最強冒険者、婚活中につき。

プロローグ


俺の名前は上田達也(うえだ・たつや)、22歳。

某ライン工場で汗水垂らして働く、どこにでもいる平凡な青年──だったはずなんだけど。


その日も仕事を終えて、いつも通り会社の門をくぐった瞬間だった。

視界が突然、真っ白になった。まぶしさに目を閉じ、ゆっくり開けると……そこは見知らぬ森の中だった。


「……え? 何がおこったん?」


現実感がなさすぎて、逆に変に冷静になった俺は、周囲を見回す。

見たこともない植物。聞き覚えのない、獣のような鳴き声。


「……もしかして、異世界来ちゃった……?」


頭のどこかで、そんな突拍子もない可能性が浮かぶ。

でも目の前の光景は、その冗談みたいな想像を裏切らなかった。


「……よし、とりあえず人がいそうなとこ行こう」


俺は腹を括って、森の外を目指して歩き出した。



それから1時間ほど歩いた頃だった。森を抜けた先に、ようやく村らしき集落が見えた。


そこで俺は、はっきりと自覚した。

「……うわ、マジで異世界やん」


木造の家並みに、見たことのない民族衣装の人々。そして──

耳のついた獣人たちが、まるで当たり前のように歩いていた。


言葉も、なぜか通じた。

通貨すら、ポケットに“この世界の金”が一週間分くらい入っていた。

……いや、親切すぎない? 神様のミスか?


「すいません、冒険者登録ってできますか!」


勢いのままにギルドへ飛び込み、俺は冒険者としての一歩を踏み出した。



最初のうちは、夢しかなかった。そう──異世界ハーレム。

献身的な獣耳メイド!クールなエルフ!ドSなドラゴン娘!


「よし、やったるぞ俺!!」


がむしゃらに依頼をこなし、人助けも無償でこなして……気づけば、4年が経っていた。


「……おかしいな?」


気づいたら、俺はS級冒険者になっていた。

でも──


「俺のハーレムは!?」


叫ぶ俺に、腕の中でモフモフしている子犬が一言。


「くだらない夢ね。諦めて、私にしときなさいな」


それは白銀の体毛を持つ、小さなフェンリル──名前はハク。

かつて俺と死闘を演じ、負けて以来勝手についてくるようになった。


「……いや、お前、人ちゃうやん」


「中身は乙女よ?」


「はぁ……」

俺はひとつ、深いため息をついた。


「もうええわ。普通に嫁さん探すか……」


俺の異世界ハーレム生活(仮)は、こうして始まりもせずに終わった──ように思えた。

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