第10話 交渉
「本当に、兄上の詰めが甘くて助かりました」
第一王子派閥は、アイベルクが儀式に気取らぬよう、細心の注意を払っていたはずだ。ここの警備も、鏡花達を閉じ込めるよりも、アイベルクを近付けないことが主たる目的だろう。
それらを出し抜き、鏡花達に接触したということは。第一王子派閥内に、味方を潜り込ませているのだろう。
権力者の戦いって怖い。鏡花は無言で腕をさすった。
「アイクの一番の目的は、僕達に接触して、スキルを調べたいって事でいい?」
「えぇ。接触できればどちらでも良かったのですが。ケイ達の方が楽だったので」
第一王子が横に貼り付いている勇者達よりも、鏡花達の方が交渉の余地があると考えたのだろう。
事実、鏡花達が離宮から出るには、アイベルクの手を借りる以外に術はない。
「で、他にも目的はあるだろう」
「勿論です。話が早くて助かります」
わざわざ顔を出した甲斐があります、とアイベルクは頷いた。
スキルの協力要請だけなら、本人が来る必要はない。鏡花達に大した選択肢はないのだから、部下を寄越して交渉させればいいだけだ。
今から話す内容について、協力できる相手なのか。見極める為に足を運んだのだろう。
「馬鹿を味方にすると、痛い目を見ますからね」
「性格悪いな」
「御門くんが言う?」
御門は無言で輝夜を睨んだが、輝夜も慣れているので微笑みを返す。歯に衣着せぬ物言いをするので、聞いている方はハラハラするが意外と仲が良いのだ。
コホン、とアイベルクが咳払いをして、本題を切り出した。
「話を戻しますが、私の要求はスキル研究のための協力。具体的に言えば、血液や髪などの提供とスキルを使用した際の情報が欲しいと思っています」
第一に身体的な差異がないかを調べ、その上で実際にスキル発動時の現象解明を行いたいのだと、アイベルクは言う。
「魔法とは、体内の魔力を操り、自然の原理に働きかけるもの。この世界の人間は、器の差はあれど体内に魔力を貯める器官があります」
一般的には、心臓の近くに魔力器官があるらしい。ちらり、と三人が御門に視線を向けたが、そんな器官はないと断言された。
「身体的差異は俺も気になるが、流石に体を切り拓くことは不可能だ」
「理解しています。まずは、血液や髪に魔力が含まれているのかを調べたいのです」
その程度なら、と御門が頷く。ただし、結果も教えてくれと、好奇心を隠しきれていない。
「スキルの現象解明はどうするつもり? 見ての通り、僕らは閉じ込められてるし、スキルによっては使えないと思うけど?」
鏡花が使った【無感動】なら、防御壁の大きさを気をつければ室内でも使えるだろう。しかし、他のスキルが室内で使える保証はない。
勇者が持つスキルのように、攻撃的なものを室内で使えば危険だろう。下手をすれば怪我人が出る。
「その件ですが、可能でしたら勇者達より早く、魔王を討伐して欲しいのです。勿論、協力は惜しみません」
失敗しても、アイベルクはスキルのデータが取れる。成功すれば勿論、第一王子の功績を奪う事ができる。
そうでなくとも、鏡花達が魔王討伐に貢献すれば、支援していたアイベルクの功績にもなる。
アイベルクの利益は明らか。だが、鏡花達の利益は薄い。
「そこまでの危険を冒す理由がないな」
「アイクが介入せずとも、離宮で最低限の生活はできそうだからね」
「まぁ、兄上の性格からして、勇者達の予備として飼い殺しするでしょう」
しかし、勇者が成功すれば、秘密裏に葬られる可能性もありますよ。そう言われても、戦闘も旅も経験がない鏡花達が、魔物と戦う方がリスクが高い。
他の条件を呑んで、離宮から出てアイベルクの庇護下へ移動する。その辺りが落とし所だろう。
魔王討伐には、派閥の騎士達を送り込めば良いだけで、鏡花達には関係がない。四人で小さく頷き合い、断ろうと思ったところで。
「魔王を倒す事が、現時点では元の世界に帰る為の、唯一の方法だとしても。引き受けてもらえませんか?」
アイベルクは、鏡花達の返答を遮るように、そう言った。
「…………どういうことだ?」
「言葉の通りです」
現時点では、元の世界に帰る方法は確立されていないらしい。昔は、魔王討伐後に帰還の儀式を行なっていた記録があるが、方法については意図的に情報が消されているのだという。
何のために情報を消されたのかは、想像に難くない。魔王を倒すほどの戦力である勇者を、手放したくなかったからだろう。
「私なら、禁書庫の記録を探せます。召喚の儀に使った魔法陣を解析すれば、手掛かりは掴めるでしょう」
召喚ができるなら、逆もできる可能性は十分に有り得る。それは、魔法を知らない鏡花達でも理解できた。
「だから、魔王と戦えと?」
別に、私も積極的に戦って欲しいわけでは有りません。アイベルクはそう前置きをした。
「魔王を倒し、その魔力を全部注ぎ込まなければ、帰還の魔法陣は発動しません」
世界を渡るには、膨大な魔力が必要ですから。その説明に、鏡花は思わず、成程と頷いたのだった。
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