第30話

 リラとアルベールは、狼たちと共に洞窟を出た。 


「ガウ!」


 狼たちのリーダーが先導し、その後ろをリラとアルベールが乗った狼が続く。

 一行は、瘴気が薄い安全な道を選びながら、上級森の奥深くへと進んでいった。


 しばらく進むと、一行は、まるで星屑を散りばめたような、無数の暗黒石が埋め込まれた洞窟にたどり着いた。


「ここが、暗黒石の鉱脈だ」


 アルベールは、その壮大な光景に息をのんだ。

 リラは、光の竜を助けられるかもしれない、という希望に胸を膨らませた。


 硬い暗黒石を、狼たちは簡単に爪で掘り出していく。

 それをリラとアルベールが拾い、麻袋いっぱいに詰めた。


「こんなもので良いかなぁ? 狼さん、ありがとう」


 ふうっと、一息つくリラ。

 落ち着くと、ぐぅ〜とお腹が鳴った。


「食事を取る暇がありませんでしたからね」


 そう微笑むアルベールに、お腹の音を聞かれてしまったのが恥ずかしいリラは顔を赤くするのだった。

 すでに昼は遅すぎるし、夕には早すぎる時間である。


 暗黒石の洞窟を出て、少し休憩がてら焚き火をおこし、先ほどキノコモンスターがくれたキノコを炙るリラ。


「大きいキノコだね」


「そうですね」


 リラの言葉に、なにとは言わないが、なんだか妙な気分になるのは自分が変態だからだろう。

 アルベールは慌てて頭を叩いた。


「どうしたの?」 


「何でもありません!」


 顔を赤くしたアルベールに首を傾げるリラである。


 ホクホクに焼けたキノコは腹持ちもよく、美味しかった。


「狼さんたちもキノコ食べる?」


「いえ、私どもはそのへんに転がっているモンスターの骨をかじってます」


 狼は、白い骨をボリボリと食べていた。リラは見なかったことにした。



 光竜の待つ洞窟に戻って来たリラとアルベール。

 日は陰り始めていた。


 光竜に暗黒石を食べさせると、モリモリと食べる。


「これで足りたかな?」 


 光竜はまばゆい光を放ち、リラに直接語りかけてきた。


「キュキュ!」

(美味しかった)


「え?」


 光竜はさらに言葉を続けた。


「キュルル、キルキル、キューキュー」(姫、ありがとうございます。この石の力は弱いものの、姫の手で食べさせていただいた石は浄化の力を増し、私の力を取り戻させてくれました)


「キュキュ、キュルルル…」

(私の名前はルミナスです。その石は、私の言葉を貴女に翻訳して伝えてくれます)


「そうなんだ!」


 リラは光竜がくれた真珠のような綺麗な石を見つめる。


(私は、あなたの一族が消えてから、ずっとここで魔王が一人で苦しむのを見ていました)


 ルミナスの言葉にリラは驚きを隠せない。

 魔王が、孤独で苦しんでいる…?


(貴女の一族が復活した今、魔王様を助けられるかもしれない。私と共に魔王様のところへいってくれますか?)


「もちろんだよ!」


(ありがとう、リラ。貴女のおかげで私は完全に復活できました。そして、貴女に伝えねばならないことがあります。瘴気は、人間やモンスターの苦悩、憎悪、怨念から生まれるもの。本来、私たち光の竜とあなたの一族は、共にその瘴気を緩和させる役目を担っていたのです)


 ルミナスはキュキュと悲しげに鳴きながら、魔王の過去を語った。

 魔王は、リラの一族という唯一の同士であり親友を失った悲しみから、瘴気に飲まれ、自らが瘴気を流す存在となってしまったのだと。


「…そうだったのね。魔王は、寂しかったんだ…」


 リラの目から、一筋の涙がこぼれ落ちる。


(だが、あなたの一族が復活した今、魔王の元へ案内する時が来たのです)


 ルミナスはそう告げた。


(旅立ちは明日にしましょう。今夜はもう暗くなります。リラ達はここで身体を休めてください)


 ルミナスはそう言うと、羽を羽ばたかせる。

 広間にベッドが二つ現れた。


「ありがとう、ルミナス。あの骸骨たちは浄化されてもう動かないんだよね?」


 リラはチラリと敷き詰められた状態に戻った骨に目をやる。


(はい、彼らの怨念は浄化され、魂は空へと還りました)


「じゃあ土に埋めてあげないと!」


(人間は骨を土に埋めて供養するのでしたね。ですが、私の供養は違います)


 ルミナスはもう一度羽を羽ばたかせる。

 骨は灰となり、サラサラと飛んでいった。


(これで、彼らは好きな大地を選んで降り注ぐことが出来ます)


「そうだね」


 リラは灰になった骨が、彼らの村や町に帰って安らかに眠れることを祈るのだった。




 昼の食事が遅かったのと、疲れていた事で、明日の事も考えてリラとアルベールは直ぐにベッドに入った。


 リラはベッドに横になりなるが、我慢出来ずに隣のベッドで横になっているアルベールに話しかける。


「ねぇ、アル。今日は本当に色々なことがあったね。国王様に会って、怖い思いもしたけどルミナスを助けることもできて、新しい狼の友達も出来たし。キノコ美味しかったね」


 今日の出来事を思い出して、胸が高鳴る。

 大変だったけど、楽しい一日だった。


「はい。姫の勇気と優しさが、ルミナス様を救ったのです。そして、私たちは大切な真実を知ることができましたね」

 

 リラとルミナスの会話は、リラの返事が一方的に聞こえてくるものでがあったが、気を利かせた狼が小声で同時通訳してくれた。


「魔王様が、寂しいって…まさかそんなこと、誰も想像できないよね。なんだか、可哀想だなって思っちゃった」


「そうですね。ですが、姫が魔王様の悲しみを理解し、救うことができるのなら、それは大きな希望です」


 アルベールの言葉に、リラは安心したように微笑む。


「アルがいてくれて、よかった。一人だったら、きっと心が折れてたと思う」


「私もです。姫がいてくれなければ、私はただの忠実な騎士で、この歪んだ世界を変えようなどとは思えなかったでしょう」


 アルベールは、静かにリラにそう告げた。

 二人は、明日からの旅への希望と、互いの存在への感謝を胸に、ゆっくりと目を閉じるのだった。

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