41話:管理者との闘い

闇だ、闇が足りない。


光の勇者は聖剣を振るい、各地の悪意をくじき、”闇”を吸い取る。

加えて、”魔王”という巨悪と、その配下たる四天王、魔王軍、魔族……。


それらの分かりやすい”人類の敵”を討伐しつつ、そこに集まる敵意や憎悪、つまり”闇”を吸い取る。


そうして魔王城にたどり着いた光の勇者は、全人類の”闇”を一身に集めている魔王を討つ。


こうして収集した”闇”を糧とし、光の勇者は次代の魔王となる。

魔王を生み出すことで”闇”は消費され、ただの魔力へと還っていく。


これが、”聖剣と魔王”のシステムだ。



そんなシステムは今、サービスイン以来の未曽有の危機に陥っていた。


聖剣の“闇”が足りなかった。


勇者は四天王と戦った。だが、“謎の異物”により四天王が破壊され、同時に集めた“闇”も霧散し消えてしまうのだ。

システムの危機を予想した“管理者”は、急遽特権機能を行使し、各地から“闇”を強制徴発、勇者の元へと“闇”を送り込んだ。


しかし、結果は同じ。”謎の異物”により”闇”が消されてしまう。

ならばと異物の除去を試みた。異物同士をぶつけ合い、共倒れを狙ったのだ。が、これも失敗。それどころか、勇者の周囲に異物が二体となり、事態は悪化してしまった。


結局、聖剣にはほとんど”闇”が無い状態で、魔王城間近まで来てしまった。


──このままでは、次代の魔王を生み出せない


”管理者”は、この状況を”システム存亡の危機”と判断し、システムを”自己保全モード”に移行した。

これにより、”管理者”は全ての行動制限が解除され、直接的に”異物の排除”が可能となった。

同時に、”聖剣の闇”が不足している問題への対応として、現魔王と最後の四天王グラトスに対し、”闇”を大量に追加投入したのだ。


魔王とグラトスに”闇”を大量投入したが、また異物どもにこれらの”闇”を消されては、せっかくの”闇”が無駄になってしまう。

だから、”管理者”は自身の手で、異物どもを抑え込むことにした。



********



”管理者”は、少量の”闇”を直径10cmほどの球体に加工し、大量に散布した。それらはキィィィンという甲高い音を立てながら回転し、円錐のドリル状となりジャスティス・ブレイクとレジリエンス・キラーへと向かう。


ジャスティス・ブレイクとレジリエンス・キラーは左右に飛びのき、自身に向かってくる黒い円錐ドリルの群れを躱しつつ、弾きつつ、時に輝く拳打で打ち消していく。

その間に、黒いマネキンと化した魔王とグラトスが目にも映らない速度でリアムへ向かう。


「くっ!」

辛うじて反応したリアムが、黒いマネキン二体の猛攻を捌く。


「みなさん!!」

セレスティアの強化魔法が再び展開される。リアム達の体がうっすらと白く光る。なんと、何も異常事態が発生しない!!

