ニート、《段ボール》を当てる

《デイリーガチャ・無料!》


毎日の日課。無感情な指が、いつものように画面をタップした。


ピロリロリーン♪


《段ボール》


「は?」


まったく期待を裏切らない、チープで地味な文字列が表示された。


ポスッ。


天井の上から音と共に落ちてきたのは、

まごうことなき――段ボール箱だった。


「……いや、段ボールそのままかよ」

「もしかして中身がすごい系? ほら、金塊とか、武器とか……」


そう淡い期待を抱きながら、段ボールを開けてみた。


「……は?」


中に入っていたのは――もう一個の段ボールだった。


サイズはさっきのと同じくらい。

それを取り出して、もう一度開けてみる。


また段ボールが入っていた。


「……え、なにこれ、マトリョーシカ式なの?」


無言で三個目を開けた。


――四個目が出てきた。


「ちょっと待て、これ延々と続くんじゃねぇの!?」


さすがにキリがないので、最初の段ボールに戻して片付けようとするが――


「……あれ?」


入らない。


「は? え、入ってたんだよね? 今、そこから出したよね?」


なぜか、さっき取り出した段ボールが、元の段ボールと同じサイズになっている。


「おかしいだろこれ! 中から出せたのにサイズ一緒ってどういうことだよ!!」


勢いよく突っ込むが、現実は変わらない。

しかもこの段ボール――妙に丈夫。紙のくせに、変にしっかりしていて、折り畳もうとしてもビクともしない。


「畳めねえし入らねえし、ただの嫌がらせじゃねぇか!!」


段ボールが増えるたび、部屋のスペースは減っていく。


「……でもまぁ、これがあれば段ボール買わなくて済むかもな」


少し落ち着いて考えてみれば、段ボールを無限に出せるって、地味に便利な気もする。

フリマとか始めたら最強かもしれない。


 


* * *


 


――後日。


「ねえ学、あの段ボールのやつ、私も使っていい?」


「え? ああ、別にいいけど」


 


その一言が、地獄の始まりだった。


翌朝。


「ちょっと姉貴!? なんで廊下まで段ボールだらけなの!!」


「すごい便利だねこれ! 収納ボックスにしたり、高さ合わせにしたり、DIYにも使えるし!」


「使いすぎだよ!! というかドア開かないんだけど!!」


「いいじゃない、夢のダンボールハウス計画ってことで!」


「やめろォォォ!!」


 


こうして家は、“段ボールに侵食された家”へと変貌していくのだった――。

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