第20話 敵対男子学園《M.S.S.》、略して“とにかく凄いスクール”
補佐科自習室。
放課後の空気は重め。魔法少女科の美月真白が資料ファイルを閉じると、補佐科の小鳥凪(ことり なぎ)はソファの端でそわそわしていた。
「ねぇ美月ちゃん……《M.S.S.》って、やっぱり男子ばっかりなんだよね?」
「まあね。正式名称は『ミスター・スーパー・スクール』。中二病どころじゃないネーミングだから」
「えっ、ほんとにその名前なの!?ミスターって……いや、もう男子学園に男子乗せまくりじゃん……」
美月は肩をすくめる。
「とにかく凄い能力のある男子を集めた“対魔法少女研究拠点”って言われてる。
ステージ演出、魔導応用、感情操作。全部を“男子の能力”でブチ抜こうって魂胆よ」
凪は教科書の端に踊翼(おどり つばさ)の名前をこっそり書いた。
「たしかCOLOR†CLIMAXの踊翼くんって、《M.S.S.》所属だよね……魔法少女学園サイドから見ると、彼ってやっぱり強敵?」
「一応ね。“元ストリートダンサーで生粋のダンスの名手”って肩書きだし。本人も自信満々よ」
「……でも……あの融合変身体に見惚れて動けなくなってたけど……」
「そう。だから我が方では“敵陣営最弱”ってタグが付いてるわ」
「タグ付け!?辛辣ぅ……!」
美月はタブレットを操作し、COLOR†CLIMAXメンバーの一覧を見せた。
- 番組司会者志望のリーダー:打出克也(ウッチー)
- 役者志望の参謀:伊集院翔
- 太陽系お調子者:風鳴光流
- 悩殺ウインクの歌姫男:茅場ヒロ
- 最弱ダンサー:踊翼(推し評価:要調整)
「てかさ……あそこ全員、“男前を武器に感情干渉を試みる”ってスタイルだけど、あんた達みたいな補佐科の感情支援がないから、持久力ゼロなのよ」
「つまり補佐科って……推される魔法少女のための感情充填所なんだ……」
「そう。だから《M.S.S.》はたしかにとにかく凄いけど……凄すぎて“やらかし力”も高い。ときどき演出が本気すぎて、観客まで干渉されてるらしいわ」
凪は静かに頷いた。
「なんか……男子ってすごい。こじらせが力になる学園って、逆に尊い……」
美月は鼻で笑った。
「でもこじらせてる男子ほど、感情リンクに弱いのよ。だからあんた、次の戦闘で踊翼見たら……全力で推される気持ちで睨みなさい」
「え、それって……補佐科の戦術じゃなくて推し愛のぶつけ合いでは!?」
この日、小鳥凪は《M.S.S.》という“ミスターでスーパーでスクールな謎組織”の正体をほんの少し理解した。
尊さは時に暴走する。男子は時に推しに負ける。
舞台袖に立つ補佐科は――そのすべてを見守る術を、今日も磨き続ける。
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