しできるだけでも充分幸せなんですよ?(戸惑いながら)」
主人公、何か夢はないのかと訊ねる。
「私の夢、ですか? そんなの……ない、訳ではないですけど」
「私、高校を卒業したら美容系の専門学校に進む予定だったんですよ。美容師になりたくて」
「だから無理なんですよ。夢を叶えるなんて、もう……」
主人公、「小さなことでも?」と訊ねる。
「小さな夢、ですか。それなら…………あるかも知れないです、ね。やってみたかったこと」
「でも、本当に良いんですか? みーくんの夢じゃなくても」
主人公、力強く頷く。
「こうして倉敷さんと話せるだけで幸せ……? 何ですかそれ。わっ、私達、ただの両想いってことですか?(焦りながら)」
「あーいやぁ何でもないですよ? 両想い? はて、何でしょうそれは(開き直ったように)」
「あのぅ……。本当に些細な夢なんですけど、お付き合いいただけるんですか?」
「とっても地味ですよ?」
「本当に……大丈夫ですか?」
主人公、呆れながらも頷く。
「すみません。念には念を入れすぎちゃいました(苦笑しながら)」
「でも……ありがとうございます(囁くように)」
「それでは、私の夢を叶えたいっていうみーくんの夢、一緒に叶えましょうねっ(声を弾ませながら)」
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