クラフト・コネクト ~最凶バグエリアからの脱出~

ソコニ

第1話「バグって、クラフト!?」



 画面が真っ赤に染まった。

「は?」

 空見アオバは自分のスマホを二度見した。ついさっきまで表示されていた《クラフト・コネクト》のタイトル画面が、赤と黒のノイズで埋め尽くされている。

 今日は待望のARゲーム《クラフト・コネクト》のサービス開始日。学校でもみんなが盛り上がっていたが、アオバはいつものように一人で帰宅し、誰にも邪魔されない自分の部屋でゲームを始めたところだった。

「初日からバグかよ……」

 再起動しようとした瞬間――。


 ドゴォォォン!


 爆発音と共に、部屋が激しく揺れた。いや、アオバの体そのものが振動している。

「なんだ!?」

 視界が歪む。部屋の壁が砂のように崩れ、代わりに廃墟の風景が広がっていく。

 気がつくと、アオバは崩壊したビルの屋上に立っていた。

「ここ……どこだよ」

 周囲を見渡す。街全体が戦争でも起きたかのように破壊されている。空は血のように赤く、不気味な稲妻が走っている。

 スマホを確認すると、見慣れない警告が表示されていた。


【システムエラー:バグエリア侵入】

【生存確率:12.3%】

【警告:ログアウト不可】


「生存確率って何だよ!」

 冗談じゃない。ただゲームを始めただけなのに。

 轟音が響いた。振り返ると、道路を破壊しながら巨大な黒い塊が迫ってくる。電気コードが無数に絡まったような異形の存在。触れたものを片っ端から崩壊させていく。

「やばい」

 アオバは本能的に逃げ出した。階段を駆け下りる。後ろから破壊音が追いかけてくる。

「助けてええええ!」

 女の声が聞こえた。3階のベランダから、金髪の女の子が必死に手を振っている。

「こっち来ないで! 巻き込まれる!」

 女の子が叫ぶ。

「は?」

 アオバは困惑する。助けを求めておいて来るなとは。

「いいから逃げて! 私は――」

 女の子の言葉が途切れる。黒い塊――暴走ブレイカーが3階に到達した。

「ちっ」

 女の子が舌打ちして、スマホを取り出す。

「クラフト展開! エスケープボード!」

 空中に光が集まり、スケートボードが現れる。女の子は華麗にそれに飛び乗ると、ビルの壁を滑走し始めた。

「すげぇ……」

 アオバが見とれている場合じゃない。暴走ブレイカーがアオバのいる階段に迫る。

「くそっ!」

 必死に走る。しかし出口が見つからない。追い詰められる。

「そこの男子!」

 金髪の女の子がスケボーで横を通り過ぎる。

「掴まって!」

「え?」

「早く!」

 アオバは反射的に女の子の手を掴んだ。凄まじい加速。体が引っ張られる。

「うわあああ!」

 二人乗りのスケボーが廃墟の間を縫うように進む。暴走ブレイカーが執拗に追ってくる。

「重い! スピードが落ちる!」

 女の子が苛立ちを隠さない。

「悪かったな!」

 アオバも言い返す。

「左!」

 急カーブ。アオバの体が大きく振られる。落ちそうになる。

「しっかり掴まってよ!」

「やってるって!」

 暴走ブレイカーの触手が迫る。かわしきれない。

 その瞬間、横から青い光の壁が現れた。触手を弾き返す。

「間一髪」

 白髪の少年が屋根の上に立っていた。手には透明な盾を持っている。

「トウマ!」

 女の子が驚きの声を上げる。

「知り合い?」

 アオバが聞く。

「違う! でも有名人!」

 白髪の少年――トウマが冷たい目で二人を見下ろす。

「レベル1のゴミが二人。なぜ暴走ブレイカーに狙われている?」

「ゴミって何だよ!」

 アオバがムッとする。

「事実だ。普通なら即死している」

 トウマが飛び降りて、暴走ブレイカーの前に立つ。

「プリズムシールド、展開」

 巨大な光の壁が出現する。暴走ブレイカーの突進を受け止める。

「今のうちに逃げろ」

「でも――」

