最強冒険者、婚活中につき。
珍
プロローグ
俺の名前は上田達也(うえだ・たつや)、22歳。
某ライン工場で汗水垂らして働く、どこにでもいる平凡な青年──だったはずなんだけど。
その日も仕事を終えて、いつも通り会社の門をくぐった瞬間だった。
視界が突然、真っ白になった。まぶしさに目を閉じ、ゆっくり開けると……そこは見知らぬ森の中だった。
「……え? 何がおこったん?」
現実感がなさすぎて、逆に変に冷静になった俺は、周囲を見回す。
見たこともない植物。聞き覚えのない、獣のような鳴き声。
「……もしかして、異世界来ちゃった……?」
頭のどこかで、そんな突拍子もない可能性が浮かぶ。
でも目の前の光景は、その冗談みたいな想像を裏切らなかった。
「……よし、とりあえず人がいそうなとこ行こう」
俺は腹を括って、森の外を目指して歩き出した。
◇
それから1時間ほど歩いた頃だった。森を抜けた先に、ようやく村らしき集落が見えた。
そこで俺は、はっきりと自覚した。
「……うわ、マジで異世界やん」
木造の家並みに、見たことのない民族衣装の人々。そして──
耳のついた獣人たちが、まるで当たり前のように歩いていた。
言葉も、なぜか通じた。
通貨すら、ポケットに“この世界の金”が一週間分くらい入っていた。
……いや、親切すぎない? 神様のミスか?
「すいません、冒険者登録ってできますか!」
勢いのままにギルドへ飛び込み、俺は冒険者としての一歩を踏み出した。
◇
最初のうちは、夢しかなかった。そう──異世界ハーレム。
献身的な獣耳メイド!クールなエルフ!ドSなドラゴン娘!
「よし、やったるぞ俺!!」
がむしゃらに依頼をこなし、人助けも無償でこなして……気づけば、4年が経っていた。
「……おかしいな?」
気づいたら、俺はS級冒険者になっていた。
でも──
「俺のハーレムは!?」
叫ぶ俺に、腕の中でモフモフしている子犬が一言。
「くだらない夢ね。諦めて、私にしときなさいな」
それは白銀の体毛を持つ、小さなフェンリル──名前はハク。
かつて俺と死闘を演じ、負けて以来勝手についてくるようになった。
「……いや、お前、人ちゃうやん」
「中身は乙女よ?」
「はぁ……」
俺はひとつ、深いため息をついた。
「もうええわ。普通に嫁さん探すか……」
俺の異世界ハーレム生活(仮)は、こうして始まりもせずに終わった──ように思えた。
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