第17話「カナメ争奪バトル・異世界編」
眩しい閃光のあと、俺は地面に叩きつけられた。でも不思議とそんなに痛くない。
見上げると、空は紫色で、巨大な二つのハート型の月が浮かんでいる。……ここ、絶対異世界だろ。
「……うわぁぁ、俺、どうすりゃ……!」
「よく来たなカナメ! 私の愛の園へッ!」
「私と一緒に、永遠の愛を育くみましょうね!」
「私との運命の共同生活が、今まさに始まるっす!」
バジリコ三姉妹が両脇に仁王立ち。どう見てもテンションが振り切れている上にまだバチバチと睨み合っている。
「いや、なんでだよ!? 俺、帰るからな!」
立ち上がろうとした瞬間、地面が光り、鎖のような魔力が俺の足を拘束した。
「カナメさんは、わたしたちの愛の結晶実験の“被験者”なんですのよ♡」
「選択肢はないっすよ♡」
「さぁ、カナメ!私たちと運命の恋愛契約を結ぶんだ!」
――やばい。完全にヤンデレ空間。
そこへ、空を切り裂くような声。
「待ちなさぁーいッ!!!」
ドゴォォンッ!
火球のような光が降り注ぎ、大地に大穴が開く。その中心に、ビキニ姿のルルが仁王立ちしていた。
「カナメくんを勝手に連れていくなんて、あんた達許さないわよ!」
三姉妹が同時に身構える。
「……来たわね、恋愛マスター」
「でもここは私たちのフィールド。あんたの恋愛術が通じると思って?」
「勝負ですわよ。カナメさんを手に入れるのは、私たちか、あなたか」
「勝負っす!私たちの圧勝っす!」
「上等よッ!」
ルルの瞳が紅く燃える。俺の腕をグイッと抱き寄せ、耳元で囁く。
「見てて、カナメくん……今夜は絶対、あなたを奪ってみせるから♡」
――え、こいつ何でこんなに色気モード全開なんだ!?
胸元の感触が直に押し付けられて、俺の心臓は破裂寸前。
その瞬間、三姉妹の計測器がピピピッと鳴る。
「心拍数上昇っす!」
「ルルにリードされてません!?」
「なら――異世界式・愛の合体バズーカで吹き飛ばすしかねー!」
三姉妹が武器を合体させると、巨大なハート型砲台が形成され、俺ごとルルを狙う。
「はぁぁあ!? 何で俺も巻き込まれるんだよ!」
ルルは笑みを浮かべたまま、俺の手をぎゅっと握る。
「大丈夫よ、カナメくん。二人ならきっと――乗り越えられる」
ズガァァァァン!!!
紫の空に響き渡る爆音。
異世界少女達の俺争奪バトルは、いままさに開幕した――!
その瞬間、ものすごいピンクの衝撃波が俺とルルを包んだ。しかし俺らは、何かの強力なバリアにコーティングされているように、傷付かず衝撃波が左右に弾かれてゆく。
「どうだああああああっ!」
長女が、自信満々の大声で叫んだ。
「あれ!?……ひょっとして……あまり、効いてませんことよ?」
「ダメみたいっす!二人がまだくっついてるっす!」
「お前卑怯だぞ!一体何のバリアを使ったんだ?」
バズーカ撃っておいて、よく卑怯とか言えるな、と苦笑してると、ルルが気になる一言を返す。
「ふふっ!何にも使ってないわよ!私たちの愛のパワーに、あんたらのラブバズーカのパワーが全然足りてないだけ!そんな道具まで使って、諦めたらどうなの?」
「な、なにおおおっ!? 愛のパワーで弾いただってぇ!?」
「認めませんわ!科学の勝利こそ絶対ですのに!」
「やっぱりあれっすよ……二人の心が一つになってるから効かないっす!」
三姉妹が口々に叫び、顔を真っ赤にして歯ぎしりする。
長女は悔しそうにバズーカを床に叩きつけ、次女は涙目でカートリッジを交換し、三女はメモ帳に「愛の力は科学で解析できるのか?」と必死に書き込んでいた。
「よし、お前ら作戦タイムだ!ちょっと集まれ!」
バジリコ三姉妹は、円陣を組むように集まり、何やらヒソヒソと作戦を立てているようだ。
ラビーナ:「……と言うのはどうだ?」
マルティナ:「こうなっては、仕方ないですわね……」
リリカ:「わかったっす!愛は協力っす!」
話し合いが終わると、三人は顔を赤らめて、口々に俺の方を向いて言った。
「カナメ!そんなやつやめて、私たちの方につきな!めちゃくちゃ幸せな未来が待ってるぜ!」
「そうですわよ!私たちカナメ様のために協力することにしましたの」
「そうっす!私らと一緒にみんな仲良く住むっす!ハーレムっすよ!酒池肉林っす!」
……いや、なんで急に満場一致でハーレム推進派になってんだよ!?
異世界人とは言えモテてるのは、正直気分は悪くない。だが、こいつらカレーの《ラブ・ガラムマサラ》が効きすぎただけだろと、俺は冷静になった。
「いやいやいや!俺なんかにそんな価値ないって」
マルティナ:「絶対幸せですわよ、ご飯も掃除も心配いりませんわ」
リリカ:「体は三人で洗ってあげるっす!」
ラビーナ:「カナメさえ体ひとつで来てくれれば何もいらないから。夜なんか週替わりローテーションだぜ!」
……いやいやいやいや!お前ら未来予想図、気が早すぎるだろ!?
