第20話
薬屋に戻ったリラは、集めてきた薬草や素材を丁寧に仕分けし、真新しい棚に並べていく。
「これであとはお客さんを待つだけだね!」
そう満面の笑みを見せた。
薬屋の開店日。
特に宣伝をしたわけではないが、森のモンスターたちの口コミは早かった。
まず最初に訪れたのは、体の節々が痛むという年老いたゴブリンだった。
「おや、新しい店ができたのかい? この体の痛みに効く薬はないかね?」
リラはゴブリンの様子をじっと観察すると、棚から茶色い粉末の入った袋を取り出した。
「おじいちゃんゴブリン、これは『癒やしの実』をすりつぶしたものだよ。お湯に溶かして飲むと、きっと楽になるから試してみてね!」
リラはゴブリンの腰の辺りを撫でる。
痛みはそれだけで取れるが、持続性はなかった。
そこでこのお茶が役に立つだろう。
アルベールは隣で、「代金は……」と促そうとしたが、リラは「いいのいいの! おじいちゃんゴブリン、いつもお花や苔をくれるから、お礼だよ!」と朗らかに笑った。
ゴブリンは恐縮しながらも、嬉しそうに薬を受け取っていく。
次にやってきたのは、羽根を痛めて飛べなくなった小鳥のモンスターだった。
リラの小鳥が一生懸命連れてきたのだ。
リラは優しく小鳥を手に取り、小さな木の枝から採取した粘り気のある樹液を羽根に塗ってあげる。
「大丈夫、これで良くなるからね」
リラの手当ては素早く、そして的確だった。
小鳥はリラの指に甘えるように頭を擦りつけ、元気を取り戻していく。
午後になると、少しずつ人間の客も訪れるようになった。
森で迷子になり、足首を捻挫した冒険者や、毒のある植物に触れてしまった木こりなど、様々だ。
アルベールは、それぞれの症状に合わせて適切な薬草や薬液を選び、効能や使い方を丁寧に説明した。
リラは、アルベールの説明の傍らで、困っている客にそっと手を差し伸べたり、モンスターたちとの不思議な交流の様子を話して聞かせたりして、客の心を和ませていった。
「まさか、こんな森に、これほど上質な薬が手に入る店があったとは……」
「しかも、あの不思議な娘さんが触ると、痛みが和らぐ気がするんだ!」
客たちは口々に驚きと感動の声を上げ、店を後にした。
中には、薬の代金と一緒に、自分たちの森での生活で得た木の実や珍しい素材を置いていく者もいた。
日が傾き始める頃、店の賑わいは最高潮に達した。
薬を求める客だけでなく、リラとモンスターたちの交流を見に来ただけの者や、単にリラの笑顔に癒やされに来る者もいた。
リラの純粋な優しさと、アルベールの的確な対応が相まって、森の薬屋は、たちまち評判の店となっていった。
その日の終わりに、アルベールは疲れた体をソファに沈めた。
しかし、彼の顔には充実感が満ち溢れている。
「姫……想像以上の盛況でしたね」
「うん! いろんな人が来てくれて、とっても楽しかったね!」
リラは目を輝かせながら、今日の出来事をアルベールに話してくれる。
彼女の言葉の一つ一つに、この薬屋が、森と人間の間に新たな架け橋を作りつつあることを実感した。
「また明日も宜しくね」
「ええ、では、また明日」
閉店作業を終えたリラとアルベールはお互い挨拶を交わし、アルベールは村へ、リラは家に帰宅するのだった。
帰って来たリラは、家の側に何かが倒れているのを見つけた。
狼を降りて駆け寄る。それは火竜であった。
火竜はこの森に住んでいない。
地図の図鑑で読んだことを思い出す。
確か、この森を抜けた先にある砂漠地帯の更に先にある、火山地帯に住んでいるはずだ。
「どうしたの!?」
火竜は頑張ってここまで飛んできたようだが、疲れ切った様子で「キュルル」と鳴いている。
身体には強い瘴気を纏っていた。
ここまで強い瘴気を纏って凶暴化せずに耐えているのは火竜の強さを表しているようである。
しかし、火竜は火を抑えられず、メラメラと揺らしてしまっていた。
瘴気を消してあげたいが、触れたら火傷では済まない。
どうしよう。
リラが困っていると、どこからともなく水竜が飛んで来た。
火は森にとって害でしかないため、水竜は怒って、バシャバシャと火竜に水をかける。
「キル、キュルル、キュ」
火竜は「ヤメて〜」と嫌がっている様子だ。
可哀想だが、水竜のお陰で火竜に触れるようになった。
瘴気が強すぎて、一気に浄化するのは難しい。
それでも火竜はだいぶ落ち着いた様子だ。
「キュキュ! キュルル! キュ!」
火竜はリラに、真っ赤な石を渡す。
「これは?」
「好きな時にいつでも火が出せる石」
火竜の言葉を小鳥が訳してくれた。
「便利な石をありがとう」
リラは火竜にお礼を言う。
「キュルル! キュルル!! キルル!」
「キュキュ! キルル」
火竜は飛び上がると、水竜と何か会話を交わして飛んでいってしまう。
「あー、まだ瘴気が浄化しきれてないよ!」
引き留めようとするリラだが、火竜は迷わず森を抜けて行ってしまった。
水竜も落ち着きを取り戻し、自分の住処に帰った様子だ。
「火竜が水竜にごめんねして、水竜も許してくれたみたい。火竜は自分の持ち場があるから帰らないとって言っていたよ」
「そうなのね……」
説明してくれる小鳥に、リラは火竜が心配である。
森には風竜と水竜が住んでおり、結界で守っていると本には書いてあった。
この先の砂漠地帯には岩竜が守っており、その先の火山地帯を火竜が守っている。
更にその先の深い洞窟には闇竜と共に魔王が眠っていると。
瘴気が広がるのは魔王と闇竜の目覚めの合図であり、気をつけろとも書かれていた。
リラは明日、アルベールに報告した方が良さそうだと思いながら、家に入るのだった。
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