第16話 氷龍とお別れ前のファイナルデート
学期末試験が終わり、3月の卒業式まで暇を持て余している。その時期に、氷龍は私を遊園地に誘ってくれた。それは、門垣市の新計画案の1つの考案にある、大きな新施設を2つ建築するという案。その考案には、一つはショッピングモール。そして、今回向かう場所が『プレフューチャー・ザ・アミューズメント』と題された未来をテーマにした遊園地だ。門垣市には、門垣駅と城郭駅の2つがある。この遊園地は、城郭駅にある。
電車のアナウンスが城郭駅をお知らせした。
「城郭駅、城郭駅。お降りの際は足元に注意してください」
私と氷龍は城郭駅に降りた。見渡す限り広いホームで、コンビニエンスストアが置かれているほどだった。
駅の地下に行くと、そこは人、人、人の3拍子。数百人の人が行き交えしていた。氷龍としばらく一緒に歩いていると、歩いている足元や壁、天井に冬から公開されていた『百花繚乱』の映画の映像が映し出されていた。そんな門垣駅とはまるで違う城郭駅。城郭駅の改札口の表示板が見えてきた。
「もうすぐだね」
私は遊園地に近づいているとわくわくして、その感情を氷龍に思わず言った。
「はい!どんな遊園地か楽しみです」
氷龍は私と最後のデートを楽しみにしているように声を上向きの方に当てて言った。
すると、私たちの感情を察知したのか改札までの道中の壁や空間にオレンジや赤、ピンクといった色のついた光が映し出された。その色は、行き交う人たちの感情を表わすように様々な色を成した。私はその光を辿って、改札口を通った。改札口には、「プレフューチャー・ザ・アミューズメントへようこそ」と表示された。私は胸を躍らせ遊園地へと向かった。
城郭駅を出ると、駅のターミナルの中央には遊園地行きの電車が待っていた。私たちは、二人で顔を見合わせて気分を高まらせて電車に乗った。
電車は、遊園地のテーマである未来を感じさせるほどのデザインが施されていた。青と水色のラインが電車内の基本カラーだった。
座席に座ると、見た目以上にふんわりとしていた。まるでクッションの上に常に体を乗せている感覚だった。
「氷龍、これ見て!すごい。座席がふんわふわだよ」
氷龍は、バランス感覚が掴みずらく体制を崩していた。
「なんですか。これ。すごい、すごいふわっふわしてて、、変な、、感覚ですね」
氷龍は通常の電車の座席のように座ろうとするせいで、電車が遊園地に到着するまで動いていた。
窓を覗くと、街が小さく見えた。電車は、地上に敷かれたレールから高く敷かれた橋にあるレールを走っていた。どんどんと高く昇って行って上昇するたびに体への負荷が来て少し気持ち悪かった。しばらく乗ると、ドンっと大きな音がした。私はなにが起きたのか窓を確認すると、正面にビルがあった。
私は焦り、姿勢を正そうと奮闘する氷龍に状況を伝えた。
「氷龍、まずいよ!もうすぐ、ビルにぶつかっちゃうよ」
氷龍は、動きながらも私の心配を払拭してくれた。
「大丈夫だ、、。この、、電車は、到着が、、、ビルの中なんだよ。それ、、で駅が、ビル内なんだ」
私はとぎれとぎれではあるが氷龍の言葉を聞いて、胸を撫でおろした。
電車は、ビルの中に突入し停車した。
ビルの中は全体的に暗く、稲妻が走るような黄色い光が目立った。その光は、壁を渡って下へ下へと落ちていっているように思った。
氷龍は、電車から降りるとすぐにその場で何度もジャンプしていた。
「どうしたの」
「電車に乗って態勢が崩れたので、戻してます」
私は氷龍がピョンピョンと跳ねている姿にくすりと口で隠して笑ってしまった。
エレベータは、緑の電灯が常時点灯されていた。それは複数のところで同じように点灯されていた。他に降りた人はそれぞれのエレベータに乗っていた。
私は氷龍に声を掛けた。
「氷龍、早くエレベーター乗ろう」
「すみませんね。やっと態勢が整えました。さぁ、行きましょう」
氷龍は申し訳なさそうに言い、私と一緒にエレベーター前に立った。私が乗ったエレベーターはさっき人が降りたばかりなはずなのにすぐに来た。エレベーターに入ると「プレフューチャー・ザ・アミューズメント」の遊園地案内が音声と映像付きで流された。紹介されたアトラクションごとに映像があった。
