それでも、君だけが好き。

ミナ

第1話 あと1分だけ、そばにいて。



「ねえ、陽翔(はると)、既読つけたなら返信してよ」


そうLINEに打って、送らずに消すのはもう何度目だろう。

私は今、スマホの画面を見つめたまま、ため息をついた。


蒼井 陽翔。

同じクラスで、私の好きな人。クールで優しくて、無駄なことは話さないのに、言葉のひとつひとつがちゃんと響く。

最初はただの憧れだったのに、今はもう、彼の一挙一動が私の1日の気分を決めるくらい、大きな存在になってしまった。


「重いかな……私」


心音(ここね)は、自分でそうつぶやいて、小さく笑った。

昨日も「好き」って言いたくなった。でも、言えなかった。

まだ付き合ってないのに、言いすぎたら引かれるかもしれないから。


だけど、彼は優しい。

廊下ですれ違った時、目が合った。それだけで、嬉しくて、浮かれて――そのあと返信が来なかっただけで、また落ち込んで。


まるでジェットコースターみたいだ、私の感情。



放課後。

教室の空気が夕陽に染まってる中、私はわざとゆっくり荷物をまとめた。


陽翔は、まだ席に座っていた。窓際の、自分の席に。

スマホを見ているのか、本を読んでいるのか、静かにそこにいる。


「…あのさ、陽翔」


勇気を出して、声をかける。

目をあげた彼の視線が、私をまっすぐとらえた。


「なに?」


いつもの低くて静かな声。私は少し喉がつまる。


「今日、ちょっとだけ、一緒に帰らない?」


ほんの、5分でもいい。

今日、話せたら、きっとまたがんばれる気がするから。


陽翔は少し驚いた顔をして、それから――

ふっと笑った。


「いいよ。あと1分だけ、スマホ見たら行く」


その言葉だけで、胸がぎゅっと締め付けられた。


あと1分だけ、そばにいて。

そう願っていたのは、私だけじゃなかったのかもしれない。

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