「邪魔だ」

 トウマの言葉は容赦ない。

 しかし、暴走ブレイカーは予想以上に強力だった。シールドに亀裂が入る。

「ちっ、レベル10相当か」

 トウマが舌打ちする。

「一人じゃ無理よ!」

 女の子が叫ぶ。

「手伝う!」

「不要だ」

 しかしシールドが砕ける。トウマが吹き飛ばされる。

「トウマ!」

 女の子がスケボーで助けに向かう。アオバも一緒に引っ張られる。

 暴走ブレイカーが三人に迫る。逃げ場なし。

 その時、アオバの右腕が熱くなった。

「熱っ!」

 見ると、腕に見知らぬ紋章が浮かび上がっている。青白い光を放っている。

「それは……まさか」

 トウマが目を見開く。

「リンク・ギア!?」

 女の子も驚愕する。

 暴走ブレイカーの動きが一瞬止まる。まるでアオバの腕を警戒するように。

「なんだこれ」

 アオバ自身が一番困惑している。

 紋章がさらに強く光る。暴走ブレイカーが後退りを始める。

「効いてる!」

 女の子が興奮する。

 しかし次の瞬間、暴走ブレイカーが咆哮を上げた。今までの比じゃない破壊的な音波。建物が砕ける。

「やばい!」

 三人は必死に逃げる。アオバの腕の光は、暴走ブレイカーを刺激しただけだった。

 廃ビルに逃げ込む。階段を駆け上がる。屋上に出る。

 逃げ場なし。

「飛ぶしかない」

 トウマが冷静に言う。

「は?」

「隣のビルまでジャンプだ」

「無理だろ!」

 アオバが叫ぶ。

 暴走ブレイカーが屋上に現れる。

「3、2、1」

 トウマがカウントする。

「ジャンプ!」

 三人同時に跳んだ。

 届かない。落下する。地面が迫る。

 アオバの腕が爆発的に光った。

 場面が切り替わる。

 三人は別の場所に立っていた。公園の廃墟。

「テレポート……?」

 女の子が呆然とつぶやく。

「いや、ランダム転移だ」

 トウマが分析する。

「リンク・ギアの暴発。制御できていない」

 遠くで暴走ブレイカーの破壊音が聞こえる。

「とりあえず助かった」

 女の子がへたり込む。

「あ、自己紹介がまだだった。小日向ユズ。小6」

「空見アオバ。同じく小6」

「白石トウマ。中1だ」

 トウマは相変わらず冷たい。

「それより、なぜリンク・ギアを持っている?」

「知らない。勝手に出てきた」

 アオバは正直に答える。

「都市伝説が実在するとは」

 トウマが腕組みをする。

「利用価値はある」

「利用価値?」

「バグを倒す道具としてだ」

 トウマの目は、アオバを道具として見ている。

「ちょっと! 人を何だと思ってるの!」

 ユズが抗議する。

「戦力だ」

 トウマは悪びれない。

「このバグエリアで生き残るには、使えるものは全て使う」

「最低」

「構わない。私は生き残る」

 二人の間に険悪な空気が流れる。

 アオバは自分の腕を見つめる。リンク・ギア。これが何なのか分からない。でも確かなことが一つ。

 このままじゃ、生き残れない。

「協力しよう」

 アオバが言う。

「は?」

 ユズとトウマが同時に振り返る。

「一人じゃ無理だ。さっき証明された」

 アオバは続ける。

「俺にはこの変な力がある。ユズは機動力。トウマは防御力。組めば生き残れる」

「……理にかなっている」

 トウマが認める。

「でも信用できない」

 ユズが警戒する。

「信用しなくていい。利用し合えばいい」

 アオバは割り切った。甘い考えじゃ生き残れない。

 三人は顔を見合わせる。

 信頼なき協力関係。

 でもそれでいい。生き残ることが最優先。

 遠くで爆発音が響く。この街にはまだ多くの脅威が潜んでいる。

 三人は歩き始める。

 バグエリアの夜は長い。

 そして、これは始まりに過ぎない。

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