第13話 引き受けついでにふっかけろ
「貴方がたは、やってくださいますか?」
久慈さんがすがるような目で俺達を見た。
「いや、小鞠の隣で怒鳴るクソ野郎についていくのが癪だっただけで、あたしらもこんな気取った写真だけ売るアイドル売りは嫌です」
大狼さんが言うと、
「そうですね、それに、画面の2人が人気2トップで、神野さんを欲しいのは大体女性で、百衣さんを欲しいのは男性で、つまり人気ある人だけ並べても個人にとってのハズレはちゃんとあるわけでしょう?
わざわざ私達みたいな、ほぼ誰が見てもハズレみたいな枠を作らなくても、それで充分じゃないですか?」
と、牛窪さんも頷いた。
「いや、その……」
久慈さんがおずおずと言った。
「その『要らない人気者』同士だと、ネットでトレードが簡単に成立してしまいますから……
転売防止の時流はあっても、トレードはそうでもありませんし……」
「なるほど。
でもやっぱり、自分達だけ要らないもの扱いされるなんて悲しいですよ。
だからこの話は私達もお断りを……」
鰐渕さんが申し訳なさそうに言った。
そうだなあ、アイドル売りは俺の主義にも反するし
……いや、しかし……
「ちょっと待って。
えっと、俺達がOKしたら参加者は何組何人になります?」
「9組30人です」
「あっ、そんなにいないんですね。
では、E賞の枚数の全コンビニの合計は?」
「30万枚です」
「えっ?! そんなにあるの?!」
メンバー全員騒然とした。
「つまり1人1万枚、4人で4万枚の写真が出回って、俺達を知らない多くの人に知ってもらうチャンスなわけだ」
「いやいや、くじのハズレなんて嫌がられる方で知られてもなあ、歌が聴かれるわけじゃあるまいし」
大狼さんが苦い顔をした。
「いやいや、そこで曲を聴かせてやるんだよ。
……久慈さん、僕達がやるとして、この下のメッセージ、いつまでに提出すればいいですか?」
「えっ? では3日で」
「ギリギリまで伸ばしてそれですか?」
「えっ、そんなにじっくり考えたいんですか? では一週間で」
「ありがたいです。
そうですね、一つなら3日でいいけれど
……できうる限り、たくさんの種類のメッセージ書こうと思ってるので」
「えっ?!」
全員の声が綺麗にハモった。
「歌詞とか好きなアーティストとか使用楽器とかを書いてね、思想を売るんですよ。
写真の服はこのままでよし、これでアイドル売りではないでしょ」
「えっ、またそれは印刷が大変そうな…」
久慈さんが及び腰になった。
「さすがにひとり3桁種類にはならないだろうし、ほら、お菓子の袋に書いてある豆知識とかの種類ぐらいのもんですよ。
嫌なら僕らもやめていいんだけどな〜。
タダで単独ハズレ扱いは嫌だな〜」
「わっ、わかりましたよっ!」
全員に逃げられたとなっては上に報告する時まずいのかな
……この人も大変だ。
「おっと」
ふいに後ろから声がした。
振り向くと、イデアお抱えカメラマンの
うちのアーティストのPVや、 SPINELの写真集を撮っている人だ。
歳の頃30ぐらいか。
綺麗に緩く巻いたダークトーンの茶髪に、端正に整えられた顎髭で、見た目だけではミュージシャンだと勘違いする人が後を絶たないセンスの良さだ。
いつの間に!
「ぼくが撮るからには、テキトーな格好では撮らせないよ?
他の有名連中はさっきの神野と百衣の写真みたいな服なんだぞ。
なのにきみらだけ普段着って、それは逆に見た目で『我々は他の見た目で釣ろうとする奴らとは違うのだ』と主張して目立とうとしてるように見られると思うがね?」
た…たしかに…
「そもそも、なんできみらはそこまで見た目売りを嫌がるんだ?
あっ、場地はわかるからいいぞ、たしかにSPINELは行き過ぎかもな。
大狼もまあ、一般ウケしない方向性ってだけで小綺麗にはしてるからいい。
でも、あとの2人は?
場地よりテキトーってのはどういうことだ?」
「それは……」
2人は目を伏せ、一瞬の間があって鰐渕さんが話し始めた。
「私達の高校の可愛い娘は、挙ってその可愛さで男の人を誘惑して貢がせる的なことをやってたんです。
私たちがそれを白い目で見てたり、吹雪が苦言を呈したりしたら、『あんた達は男ウケしないからわからないのよ』って言われて」
えっ……
どんな魔境だよ。
「だよねー! 可愛くなって男性ウケしたらそんな性格に堕ちるっていうなら、わざわざ手間かけて可愛くなる意味ないよねー!
その時間でお金稼げる技術を磨いた方が健康的だよね〜!
果奈は口が悪いだけでそういうことをしない、まともな側の可愛い娘だと思ってたけど、結局犯罪やらかしたし!」
「な、なるほど、それで音楽ばかりやってきたのか……
高校出て即デビューなら、就活の為に見た目を整えようとかいう機会もないしな……
まあたしかに、うちの事務所の可愛い娘もちょっと……良い性格とは言えないしな……
百衣は可愛さをひけらかして男をドキドキさせて愉しむ小悪魔だし、葛城は歳下ミュージシャン口説きまくってたしな……
神野の嫁の相戸とかはまともそうだけど、他の事務所だからよくわからんし……」
牛窪さんのあまりに迷いのない言い方に、高亀さんも一瞬たじろいだ。
「だがっ! 今回の撮影は別っ!
刹那の写真撮影のためにオシャレしたぐらいでそんな性格に堕ちるほど、きみたちは自我が弱いわけじゃないだろう?」
「そ、そうですね……」
「わかったら今すぐ衣装部屋に来なさい!
まあでも、きみらはまだマシな方だわな
……神野並の音域や百衣並の声質もないくせに、あいつらは顔だアイドル売りだって妬んでばかりで、曲出す・ライブする・タイアップ取りに行く、以外の売れ方を模索せずに仕事のチャンスを捨てる奴らは、どうかしてるぜ!」
スタッフさんたちも鬱憤が溜まってるんだなあ……
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