しかもローテーションってプロ野球の先発投手かよ!しかも、俺なんか中0日じゃん……。
そうツッコミたかったが、相手はなかなか可愛い3人娘。少しだけ鼻血が出そうな自分がいたのをルルは見逃さなかった。
「ちょっとカナメくん!?まさか、ちょっといいかななんて思ってないよね!?」
「え?」
ギクっとして、ルルの方を見た瞬間。
「今だ!!」
ドガーーン!!
ラビーナの号令で、バジリコ三姉妹は一斉に俺にバズーカを放った。
俺を強力なラブ吸引ビームが包み、気がつくと俺はバジリコ三姉妹に包まれていた。
「カナメ!ようこそ私たちの胸元へ!」
「カナメ様、これで逃げ場はありませんわ♡」
「ふふ、もう抵抗しても無駄っす!」
ぎゅううううっ!
三人同時に抱きついてきて、俺の体は完全にサンドイッチ。前も後ろも横も、全部柔らかさに埋まっていく。
「ちょっ、苦しい!息できない!いや確かに幸せっちゃ幸せだけど!これはこれで不安しかないからな!?」
三姉妹:「「「愛の圧縮抱擁(ラブ・サンドイッチ)!!!」」」
「必殺技名つけるなぁぁぁッ!」と言いつつも不覚にも、その感触がいい気持ちすぎた。
三女リリカが、真顔でメモを取りながら言う。
「データ記録っす!対象の心拍数、臨界突破っす!」
「誰が対象だ!俺か!?臨界って何だよ!!」
ルルはというと、両腕を組みながら鬼のような形相で睨みつけていた。
「……カナメくん……。まさか今、ちょっとでも嬉しそうにしてないよね?」
「してない!してないから!!」
鼻血を拭いながら否定したその瞬間――
「……はいアウト♡」
ルルが指を鳴らすと、背後に無数の魔法陣が展開。
「“嫉妬のお仕置きミサイル・百連撃”!」
ドーン!ドーン!ドーン!ドーン!……。
ラビーナ:「ヤバい!全員避難しろ!」
「やめろぉぉぉ!勘弁してくれぇえぇぇ!!!」
紫の空に、再びド派手な爆音が轟いた――。
命からがら、ルルの百連撃を交わした俺は、ルルに土下座した。
「悪かったルル。お前の方が好きだから、頼むから許してくれ……」
土下座して謝った俺に、ルルは少しだけ微笑む。
「……ま、許してあげるわ。でも次は絶対、私が勝つからね♡」
その瞬間、三姉妹が砂埃の中から這い出てきて叫ぶ。
ラビーナ:「ちょ、待てぇぇ!まだ我々のラブ計画は終わってねーぞ!!」
マルティナ:「あれ?さっきのミサイルで壊されたの私たちのバズーカだけじゃないですの?!?新しい作戦が必要ですわ!」
リリカ:「カナメっち待つっす!もう少しで完全制圧できたのにっす!」
「……もう勘弁してくれぇぇぇ!」
そう言った俺の手をルルがギュッと掴んだ。
そして、反対の手で何やら卵状の黒いカプセルを、放り投げる。
「《ラブ・スモークボール》!カナメくん、行くよ!」
ボワワワワ〜〜ン!!カプセルが爆発し、ルルが「あれ?ちょっと出力強すぎたかも!」と焦る。
一瞬で周囲が濃いピンクの煙に包まれ、眩しい閃光の中で俺の視界は真っ白に。
「……え、何これ!? また爆発かよ!?」
しかし次の瞬間、ルルの手に引かれた俺は川の急流に流されるようにピンク色の何もない世界をただただ前に進んで行った。そして白い光の穴に突っ込むと、ふわりと感覚が変わった。重力も空気も、まるで違う世界の感触――でも同時に、見慣れた自分の部屋の匂いが鼻をくすぐった。
「……あれ? ここ……俺の部屋?」
煙が消えると、俺はルルと並んで布団の上に立っていた。
天井の蛍光灯、机の上のゲーム機、カーテン越しの午後の光――すべてが現実感満点。
「か、帰れた〜……」
ルルは満足げに腕を組み、微笑む。
「ふふ、戻ってきたわね。あの子達の武器は壊したから異世界ラブバトルは一時休戦、だけど……次はもっと手加減しないから♡」
俺は頭を抱え、深呼吸。
「はぁ……もう、勘弁してくれ……。でも、無事に帰れたのはラッキーか?」
ルルは軽く笑って、水着姿のまま俺に抱きついた。
ルルは軽く笑って、水着姿のままギュッと俺に抱きついた。
「さ、カナメくん!これからまた“日常”に戻るわよ。でも……私といる時間は異世界級だから覚悟してね♡」
俺は、異世界のハチャメチャラブバトルから生還した喜びに胸を躍らせ、ルルの破壊力的な愛情に翻弄されて頭を抱える。……その瞬間、ふと、すっかり忘れていたヒナのことが思い浮かんだ。
(……あぁ、俺、この先どうなるんだ……。ルルも、ヒナも、どっちも大事で……どうすりゃいいんだよ……!)
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