第2話
カムイの写真を撮らせて貰う。ウルフドッグによくあるシャイ気質は感じられず悠然と佇んで写真に収まっていた。触っても反応せずに居たのでゆっくり身体を撫でる。蓑(みの)のようにゴワゴワしたオーバーコートの下には綿のようなアンダーコートがあった。触り心地はオオカミのようだった。
しばらくしてカムイを車に乗せるとちょっと話でもしましょうと、道の駅の食堂に入る。
お互いにウルフドッグを飼っていて、県内の人間であるという親しみも感じて、夢中で喋った。
三島さんはアラスカでオオカミに魅せられ、現地のウルフドッグブリーダーを訪ねた。そこには純粋なオオカミもいて販売されていた。アラスカでは州法でオオカミやウルフドッグの飼育や取引は禁じられている。多くのブリーダーは規制の無い地域に移住したと言う。しかし大手ケンネルは数も多く終生飼育をするという特例措置で飼育が許されていた。
三島さんはどうしてもオオカミが欲しくなった。金額を聞くと驚くほど安い。しかし購入も輸出も出来ないのでは無いか?そう思っていたが「これはオオカミでもウルフドッグでも無い、ハスキーだよ。ちゃんと獣医師の証明書も付ける」
そう言われて、三島さんは心に決めた。そうして若いオオカミの中でも1番小柄な雄を購入した。しばらく自宅で鎖に繋ぎ飼育していたが、犬ではなくオオカミ。年齢が進むにつれて段々と扱えなくなって来た。オオカミの血は散歩を拒み、ドッグフードは食べずに生肉を欲しがり、近所に牧場があるので万が一逃げられたら大変だとようやく気がついた。自分が欲しくて飼ったけど衝動買いだったので後先考えていなかったのだ。そこで動物園に電話をした。
「あのーうちにオオカミがいるんですけどそちらで引き取って貰えませんか?」
「えっオオカミ飼ってるの?特定動物の許可は?」
「そんなのがいるんですか?」
「当たり前ですよ。違法じゃないですか。どこで入手したんですか?!」
動物園から矢継ぎ早に聞かれて怒られた!と思った三島さんは電話を思わず切ったらしい。
私はオオカミの入手の経過があまりにもすごくて思わず声を出して笑ってしまった。三島さんは悪意はないのだ。でも計画性もない。
「それでオオカミはそり犬の業者に行ったんですか?」
「前からの知り合いで一緒に仕事もしたことある人だし近くには民家もない、雪国の深い場所だからキングも幸せだろうと思ってね」
なるほど。私は以前、キングの写真を偶然ネットで見てその美しさに惚れてオーナーの松山さんにメールを出した。そうしたらキングの息子のカムイが秋田県に居ると教えて貰い、三島さんを紹介された。その縁で今回、カムイを見せて貰ったのだった。
「ところでオオカミってアラスカだといくらするんですか?」
「普通のオオカミは10万円。黒オオカミは20万円。」
「へー!随分安いんですね!?」
これは私でも衝動買いしそうな値段だ。
「でも輸出までの飼育費や獣医師への謝礼、空輸代含めるとやっぱりそれなりに掛かるよ」
そうまでして、輸入したオオカミをあっさり人に渡しちゃうっていうのが私にはよくわからない。
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