キノコ狩り
翌日、モネはラウルとエルドリアスと三人で狩りに行く約束をしていた。
授業後、集合場所である北門へ向かっていると、途中どこかから掛け声のようなものが聞こえてきた。
「そいや! はっ!」
どうやらそれはモネの行く先から聞こえてくるようだ。
嫌だなと思いつつ他に回り道もできないので、モネはそのまま廊下を進む。そして校舎から続く透廊下に出た瞬間、声の主と思しき青年と鉢合わせになった。
(わ……)
その青年は、なぜか上半身裸だった。プラチナブロンドの長い髪をうしろで三つ編みにして、おそらくは東方のものと思われる柄のズボンを履いている。顔立ちや瞳の色は東方の人というよりこの国の人間のものに思えるが、一体この青年は何者なのだろうか。
青年はモネと目が合うとハッとした顔になり、モネに近づいてきた。
「チェンリー バイ ミーイ イェン?」
発音からしてやはり東方の国の言葉のようであるが、意味はサッパリ分からない。
(異国の人……)
こんなとき社交魔人のラウルがいてくれればよかったのだが、残念ながら今は一人だ。かといってどう頑張っても異国の言葉など話せないので、とりあえずこの国の言葉で返事をしてみる。
「……留学生の方ですか?」
「ア? ああ、そっか。ここ
「あ、いえ」
「実はオレさ、この前まで夏后国って国に留学してたんだよ。んで、昨日この国に帰ってきたばっかでさ。まだ異国でのあれやこれやが抜けてねえんだわ。悪かったな」
「はあ」
モネはなんと返したものか分からずあいまいな返事をする。青年はそんなモネの反応を気にする様子もなく、うんと伸びをしながら言った。
「にしてもこんだけ体動かすとさすがに腹減ったなー。食堂ってどっちだっけ?」
モネが食堂への道をゆびさすと、青年は軽い調子で礼を言いさっさと行ってしまった。
(いったいなんだったんだ)
モネは首を傾げながら集合場所へと歩き出した。このあとまたすぐにあの青年と会うことになろうとは思いもせずに。
「お、やっと来た。珍しく遅いから心配したよ」
集合場所ではすでにラウルとエルドリアスが待っていた。
「すみません。おまたせしました」
「何かあったのか?」
「あ、いえ。少々、変な人にからまれまして」
「変な人? 大丈夫だったか?」
「ええ。悪い人では、なさそうでした」
「そうか。ならいいが……」
ラウルはそう言いつつもまだ気になっている様子だったが、モネが何も言わないので一転「よし」と背筋を伸ばす。
「それじゃ三人で初のクエストに行こうか」
「よろしくおねがいしまーっす!」
「おねがいします」
モネたち一行は学園裏にある北の森にやってきた。今回のクエストはキノコ狩りである。
「キノコ狩るだけとか楽なクエストっすね」
獣道を歩きながら、エルドリアスがあっけらかんと言った。
「おまえクエストの難易度ちゃんと確認してきたか?」
「え、キノコ狩りに難易度とかあるんすか?」
「モネ、教えてあげて」
モネはこくりと頷き説明をはじめる。
「今回とってくるのはフユウダケという名前のキノコです。それ自体もちょっと特殊なんですけど、一番厄介なのはそれが生える場所です」
「そんなヤバいとこに生えてんすか……?」
「まあ場所というか、フユウダケの生えるところには必ずと言っていいほど、ツラヌキツバメっていう厄介な魔物が生息してることが多いんです。そしてそのツラヌキツバメはフユウダケを取ろうとすると怒って攻撃してくるんです」
「うおぉ……じゃあ、そのなんたらツバメと戦いながらキノコを採らなきゃいけないってことか」
「そういうことだな」
とそんな話をしている間も、モネは辺りを注意深く観察していた。
「あっ」
モネはひとり道を外れ、雑木の奥に見えた大木へと走り出す。他の二人も慌ててモネの後を追ってきた。
「この大木の根元。あると思います」
モネは言いながら地面にしゃがみ込み、大木の根元の土を両手で掘っていく。すると。
人の頭ほどもある大きなキノコが姿を現した。
「うわ、すげー! でかいキノコ!」
とエルドリアスがキノコを引き抜こうと触れた瞬間。
すぽーん! とキノコが天に向かって飛んでいった。そしてそのまま宙に浮いて落ちてこない。
「フユウダケは引き抜こうとすると、飛んで逃げちゃうんです」
モネはさっと弓を構えると頭上高くに浮いているフユウダケに向かって矢を放つ。見事矢はフユウダケに突き刺さり、モネたちのもとへぽとりと落ちてきた。
「うお。さすがモネさん」
「ほんとはキズが着くからあんまり矢は使いたくないんですが」
「でも他に取る方法あるんすか?」
モネはポケットからメモを取り出した。
「これは、魔法の詠唱文?」
「魔物を捕獲するときに使う網を作る魔法です。フユウダケは一回しか飛び上がれないから、その一回を阻止できたらあとはもう逃げられない」
「なるほど。飛び上がるときに網をかぶせるんすね!」
「そう。では私とエル君でフユウダケをとって、ツラヌキツバメの方はラウルさん、お願いします」
「わかった。任せておけ」
「なんかワクワクしてきたっす」
こうして三人、役割分担してフユウダケ狩りに取り組むことになった。
モネが持ち前の嗅覚で土に埋まっているフユウダケを探して掘り出し、飛びあがろうとするフユウダケをエルドリアスが網で捕える。
キノコ狩りは順調。
だったのだが。
(おかしい)
静かすぎる。
「ツラヌキツバメ、全然現れませんね」
「ん? そうだな。俺たちは運がいいのかもな」
ラウルはのんきそうに言うが、モネは違和感を感じていた。
こんなにフユウダケが群生している場所なのに、ツラヌキツバメが一匹も現れないのは妙だ。
モネは自分の鼓動がだんだん速くなっていくのを感じていた。
(なにか、来る)
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