「ここは未来の遊園地をテーマにしたアミューズメント施設。一般的にある遊園地を未来風にアレンジしたアトラクションからこの施設限定のアトラクションがございます。未来アレンジ観覧車、その名も『アクア・フェリー・ウィール』。鏡ハウス、『スペース・ウィンドウ・スペース』。匂い香り立つ未来風コーヒーカップ『カップ・イン・カフェ』。そして、われわれ独自のものが『ジェットエア・スカイ・ハイビュー』です。おっと、もう出発の時間です。それでは、楽しんできてください」
エレベーターを出た後、私は興奮が抑えられず出口に向かって走った。すると、紹介されていたアトラクションが目に映った。大きく目立ったのは、『ジェットエア・スカイ・ハイビュー』だ。広いパーク内周辺を張り巡らせた形になっている。それと、『アクア・フェリー・ウィール』という未来アレンジの観覧車だった。水中のなかにあり、三重の円をカゴが規則的に行き交っていた。
「氷龍、ついに私は来たんだよ。本当にありがとう」
氷龍は、ビル内の自動ドアを通り過ぎて言った。
「雪芽さん、もっと落ち着いた方が良いよ」
私は興奮しながら言った。
「落ち着けないよ。もうすぐ、遊べるんだと思うとワクワクするよ」
氷龍は冷静に言った。
「まぁ、そうだよね。僕だってこの景色を見たら感動するよ」
私と氷龍が出たビルの外には、『門垣市ビジネスホテル』と書かれていた。ビジネスホテルを出て、氷龍と一緒に遊園地の入場所へと向かった。
氷龍は2人分のチケットを受付の人に見せた。
受付の人は、チケットを2枚とも確認した。そして、チケット2枚を正当の物であるかをチェックする機械に通した。すると、その機械は大きな丸を表示した。
「どうぞ!今日は存分にお楽しみくださいませ」
氷龍は私を見て言った。
「じゃあ、行きましょうか」
私は氷龍の顔を見て大きく頷いた。私と氷龍は最後のお別れ前のデートを楽しみに遊園地に向かった。
遊園地に入ると、あちこちになにかしらの映像を表示する棒が立っていた。入り口に入った後、すぐに電子マップがあった。そのマップには、すべてのアトラクションが表示されていた。
「雪芽さん、どこ行きたい」
「えーと、私は未来風鏡ハウスと、未来風コーヒーカップ、独自の『ジェットエア・スカイ・ハイビュー』、未来風の観覧車『アクア・フェリー・ウィール』に全部行きたい」
氷龍はマップをポチポチとタッチする。そして、氷龍は私の方を見た。
「では、雪芽さんが言った通りの順番で行きましょうか」
私は少し我儘が過ぎたのかと思って氷龍に言った。
「氷龍の意見は?わたしばっかでごめん。氷龍が持ってきてくれたチケットだし、今日が、、最後だし。氷龍の意見を聞きたくて、、」
氷龍は微笑んで私の頭をすりすりと撫でた。
「僕は構いません。雪芽さんが好きなものについて行くだけでいいですよ。本当に、雪芽さんは人と思いですね」
私は氷龍に頭を撫でられるのも最後かもしれないと思うと寂しくなった。氷龍の期待に応えられるように今日は楽しもう。
まずは未来風鏡ハウス『スペース・ウィンドウ・スペース』。建物からして立体的構造であることが想像できるほどだった。中に入ると、一軒家程度の家には想像できないほど広かった。入り乱れる鏡の空間は、鏡の中にいる私と現実の私がどちらが本物か錯覚させた。氷龍と私はそれぞれ左右に分かれる鏡に入った。10分の間で友達と合流することがお題になっていた。しかし、複数の鏡が私を幾重にも反射させ氷龍と会うのを困難にさせた。
時間が終了し、鏡の中にあったはずの鏡がすべて解除された。すると、対向に氷龍がいたことが分かった。
「氷龍そんなところにいたの?!」
氷龍は気まずそうに言った。
「はは、雪芽さんを見つけることができなかったです」
私と氷龍は、次のアトラクション『カップ・イン・カフェ』に向かった。
鏡のアトラクションを出ると、立っていた棒に左矢印が表示された。それはあちこちに立っていた「ガイドポール」とその棒に名前が刻印されていた。
氷龍は興奮したように言った。
「すごいですね。このガイドポールは。まさに、未来の遊園地ですね」
私はあぁそうなのか、と良さにはあまり凄さを感じなかった。だけど、氷龍がそう言うのならそうかもしれない。
私と氷龍はガイドポールに従って、『カップ・イン・カフェ』に向かった。
未来風のコーヒーカップは、青空の中で開催されるティータイムがテーマだった。そのため、日差しを避けるために差してある傘の下にコーヒーの入れ物が設置されてあった。まるで私たちも実際に参加している感覚を得た。グルグルと回る台座に乗っているコップは、コーヒーやアイスコーヒーなどの香りを漂わせていた。乗っている私たちもコーヒーを飲みたい気分になりそうだった。
