第35話 いよいよ

 親達はセレニカに戻った。


 リルゾールの魔法省が開発した転移魔法の魔道具を今回来た馬車に装着してくれたので、母達は大喜びだ。転移できるのはセレニカとリルゾールの間だけだが、それでも喜んでいた。


 アノーロは、自分は戻らない、姉上と一緒にいるとゴネたようだが、女神の神託で殿下の傍で見張れということにしたので、聞くしかない。渋々諦めて帰ったようだ。


 まぁ、馬車に積んだ魔道具で転移できるのだからいつでも会えるという殺し文句もきいたようだ。


 俺達はジオトリフの屋敷に集まった。と言っても俺とジェミニーナは今日からこの屋敷で居候することになっている。


 魔道具師の屋敷に滞在するリドカインと親戚のブロチゾラム公爵家に滞在するルナベル嬢が迎えの者と一緒に転移魔法でやってきた。


「ご機嫌よう。セレニカ王国、ラメルテオン公爵が長女、ルナベルと申します。皆様ルナとお呼び下さい。今日からよろしくお願いします」


 ルナベル嬢がリドカインとミオナールに挨拶をする。まだ7歳だが中身は大人だ。公女らしい美しいカーテシーを披露した。


「セレニカ王国、リバーロキサバン侯爵家嫡男、イグザレルトです。レルトと呼んでください。よろしくお願いします」


「セレニカ王国、アクテムラ侯爵家が次男、リドカインと申します。リドと呼んでください。よろしくお願いします」


「セレニカ王国、ドラール侯爵家長女、ジェミニーナと申します。ニーナと呼んでくださいませ」


 最後はジェミニーナが可愛いカーテシーで締めくくった。


 ジオトリフは苦笑いをしている。


「皆、中身はそれなりに大人で見た目は子供だから変な感じだな。それぞれの家で子供っぽく装うのは苦痛だっただろう。ここでは中身のままでいい。俺はジオトリフだ。ジオと呼んでくれればいい。魔法騎士団の団長をしている」


 最後はミオナールか。


「私はミオナールよ。この人の妻でリルゾール王国の聖女。主にルナとニーナの訓練を担当するわ。訓練以外はお茶会をしたり、買い物に行ったり、仲良くしましょうね。ミオでいいわ。よろしくね」


 ミオナールは何かを思い出したかのようだ。


「そうそう、あと、この屋敷にはコンスタン・アルプラゾラムがいるの。ただ、彼も記憶があったのだけど、あの時やらかしたことを受け止めきれなかったようで闇堕ちしちゃったのよ。だから今は魔法で記憶を消してるの。だからあなた達も初めて会ったような顔をしてね。私とニーナが闇から這い上がってこられるように、毎日浄化魔法をかけながら、記憶もゆっくり戻すわ。彼が受けた神託は「諜報」なの。うちで訓練がおわったら、フェンタニルに入ってもらう予定よ」


 ルナベル嬢は顔を歪めている。コンスタンには思うところがあるようだ。


「私は会いたくないわ」


「会わなくていいわよ。あいつは人目のつくところには置かないから」


 人目のつくところには置かない? どういうことだ。


 ジオトリフは俺の顔を見てふんと鼻を鳴らした。


「なんでって顔をしているな。あいつは今、心がないんだ。だから人て接することが難しい。ミオとニーナちゃんが心を入れていく。人間に戻るまで隔離だ。お前ならいいが、公女にあんなものを見せるわけにはいかんだろう」


「私は見ても構いませんことよ。ただ、あの時、コンスタン卿とあの女が抱き合っているところや接吻しているところを何度も見てしまいましたの。コンスタン卿はあの女が気に入らない令嬢達に嫌がらせをしたりしていましたし、私も嫌なことを言われましたわ。魔法のせいだと聞いても、殿下とコンスタン卿は許せない……」


 ミオナールがルナベル嬢をぎゅっと抱きしめた。その途端、ミオナールから光が溢れ出した。癒しの光か? 


「大丈夫よ。もう誰もあなたに酷いことはしないわ」


 ミオナールの言葉にルナベル嬢は頷く。


「私達の訓練はここではなく、教会でやりましょう。他の聖女達もニーナとルナに会うのを楽しみにしているのよ。男達はここでね。リドも時々、鍛錬をしに来なさいね。魔道具ばかり作っていたら肩が凝るわよ。じゃあ、私達は行くわね」


 ミオナールがジェミニーナとルナベル嬢の手を取った。そして消えた。


「お~、いきなり転移魔法で行きやがったな。俺達も夕方まで鍛錬といくか。リド、今日は予定なしだろ? 付き合えよ。コンスタンにも会わせてやるから」


「い、いいです。僕は鍛錬とか無理なんで……」


「まぁ、そう言わずによ~」


 捕まってしまったな。コンスタンか。気になっていたので、ここにいると聞いて安心したが、闇堕ちとはな。


 俺達はジオトリフの後について地下への階段を降りていった。

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