27話:ノーザンの夜
ゼウスを撃破したジャスティス・ブレイクは、爆発を背に、地面へと着地した。
「ジャスティス・ブレイク」
声に振り向くと、リアムが聖剣を鞘に納めながら近づいてくる。
ジャスティス・ブレイクは、リアムの助力によって自身が救われたことを思い出した。
『すまない、助かった』
その礼の言葉に、リアムは一瞬きょとんとした後、
「礼などいいさ。むしろ、いつも救われているのは僕たちの方だからね」
にこやかな笑みを浮かべつつそう言って、スッと右手を差し出した。
レイジは、いつも近くに居るのに、正体を隠している自身に恥ずかしさと申し訳なさを感じた。が、笑顔で手を差し出しているリアムに応えないのは人としてダメだろと自戒し、しっかりとその手を握り返した。
「もう、行くのだろう?」
そう言いながらリアムは手を引き、レイジは静かに頷いた。
直後、パシュという軽い音を残し、ジャスティス・ブレイクの姿は掻き消えた。
「……うぅ」
小さなうめき声が聞こえる。
そう、街中で戦闘となり、ゼウスの能力により住民も巻き込まれていた。街へはそれなりの被害も出ており、けが人も居るだろう。
「すぐに、救護を! セレスティア!!」
全員がセレスティアを探して周囲を見回す。
「むごぉぉぉぉぉ!!」
くぐもった叫びが聞こえる。
そこには、ケンタレベルの取っ組み合いを続ける、二頭身のジャスティス・ブレイクが二体いた。どうやら、デフォルメされたジャスティス・ブレイクの着ぐるみのようだ。
「あ、あれは、どちらが本物のセレスティアなんだ?」
「全身着ぐるみに覆われてるから、区別がつかないわね……」
「いい方法があるぞ! 両方ぶん殴ろう!」
「それしていいのはケンタだけよ」
「俺でもダメだから! おい! リアムも”納得”みたいな顔すんな!」
その後、最後のアビスは討伐され、セレスティアの手当により、街の住民が全て猫に変わるなどの小さな(?)トラブルはありつつも、死者も無く、事態は収束したのだった。
********
それは夢うつつ。
沈む意識の先に、暗く石畳の空間が映し出される。
『ゼウス、そのような小娘をどうするつもりだ』
黒い全身甲冑の偉丈夫が、黒いローブを纏った骸骨”【冷徹なる裁定者】ゼウス”に問いかける。
『クカッカッカ、ま、使い道はいろいろとな、お主もどうだ?』
問われた全身甲冑の男、最後にして最強の四天王、”【滅界の覇王】グラトス”は鼻で笑う。
『ふん、くだらん』
グラトスはそう吐き捨て、背を向けて去っていく。
『私は、魔王軍には屈しません!』
手足を鎖で拘束され、壁に貼り付けとなっているセレスティアが、気丈な声を上げる。
『別に屈する必要はない。むしろ、頑張って耐えてくれ』
ゼウスが、手の上に青紫色の十字を出現させる。
『その方が、長く楽しめる』
ゼウスが十字をセレスティアの右腕に刺し、ゆっくりと押し込んでいく。
『くぅぁっ!』
『まだこれからだ』
十字の青紫色が薄まり、腕の中に溶け込むように染み込んでいく。
『ぐぁっ! あぐぅぅ!!』
途端、セレスティアの苦しみが増していく。
痛みと共に、白昼夢のような映像が、彼女の思考を埋め尽くした。
村が魔物に蹂躙される。人々が切り裂かれ、食い殺され、焼け死ぬ。
知人が、友人が、父が、母が……。
『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
『クッカッカッカ、いい声で鳴きよる。心配するな。ワシは回復魔術も得意じゃからのぅ』
セレスティアの苦悶と悲鳴は、途切れることなく続いた。
「はっ」
ケンタは息苦しさから目を覚ました。息が荒い。
最近はあまり見なかったが、久しぶりに”正史”の夢を見たため、かなりうなされていたようだ。
かなり汗もかいたらしく、全身がじっとりと湿っている。
──大丈夫だ。セレスティアは攫われてはいない。
改めていい意味で”正史”からずれている現状を思い浮かべ、ケンタは自身を落ち着かせる。
気持ちが落ち着いてくると、汗をかいたためか軽く喉の渇きを覚えた。
ケンタは、水を飲むために起き上がる。確か、土間に水瓶があったはずである。
周囲からは、寝息やイビキが聞こえる。
ゼウス達にノーザンの街が襲われ、その後の救護や回復に奔走したリアム達は宿をとることができず、結局空き家の一室を借り、そこで雑魚寝で休んだのだ。
「ぐぉ」
「うぉ」
グレッグが豪快に寝返りを打ち、丸太のような腕が目の前に叩き落とされた。
警戒しつつ、ゆっくりとグレッグの腕をまたぐ。
「おっと」
今度はうっかりエリシアを踏みそうになり、そっと回り道をする。
「うぇ?」
すると、やたらと大きな物に躓きかけた。
そこには、二頭身のジャスティス・ブレイクが寝息を立てている。
「まだ着ぐるみのままかよ!!」
「うるさい!」
真空魔法で首を飛ばされ、ケンタは寝床にリスポーンしたのだった。
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