第25話 信じる心
その手には、白木の小さな箱が大事そうに抱えられている。
「
彼は息を切らせながら、古びた巻物を龍胆様の前に広げた。
そこには、確かに
様々な薬草を調合する手順が記されている。
龍胆様は、その巻物を鋭い目で検分する。
「……ふむ。記されている内容は、理に適っている。これならば、確かに美桜の力を穏やかに引き出す助けとなるやもしれぬ」
「はい! 材料も、この善吉、命に代えて集めてまいりました!」
善吉が白木の箱を開けると
中には希少な薬草の数々が丁寧に並べられていた。
その全てが、巻物に記された通りのものだ。
疑うべき点は、どこにもない。
ただ一つ、箱の隅に置かれた瑠璃の小瓶を除いては。
中には、真珠色に輝く、とろりとした液体が一滴だけ入っている。
「……これは?」
龍胆様の問いに、善吉は待ってましたとばかりに答えた。
「それは『天涙(てんるい)の雫』と申しまして、あらゆる薬の効果を飛躍的に高める、伝説の霊薬にございます! 一滴だけでも、その価値は城が立つほどとか!」
その説明に嘘はない。
ただ、その小瓶の中身が
人の魂を喰らって熟成された【鬼魂華の蜜】であるという
たった一つの真実を隠して。
私は、善吉の懸命な姿に心を打たれていた。
私たちのために、危険を顧みず、これほどのものを集めてくれたのだ。
「ありがとうございます、善吉さん。本当に……」
「もったいなきお言葉! 全ては奥方様のため!」
彼はいつものように泣きながら
その実、
その夜。
龍胆様は、自ら
書斎で薬の調合を始めた。
その背中は、真剣そのものだ。
私も、彼の隣に座り、その手元をじっと見守っていた。
様々な薬草がすり潰され
清らかな霊泉の水と混ぜ合わされていく。
最後に、龍胆様は
「……本当に、大丈夫なのでしょうか」
私の不安げな声に、彼は優しく微笑んだ。
「案ずるな。私がそばにいる。この薬は、必ずお前の助けとなる」
彼の言葉が、何よりも私を安心させてくれる。
龍胆様は、小瓶から真珠色の液体を慎重に薬へと垂らした。
その瞬間、薬全体が、淡い金色の光を放ち始める。
清らかで、神々しくさえある光。
まさか、その源が、人の絶望と恐怖から生まれた毒であるなど
誰が想像できようか。
完成した薬は、小さな白磁の碗に注がれた。
龍胆様が、それを私の前に、そっと差し出す。
「さあ、
彼の瞳には、私への絶対的な信頼と
未来への希望が満ちていた。
その瞳を見つめ返しながら、私は碗を手に取る。
これから我が身に何が起ころうとしているのか、まだ知る由もない。
ただ、愛する人が差し出してくれたこの薬を
信じることに、何の迷いもなかった。
私は、そっと唇を濡らし
甘い香りのするその薬を、静かに飲み干した。
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