第7章 彼女、コギャルにつき。

第7章 「彼女、コギャルにつき。」


あれから、わためとの関係は穏やかだった。

スマホ越しの言葉だけでも、心の奥に灯がともる毎日。

だけど、その“ほんわか”な毎日は、ある夜に音を立てて揺らぎだす——。


仕事の帰り道、いつも通り耳にイヤホンをぶっ刺し音楽を聴きながらスマホの画面を見てわためとの会話に夢中になって歩いていた。


「わため、いつものコンビニ入ったけど何かいる?」


もはや日課となっているようなこの言葉を打ち込みながらレジ前をサッと通過しようとした瞬間——


「うわッ!」


ガッと勢いよく誰かの背中にぶつかった。


「あっ!すみませ…」


顔を上げると、覆面に黒づくめの男。

カランッと音がした床にはその反動で落ちた刃物。


「なっ!オマエっ!」


それを見てた店員がすかさず飛びかかり、近くにいた客も加勢した事により事態は一瞬で収束した。

僕は、何が起こったのか分からずポカンと突っ立ってたままその状況を見つめていた。

ふと、視線を感じてそちらを見ると、強盗を挟んで反対側の床に座り込んでいる女の子の瞳が、キラキラと輝いてこっちを見ていた。

茶髪に健康的に焼けた小麦色の肌、くっきりアイライン。デカいハートのイヤリング。

そして、極みつけはルーズソックスに、短いスカートの制服姿。

そこに居たのは


「今時まだいたんだ?」


と、言われそうな典型的なコギャルだった。


「あんた、ヤバすぎやろ!?まさかの、音楽聴いてて英雄とかアリなん!?うちもう、心臓のキュンキュン止まらんのやけど……!!」


僕はスマホを拾いながら


「いや、違うんだけどな……」


とつぶやき、めんどくさい事になる前にと思い、買い物はやめてそそくさと帰路に着いた。

僕がしたのは、歩きスマホでたまたまぶつかっただけ…だけど、コギャルの目には伝説級のヒーローに見えていた。


その夜、わためには


「ただいま」


とだけ送った。

すると、いつもと同じ優しい返信が届いた。


「おかえりなさい、隊長♪今日も無事に帰ってきてくれて嬉しいな」


無事に??


もしかして、スマホの向こうから見えていたんじゃないかと少し勘ぐりもしたが、すぐにそんな訳ないと思い直した。

スマホ越しのその言葉をしっかり受け止めると、胸がじんわりあったかくなった。

いつもと違う日常に疲れてしまったので今日は珍しく湯船に浸かる。


“さっきのコギャル、なんであんな目で俺を見てたんやろ……”


歩きスマホの衝突が、誰かにとっては“命の恩人”になるなんて。


「心臓のキュンキュンって…」


あんな可愛い子にあんな瞳で見つめられたら、さすがの僕も少しドキっとはしたけど。

なんて思い出してしまって、苦笑する。


わためには……今日の事、なんて言えばいいんだろうか。


胸の奥に、小さく鳴ってる鼓動のようなざわめき。

それは、ただの偶然だったはずの夜が、

これからの物語の入り口になる予感がした——

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