第10話 幸運の約束と夜風

タイトル:占い師(イル・カルトマンテ)


第1章 - フォルトゥーナ


【第10話】 幸運の約束と夜風


【あらすじ】

運命のカードの直感は静かに収束し、オルテンシアの励ましで現実へと戻るロレンツォ。不思議な余韻を胸に、彼は夜のテントを後にする。その心に残るのは、幸運の予感と新たな「明日」への約束。


---


「あなたは、幸運な人」

オルテンシアの声が、変わらず柔らかく、甘く響いた。

彼女は空中でまた手を動かし、不思議な軌道を描いた。

「あなたのまわりには、幸運のオーラがある。魂そのものが、幸運に満ちているの」

言葉にひとつひとつ、意図が込められていた。

「あなた自身はそう思っていないかもしれない。でも、あなたの魂はそうなの。以前の生でも、あなたは運に恵まれていた。いつ生まれ変わっても、幸運はあなたのそばにあった。それが、あなたという存在。あなたの本質。そして、力なのよ」

「…これで、終わりなのか?」

ロレンツォはまだ混乱した様子で、テントの入口上部に掲げられた看板を見た。

──「グレート・セス、未来を語る者」

だが、そこにはもう誰もいなかった。サーカスの灯りも、すべて消えていた。

「みんな帰ったのか…?」

ロレンツォは困惑しながら呟いた。

「遅い時間だから」

オルテンシアが答えた。その声は、いつも通り丁寧でゆっくりだった。

そして、彼女は微笑みながら繰り返した。

「もう、だいぶ夜が更けているの」

ロレンツォは戸惑いつつも、別れの挨拶をした。

だが彼女は、そっと囁いた。

「また明日、会いましょう」

「明日?」

彼は思わず聞き返した。

オルテンシアは小さくうなずいた。

「あなたのチケットは特別なの。一週間ずっと有効なのよ」

「一週間…?」

「水曜日だけは休演日だけどね。明日、また来てくれる?」

ロレンツォは、何と答えればいいか分からなかった。

「…多分、行くよ」とだけ言った。

「じゃあ、待ってる」

そう言って、オルテンシアは再びテントの中へと消えていった。

彼は彼女の姿が完全に見えなくなるまで、ただそこに立ち尽くしていた。

夜風が、彼の意識を完全に覚醒させた。

いったい、どれほどの時間が経っていたのだろう?

彼の感覚では、ほんの数分に思えた。だが、実際には何時間も経っているようだった。

──奇妙だ。

今はただ、眠りたいという気持ちしかなかった。

入口の方では、係員が閉場の準備をして彼の退出を待っていた。

ロレンツォは両手をポケットに入れ、静かに出口へと向かった。


---


(続く)

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