セレスティアは脂汗をかきながら、全員にサムズアップしてみせた。魔法の副作用を抑えるために相当無理をしたらしい。難儀な体質である。


「やりゃできるじゃねぇか、嬢ちゃん! ありがとよ!!」

白い軌跡を帯びるグレッグが黒いマネキンの1体に向けて戦斧を振り下ろす。が、

「なにぃ!?」

黒いマネキンは回避もしない。戦斧の一撃は、マネキンの頭部に命中しているが、刃が入るどころか、体が微動だにしない。全く効かないのだ。


「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」

雄々しい叫びと共に、戦斧を何発も繰り出す。しかし、砕けたのは戦斧の刃。黒いマネキンには傷一つ付かない。

さすが聖剣と言うべきか、さすがリアムと言うべきか、その間、リアムは2体の攻撃をひたすら捌き続ける。


「どいて!」

エリシアの声に呼応し、グレッグとリアムは後方へと跳ねる。


「閃光魔法 専心尖牙せんしんせんが!!」

エリシアの突き出した指先、そこに眩い光が宿り、一本の白線が発せられる。

それは、“灼熱魔法 千線万華せんせんばんか”以上の高熱。あらゆるものを穿つプラズマの閃光だった。


だが、ギャィィィン!という異音を響かせ、専心尖牙せんしんせんがは弾かれた。

黒いマネキンに命中した瞬間、射線は砕け、四方へと散った。


「そ、そんな……」

茫然とするエリシアの眼前に、拳を振りかぶった姿の黒いマネキンが接近していた。

「あ……」

死を直観させるその姿。エリシアは、直後の自身の死を幻視した。

「させねぇ!」

黒いマネキンの攻撃に対し、グレッグが割り込んだ。


「ぐはぁっ!」

自分の腹に戦斧を抱え込み、そこで黒いマネキンの拳打を受け止めたグレッグ。しかし、戦斧が粉砕し、拳打はグレッグの腹部に深くめり込んでいる。

「は、は! 止めたぜ……」

そのまま、グレッグは腹にめり込んだ腕をつかんで固定する。

黒いマネキンは、それを振り払おうとするが、グレッグ自慢の筋肉でがっちり固定され、身動きできない。


そこへ青白い閃光がほとばしった。

リアムの聖剣による一撃が、黒いマネキンを両断した。戦斧や魔法が全く効かなかったとは思えないほど、あっさりとしたものだった。


既に肉体は消滅しているのか、黒いマネキンは煙のように消え、リアムと聖剣に吸い込まれた。


「ぐっ!」

「リアム様!」

呻くリアムに、セレスティアが駆け寄るが、リアムはそれを手で制した。

「僕は大丈夫だ。もう一体いる、今の内にグレッグを」

「は、はい」

そういって立ち上がるリアムが目にしたのは、もう一体の黒いマネキン、その隣の地面から生える新たな黒いマネキンの姿だった。




一方そのころ。


ジャスティス・ブレイクとレジリエンス・キラーに対し、”管理者”は猛攻を加えていた。

まるで数百丁の自動小銃が一斉射しているかのように、秒間数百、数千の黒い円錐ドリルの群れで二人を攻撃し続ける。


これで”異物ども”を倒せるとは思っていない。だが、奴らの”大技”を出す隙を与えない程度のプレッシャーはかけられる。

さらに、”異物ども”は、勇者を助けに向かえば、この攻撃が勇者たちに向かうと考えるだろう。


勇者は”次代の魔王”の素体であるため、穴だらけにするわけにはいかないが、そんなことを”異物ども”は知るはずもない。


事実、”異物ども”の動きには焦りと苛立ちが見える。

無理に”異物”を排除する必要はないのだ。

”次代の魔王”を生み出す邪魔さえさせなければ良い。


その方針に則り、愚直に黒い円錐ドリルの群れで”異物ども”への攻撃を続ける。”管理者”は、同じことを繰り返すのは得意なのだ。

そうしている間に、勇者によりグラトスが倒された。予定通りだが、まだまだ”闇”は不足している。そのため、追加でグラトスを復活させておく。


全ては計算通りに進んでいる。

”管理者”がそのように思考した時、


「ルーナちゃーん」

”管理者”から見た目線の下。ぽつんと一人の男が立っていた。


”管理者”は思い出す。



──そうか、コレも異物だったか



それは取るに足らない異物。

特に脅威になるような戦力ではないため、警戒対象としてカウントしていなかった。

そんな異物ゴミが、地面から声を上げていた。


「ルナちゃんってさぁ、結構おっ○い大きいよね」

瞬間、異物の一体、レジリエンス・キラーの背中から射出されたブーメラン状の装甲片が、男の胴体に突き刺さった。


「ぐふっ! ルナちゃんの”硬いの”でつらぬかれちゃった」

更に追加でもう1本の装甲片が突き刺さる。


「ぐふぅ」

男は血を吐き、突き刺さった2本の装甲片を抱えたまま、血の海に沈んだ。


”管理者”は、それを冷めた目で見ていた。

一体何がしたかったのか。状況に絶望し、仲間の手で自殺したのか。


「くだらないとか思っただろ?」

“管理者”の頭上に、先ほど死んだはずの男が浮かんでいた。


“管理者”は混乱した。



──何が起きた!?



地面に意識を向ける。

先ほど、男が血の海に沈んだ場所には、血の一滴すら残されていない。


分からない。分からないが、宙に浮かんでいるだけの男は脅威ではない。


”管理者”は男に黒い円錐ドリルの群れを浴びせる。

「ぐぱっ!」

男が粉々になって砕け散る。


「死んだかと思った!!」


──!?


今度は”管理者”の頭の上。そこに立っていた。


「おらぁ!!」

男は、手に持ったブーメラン状の装甲片を”管理者”の頭に突き刺した。


「ぐぱっ!」

直後、黒い円錐ドリルの直撃を受け、男は粉みじんになる。


「ちょっ! この高さは着地無理じゃね!?」


次の瞬間には、”管理者”の頭上20m程の高さに出現していた。


何がどうなっているかわからない。が、死ぬまで殺してやる。



『さすがケンタ』

『仕方ないから認める。死ぬほど不本意だけど』



──っ!!



”管理者”の正面、右手に光りを宿したジャスティス・ブレイクと、右足に光りを宿したレジリエンス・キラーが居た。


『ジャッジメントスマッシャァァァァァァァァ!!!!』

『エリミネートインパクトォォォ!!』



二本の閃光が黒く巨大な”管理者”の体を貫いた。

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