第7話 神からの褒美 《看守視点》

 これは……神の褒美が貰える展開だな。


 この世界の神は誰かを助けて命を落とすって状況に物凄く関心を寄せる神だ。出来の悪い子供が立派になって……よしよし褒美をあげよう! とか思っている節がある。その褒美は……。


「ああああ!!! ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

「誰に謝っているのですか?」

「置いてきてしまった大輔…………ああ!!」

「今度は何です?」

「もしかして……華子もここに居るんですか?」


 居ない! とっくに転生している! 


「教える必要が無いので今まで言いませんでしたが……アナタが生まれ変わっている世界は架空のものです。アナタ以外の人間は魂を持たないただの動く人形です」

「……えっ? 時間が戻っているんじゃないの?」

「馬鹿ですね。囚人の為に他の人間の魂を犠牲にする訳ないでしょう? アナタが死んだ瞬間、仮想空間は初期化されていますよ」

「じゃあ……大輔と華子は?」

「守秘義務があるので教える事が出来ません」

「ケチ! ちょっとくらい良いじゃない!」

「ここには居ないとだけ教えておきます」


「良かった……」


 自分の事しか考えていなかった今までと違い他人を思いやる心が芽生えたようだ。もしかすると出所も早いかもしれない。


「では……たった今、黒田眞知の人生を終えて何を思ったか訊かせてください」


 今までと違い穏やかな表情をしている彼女………………あっ! 私としたことが余計な事を言ったかもしれない!


「何か安心しちゃって気が抜けたわ。そうね……頑張って生きたから褒めて欲しい」

「そうですか。偉い、偉い…………不正解です!」

「何それ!」


 これは仕出かした……仮想空間の話をしなかったら、もしかしたら答えを導き出していたかもしれないのに……。始末書ものだな。


「朗報です!」

「突然なに!?」

「神からご褒美が貰えます」

「……胡散臭い」

「失礼な!」


 私は人差し指を彼女の額に向け光を放った。


「ななな何した!?」

「アナタの次の人生は前世の記憶持ちです」

「ええっ!」

「大まかな事しか思い出せませんが危険を回避出来る事は間違いないです」

「じゃあ、じゃあ、じゃあ! 誠也に関わらないようにすることも出来るのね?」

「アナタ次第です」

「あああ! 希望が見えてきた!」


 余程、高橋誠也と関わりたくないんだろう。少し笑ってしまった。でもそれって人間が創作した物語に出てくるフラグって言うヤツじゃないか? 


「前世を思い出すのは七歳前後になります。あまりにも幼いと色々不都合が生じますので」


 乳幼児が喋り出したら大問題だからな。かと言って遅すぎると意味が無くなるし……七歳がギリギリのボーダーラインだな。


「分かった。母親の無理心中を阻止して誠也に関わらないようにして長生きしてここを出る!」


 長生きしたって出られないからな。出所に繋がるキーワードを言わない限り出られないのだ…………やる気を出した彼女には言えないけど。


 パチンと指を鳴らすと仮想空間の扉が開く。


 ご褒美付きの七十九回目の人生の始まりだ。




 彼女の七十七回の人生で関わりの無かった養護施設の子供たち……林原大輔は今回のようにバイトと奨学金で大学を卒業、国家試験に合格して見事社会福祉士になった。

 それを陰で支えていたのが北川華子だった。大輔は社会福祉士として、華子は保育士として長い間子供たちに囲まれて生きていた。二人の間にも三人の子供が生まれ、騒がしくも穏やかで幸せな生涯を送った。


 さあ、褒美付きの彼女の人生はどうなるか?


 前世の記憶が蘇ったとしても、死後刑務所の記憶までは戻らない。何故自分が人生を繰り返しているのか混乱する事だろう。


 やっぱり神は意地悪だ。


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