第12話 幼馴染を避けてしまった②
「ねえ、やっぱり何か隠してるでしょ」
――と、放課後に親友から問い詰められていた。
「な、なに急に」
「だっておかしくない? 梅原、もう帰っちゃったよ?」
「そ、それは、私が日直だったから」
「いつもなら『絶対待ってて』って帰らせないくせに?」
「うっ……それは……」
普段の私を知っているからこその疑問に、思わず言葉に詰まる。
確かに先週までの私だったら、幼馴染に先に帰らせるような真似はしなかっただろう。
記憶にある限り、ほとんど全ての放課後を一緒に過ごしていた気がする。
今日は私が日直で、どうしても放課後に日誌を書かなければならないという事情はあった。
それでも普段なら、
だからこそ、それを間近で見てきた梓からしたら、友達と一緒に教室から出て行った葵の姿に違和感を覚えたのだろう。
「喧嘩したわけじゃないって言う割には、梅原はともかく、夏帆の方はめちゃくちゃ避けてるように見えたけど」
梓という子は常に気怠そうな表情でマイペースな性格なのだが、他人のことには意外と鋭かったりする。
そういうところを少なからず頼りにしてきた面も多いのだが……。
「実は、葵に『彼女できた』って言われちゃって」
「……はあ?」
教室の真ん中で、梓が珍しく素っ頓狂な声をあげる。
幸い、放課後の教室にはもう誰も残っておらず、不審に思われたりはしていなさそうだ。
「梅原、彼女できたの?」
「……みたい」
「えぇ……? さすがに嘘じゃないの?」
もしあれが嘘だったら、どんなに良かったか。
梓の言葉に、私は首を左右に振る。
「うちの学校の人?」
「違うみたい」
「どんな人なの?」
「それが最近付き合い始めたっぽくて、写真も見せてもらえてないんだよね」
「じゃあ絶対嘘じゃん」
「でも、そんな嘘つく理由がなくない?」
「……まあ、そうかもしれないけど」
梓はそれでも納得できないのか、日誌を書いている隣でうんうん唸っている。
「例えばだけど、夏帆にいつも振り回されてるから、それから逃げるために嘘をついた可能性とかは?」
「無いんじゃないかな。ここだけの話、葵ってマゾだから嫌がってる素振り見せてても本当は喜んでるんだよね」
「まぢかよ」
期せずして親友から幼馴染への評価を下げてしまうことになったが、これも事情を説明するためには必要な犠牲だったと割り切ろう。
「もし本当に彼女ができてたとして、どういう経緯で付き合うことになったんだろ」
「んー、聞いた話では、なんとなくそういう雰囲気になって、なんとなく付き合うことになったんだって」
「すごいふわっとしてるね。まあ最近ならそういう付き合い方もあるのかもだけど。でもやっぱり俄かには信じがたいなぁ、梅原に彼女なんて」
尚も納得していない様子の親友に、私も思わず反論する。
「葵にも良いところはいっぱいあるんだよ。誰に対しても基本的に親切なところとか、私が好きなものを否定しないでいてくれるところとか、私が危ない時は助けてくれるし……」
「あー、ごめんごめん。別に夏帆の幼馴染を悪く言うつもりはないんだって。わたしだって、梅原が全くモテないとは思ってないよ。顔はそこまで悪くないし、運動も勉強もできるわけだからモテ要素は意外と多いと思ってる」
「それはそれでちょっと複雑なんだけど……」
親友がとてもめんどくさそうな視線を向けてくる。
「本人のバカさ加減が周知されてるのもモテない原因の一つだけど、やっぱり一番の原因は美人な幼馴染が常に隣に陣取ってるのが大きいよね」
「私の功績が大きいってこと?」
「どちらかと言えば功罪って気もするけど」
いつも以上に饒舌な梓もさすがに少し疲れたのか、小さく溜息をこぼす。
「まあそれはともかく、梅原に彼女ができたのは夏帆にとっても死活問題なんじゃないの?」
「ど、どうして?」
「だって今までみたいに梅原を独占できなくなるわけでしょ?」
親友の言う通りだった。
彼女ができた以上、幼馴染にとっての最優先事項は彼女になるわけで、私との時間が減るであろうことは避けようがなかった。
冗談抜きで死活問題である。
「あと、すっごい今更な質問してもいい? 梅原に彼女ができたって前提で話を進めてるけど、だとしたらなんで昨日デートしてたの?」
「ああ、それは私が『彼女と別れてくれるならデートしてあげる』って提案したの」
「……夏帆って、たまに凄いことやるよね」
「えー、そうかなぁ?」
「褒めてないから」
梓の言葉に、思わず眉を顰める。
「私にだって悪いことしてる自覚はあったよ? でも、葵は私の幼馴染なんだもん」
「略奪愛かぁ。いばらの道だ」
全くその通りである。
我ながらどうしてこんなことになってしまったのか、後悔しかない。
「あれ? でもデートしたってことは、梅原は彼女と別れることにしたの?」
「いや、別れる云々は無かったことになった」
「? じゃあなんでデートしたの」
「葵がデートに誘ってくれたから、だけど」
「……親友がチョロすぎる」
梓はため息まじりにそう言うが、幼馴染がデートに誘ってくれるなんてイベントは人生で初めてのことだったのだ。
あの機会を逃していたら、私はきっと一生後悔することになっていただろう。
「それであんなご機嫌な様子で、手まで繋いじゃっていたわけですね」
「早く朝見せてくれた写真送ってよ。待ち受けにするんだから」
「そんなに梅原が大事なら、さっさと自分から告白でも何でもすればよかったのに」
梓の言うことは尤もだ。
私だってここ数日の間に、何度自分から告白すればよかったと後悔したか分からない。
しかし、好きな男の子から告白されたいと夢見てしまうのが、女の子という悲しい生き物なのだ。
「告白されたいって気持ちは分からなくもないけど、それで他の人に取られてたら元も子もなくない?」
「良いの、葵のことは絶対に取り返すから」
「覚悟決まりすぎじゃん」
親友が珍しく驚いたような表情で、目を見開いている。
「まあ私としては、梅原に彼女ができたってのもイマイチ信じ切れてないんだけど。今までの二人を見てきた限りだと、梅原に他の女の子と知り合う機会があったとは思えないし」
「勘違いしてるかもだけど、私だって葵と四六時中一緒にいるわけじゃないんだからね?」
「端から見てる限りじゃ、いつも一緒な気もするけど」
確かに、葵と一緒にいる時間は家族を含めた誰よりも長い自信はある。
しかし、お風呂だったり、寝る時間だったり、どうしたって一緒にいられない時間は少なからず存在するわけで。
私としては出来ることならもっと一緒にいたいとは常日頃から思ってはいるが、そういうのはもっと関係が深まってからでいいと高を括っていたのがいけなかったのかもしれない。
「ちなみにだけどさ、もし万が一、梅原に彼女がいなかったら……どうする?」
「いなかったらって、どういうこと?」
「だから、彼女できたっていうのが梅原の嘘だったら、どうするのかってこと」
親友の言葉に、私も思わず口ごもる。
幼馴染に彼女がいなかったら、「彼女できた」という話が全くの嘘だったら。
そんなことはあり得ないけれど、あくまでたとえ話として考えて――――私はひとつの答えを導き出した。
「――――さすがに殺しちゃうかも?」
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