4 森のひと
歩道橋の階段を
腕時計のアラームが十一時を告げた。予想外の階段の
点字ブロックが途切れた先には、予想外の世界が広がっていた。地面は小石や砂、雑草や落ち葉の感触があった。周囲は枝や葉っぱの
(どこかの森に
いつもなら好奇心で一杯になり、
「何かが違う」
今日は、そんな気がした。
十一時半のアラームが鳴った。危険を
点字ブロックと森の入り口の
その時、森の方からゆっくりと近づいて来る人の気配を感じた。わたしは小さなリュックに掛けていたこうもり傘をつかみ、
「町のひと。われは敵ではあらぬ。ぜひ
森の方から聞こえる声の主が古風な口調で言った。
「持て
わたしは正直な気持ちを言葉にした。
「その白い麦わら帽子じゃ。われの
声の
「その行商人は、昨日から何も食べていないと言っていた。持て
わたしは
「お金の話で夫婦喧嘩をしていたのじゃ。信じてくれ。
声の主は
「で、わたしはどうしたらいい? このまま森の中へ入って、自分の家に帰れなくなったら嫌よ」
「大丈夫じゃ。お礼をしたら、必ず歩道橋の向こう岸まで送り届ける。約束じゃ!」
声の主の言葉を信じ、わたしはこうもり傘を仕舞った。そして声の主に
正午のアラームが鳴った。わたしはサンドイッチケースを開け、サラダサンドを口に入れた。
シャキシャキのレタスとピリッと
「お一つ食べますか?」
「よ、よいのか?」
「どうぞ」
ケースを差し出すと、即座に手が伸び、はむはむと食べる音が聞こえた。
「
お昼時だったので、既に食事の準備はしていたらしく、それほど待たずに出来立ての料理が並べられた。
「すごく
わたしが問うと、声の主は、旦那は夕方まで行商を続けているだろうと言った。
帰り支度をすると、声の主はきんぴらと煮っころがしの入った包みを持たせて言った。
「また遊びに来てくれ。次はハムサンドを持ってくるのじゃ。頼む。アポはいらぬぞ」
わたしは
声の主に
「すでに向こう岸までの料金は渡しておる。安心して帰るのじゃ。また会える日を楽しみにしておるぞ」
なぜか満ち足りない気持ちで、わたしはタクシーに乗り、声の主に別れを告げた。
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