7分間のコーヒーカップの後、味覚と嗅覚が凄く刺激されてレストランに立ち寄りたくなった。
私は昼食摂りたいことを氷龍に伝えた。
「ごめん。氷龍、私昼食にしたい」
「分かりました。ここらへんのレストランの場所を探っていきましょう」
氷龍はあっさりと承諾して、一緒にレストランを探した。私は腹の虫を抑えながら氷龍と行動を共にした。
『カップ・イン・カフェ』を少し離れると軽食が取れるカフェのレストランを見つけた。コーヒーカップから数分離れたところに位置していた。
氷龍は、カフェ系の昼食屋を指さした。
「ここにしましょう」
「私のためにありがとう、氷龍」
氷龍の行動は嬉しかった。氷龍ともっといたい気持ちが生じた。
コーヒーカップのアトラクションの近くには、それなりのメニューが販売されていた。ハンバーガーやクリームを挟んだメープル掛けサンドパン、フレンチトースト、ゆで卵。とカフェ系のメニューが豊富だった。優しい、温かみがある木材を使用していて、この場所にいて居心地が最高だった。
私は氷龍にメニューを表を渡した。
「氷龍、何食べたい?どうせなら、私が奢るよ。拒否はなしね」
氷龍はまいったという表情をして言った。
「では、お言葉に甘えて」
氷龍は私のお願いを聞いてくれた。少しでも恩を返したいから遠慮してほしくなかった。
「では、私はクリームサンドのメープル掛けサンドパンとコーヒー一杯にしますね」
私はパッドで氷龍の食事と私が頼んだミルクコーヒーとフレンチトーストを注文した。
床を見ると何かのレールが敷かれていた。上を見ても同じようにレールが敷かれていた。しばらくすると、注文した商品が床と天井にあるレールで移動する台に乗せられて運ばれてきた。
私は氷龍の分まで取って、食事を机の上に置いた。
「はい。どうぞ、氷龍」
「ありがとうございます。雪芽さん」
氷龍は綺麗に食事をしていた。ナイフを右手に、フォークを左手に持ちパンを切った。そして、ナイフを静かに置きフォークを取って食べる。
私は氷龍の動きを真似しようと、横目に見ながら私の手元を見て食べた。だけど、フォークの持ち手がおかしく、刺した食べ物が皿の上に落ちてしまった。
「食べ方ですか?雪芽さん、教えましょう」
すると、私の両手を氷龍が握り逐一フォークの持ち方、ナイフの切り方、そして切る際の手の動きを操り人形のように私を動かし教えてくれた。
恥ずかしくなって氷龍に言ってみた。
「あの、手が当たってます」
「こうしないと教えられませんよ」
急激に私は胸が締め付けられた。教えられた後、私は、店の反射する窓を見て顔が赤くなっていた。でも、氷龍の顔も少し頬のあたりが赤くなっていた。
私は席で支払いを済ませた。食事をし終えると、氷龍が先導を切って言った。
「次の、目的地『ジェットエア・スカイ。ハイビュー』のアトラクションに行きましょうか」
「行こう!」
私は一緒に向かった。
再び、「ガイドポール」に導かれたどり着いた。遊園地の独自のアトラクションに。
突然、私の背後に身に覚えのある人影が通り過ぎた。
「あれ、氷龍。今、絶対あり得ないんだけど。私の知っている人が背後に、、、」
「そんなことはないと思うよ、、」
氷龍はなんともないと言い、私の背中を押してアトラクションに向かわせた。
モノレールようにつながった飛行機型の乗り物に乗り込み、ジェット機の速さ並みに遊園地の周りを移動した。ほとんどは、施設の中を駆け巡りジェット機から見える景色を立体映像とともに観光する物だった。
ジェット機の速さに揺られて、少し気持ち悪くなってきた。乗り終えた頃はすでに日が落ち、空がオレンジ色を出していた。
氷龍は私の気持ちを察するように、最後の『アクア・フェリー・ウィール』と言われる未来風の観覧車に一緒に行った。
観覧車に向かいながら、氷龍は私に小さく言った。
「観覧車に乗ったあと、少し話すことがあるんだ」
「なに、話すことって」
氷龍は返答することはなかった。
観覧車に乗り込む前に、やはり後ろに私の知っている人の影を感じる。私は不穏に思い、氷龍にしがみつきながら観覧車に乗った。
乗った後、観覧車はゆっくりと動き出した。高く上った後、観覧車から人影が見えた。
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