第11話

「リラ、嫌いじゃない。心配で怒っちゃったよ。ごめんね。城への不法侵入駄目、ぜったい、アル、反省」


 鳥はアルベールの言っていた事を一所懸命に伝えた。しかし、リラはもうアルベールの事は忘れると決めていた。


「アルの事はもういいの! 遊んでくる!」


 意気揚々と外に出るリラ。モンスターたちと遊ぶことにする。

 樹の実や薬草、野草摘みのついでに、瘴気に襲われるモンスターや、冒険者、あるいは人に襲われて傷付いたモンスターを治療して回るリラ。

 それにしても、怪我はしていないのに定期的に見て回らないと、モンスターが瘴気で黒くなってしまうのが不思議だった。


 歩いている途中、リラは怪我した冒険者に出会った。見ると、キノコの毒にやられてしまっている。


「キノコが欲しいなら頼めばいいのに」


 冒険者に薬草とキノコを分けてあげる。

 リラはモンスターの怪我は直接治せるが、人間は難しいようだった。


「君、すごいな。このキノコは幻のキノコだ。貰えないよ」


 そう、冒険者に教えられる。

 キノコは返されてしまった。


「さっき貴方が傷つけたと思うキノコの怪我を治してあげたらくれたよ」


 リラは冒険者にそう教えた。


「なんでもそうじゃない? 無理やり奪おうとしたら抵抗するけど、ちょっと分けてよって言えば、余裕があったらくれるよ。なかったら諦めるしかないけどね」


 笑うリラに、冒険者はなるほどと頷く。


「しかし、君の薬はよく効く。何の薬草を使っているんだい?」


「中級薬草と青色プヨン液、あと色々混ぜてるよ。モンスターを助けると何かしらくれるんだ。ちゃんと薬草図鑑とかお料理本で勉強したから安心してよ。自分でも試飲してる」


「君、本当にすごいよ。この辺りで薬屋を開いて欲しいな。この森、薬屋がないんだよ」


「んー、そうなんだ。考えてみる」


 適当に頷き、冒険者と別れるリラ。

 薬屋かぁ、人間とも触れ合えるし、森から出ないでできるし、結構楽しそうなんじゃないかなと、思えた。

 リラは前向きに検討しようと考える。


 そんな様子を見ていたお節介な木のモンスターは、早速勝手に、人通りが比較的多い森の中腹あたりに薬屋を建ててしまうのだった。



「ええ、薬屋開けって? 建てちゃったの?」


 鳥の通訳と案内で、リラはびっくりする。


「もう!ホイホイ家建てちゃ駄目でしょ。って、アルなら言いそうだね」


 そう、アルベールを思い出して笑ってしまう。


(あ、アルのことは忘れるんだった)


 そう思い直し、口をおさえる。

 そこにアルベールが馬に乗って現れた。


「おや? こんな所に引っ越したんですか?」


「忘れようと思ってるのに」


 ムッと眉間にシワを寄せるリラに、アルベールは馬を降りて跪く。


「ご機嫌麗しく」


「ご機嫌麗しく、見えるの?」


 プイッと顔を反らすリラに、アルベールは内心苦笑いしてしまう。


「献上に参りました」


 アルベールは大荷物を下ろす。


「ここに引っ越したわけじゃない。木のモンスターがここで薬屋を開けって、薬屋を建てちゃったの」


 リラは仕方なくアルベールに事情を説明する。


「リラ姫はどうされたいのですか?」


「うん、せっかく建ててくれたし、やってみようかな。合わなければ辞めれば良いよね!」


「前向きなご様子で安心しました」


 リラの様子は紛れもなくご機嫌麗しい。


「住まいは今まで通り温泉の場所にする」


 リラは狼に跨ると「着いてきて」と、走り出した。

 アルベールの事は忘れようって思ったのに、顔を合わせるとやっぱり嬉しい。

 嬉しいのに、以前とは違って御主人様を相手する様子なアルベールの姿に悲しくなる。

 リラはその複雑な気持ちの理由が分からない。


 我儘で駄々っ子みたい。


 ちゃんと飲み込まなきゃ。アルに呆れられたくない。




「入って」


 家まで招き、リラは扉を開ける。


「私は玄関先で……」


「こんな大荷物、私に片付けろっていうの?」


 ムッとした表情でリラはアルベールの手を掴んで引く。

 不機嫌になっちゃ駄目だってば私。

 そもそも片付けて欲しいと思えば家が勝手にやってくれるので構わないのに。


「失礼します」


 アルベールはリラに手を引かれ、恐る恐るついて行くと、リビングに通された。


「何を持ってきてくれたの?」


「はい、食品と洋服です。それと本数冊」


「ありがとう」


 アルベールは荷物を広げる。


「その、リラ様は下着などは……」


 アルベールは聞きづらそうに尋ねた。


「下着? 布を巻いてる」


 リラは、徐に服を脱ごうとする。


「わわわ、見せなくて大丈夫です。姫!!」


 慌ててリラの手を止めるアル。顔が真赤だ。


「しかし、その、布を巻くだけというのは、良くないかと……町に出かけませんか? 私が護衛をします」


「町に連れてってくれるの?」


「ええ、城下街は少し危険が有るかもしれませんので、すぐ側の小さな町になりますが、それなりに服や食品は買えるでしょう。ただ、銀行がありませんので、銀行に行くなら私が代わりに」


「そう言えば、アルが買ってくれる物は、アルが建て替えてくれているんだよね? お金払う!」


「いえ、こちらの品々は私が勝手に選んだ物ですので献上品です」


「私が欲しいって言ったんだから、私がお金払わなきゃ!」


「いえ、私が姫の為に選んだ献上品です」


「お金払う!」

「結構です!」


 お金を払う払わないで言い合いなってしまった。

 リラも頑固であるが、アルベールも頑固である。


「姫、こういうのは男に花を持たせるものですよ」


 ごほんと、咳払いをし、少し頬を赤らめながら言うアルベールだ。


「お金ではなく、花が良いのね? 何が良い? わかった! 町でアルに似合う花を買うわ!」


 リラは目をキラキラ輝かせながら言うものだがらアルベールは何も言えなくなってしまう。

 男の矜持が有りますと言っても、今のリラにはまだ理解出来る話ではないだろう。

 よく考えれば、物心つく前からつい最近まで牢屋に監禁され、言葉しか話せなかった子である。

 森で暮らすようになって健康的になっただろうが、それでも痩せてみえる。

 しかし、歩きはだいぶしっかりしてきたし、肌艶も良い。

 初めて見た時は、ボロボロで、薄汚れた姿であったが、今は髪も梳かしているのだろう、一見したら普通の16歳の女性である。

 しかし、その中身は純粋に物事を覚え始めたばかりの子供だ。

 彼女は頭が良く、飲み込みが早いので忘れがちである。精神年齢で言えば、まだ10歳行くか行かないかかもしれない。


 姫は俺が守らなければ!


  改めて彼女の騎士になると誓うアルベールだ。

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