花天月地【第46話 星許の庵】

七海ポルカ

第1話



 夕暮れの光の中、村が見えて来た。


「日が落ちる前に辿り着けて良かった。少し無理させてしまったけど、足は大丈夫?」


 徐庶じょしょが振り返ると、陸議りくぎは「平気です」と頷いて笑みを返した。

 少しその笑みを見て、徐庶は頷く。


 おーい、と向こうから聞こえて来る。声が木霊こだました。


 前を向くと、村の入り口付近に手を振る姿が見えた。

 馬を急がせる。

 徐庶と陸議は一度この村を後にして、山道沿いにある村を見て来たのだ。

 涼州騎馬隊を臨洮りんとう以南で見たことがあるか、村で聞いて確認したのである。


 答えは、どの村でも否だった。


『そういえば最近涼州騎馬隊は見ないなあ』と皆、口を揃えて言っていた。

 

 答えは出たので張遼ちょうりょうの陣まで戻り、詳細を話して本陣に伝令を送って貰う。


 張遼は近隣を見回っていて不在だったので、彼の副官に全てを伝えた。

 徐庶と陸議の話は聞いていたようで、二人がここに戻った場合は幕舎ばくしゃの用意をと命じられていたらしい。


「幕舎の準備をしましょう」


 徐庶は、実は涼州の知り合いと偶然出会ったので、今日は彼の所で泊まることにしようと思う、他に何か色々聞けるかもしれないからと説明した。


「陸議殿も伴うので心配しないで下さい。それから北の様子は注視し、何か異変があればすぐ戻ります」


 それを聞いて副官は「分かりました。報告しておきます」と答えた。


 徐庶と陸議はそこから一気に山道を戻り、一番最初の村に戻ってきた。

 出会った友人が「折角会ったんだからもっと話したい」と言ったので、今夜は彼の家に泊めて貰うことになったのだ。


風雅ふうが


 入り口の切り株に座って待っていた友人を見て徐庶が馬から下り、笑いながら歩いて行く。


「待っててくれたのか。村の人に聞いて、家に訪ねて行ったのに」


「村の中にないんだよ。死んだ祖父の昔住んでいた家なんだ。

 そこの脇道をちょっと上がって行くとあるんだけど、暗くなったら道が分かりにくくなるかなと思って。

 大丈夫、ずっとここで待ってたんじゃない。

 村の友達に挨拶したり、今夜の飯の材料を買ったり。

 いい鹿の肉があったよ。

 それに蝋も貰った。

 普段は誰も住んでないから、何もなくて」


 徐庶は振り返って、陸議に紹介した。


「陸議殿、こちらは黄風雅こうふうが。以前涼州に来た時とても世話になった人なんだ」

「こんにちは。俺は黄巌こうがんと言います」

 徐庶も長身だったが、黄風雅も背が非常に高い人物である。

 それに陸議にはすぐ、武芸の心得がある人だということが分かった。

 別に何か大層な装備をしているわけではないが、何となく感じ取ったのだ。


「元直がまた涼州に来てくれるだけじゃなくて、友達まで連れて来てくれるなんて嬉しいなあ」

陸伯言りくはくげんと言います。よろしくお願いします」


 握手をすると、大きく温かい手だったが、はっきりと手の平に堅さを感じた。

 武器を扱う者の手だ。


「用事はもう済んだのか?」


「うん。山道沿いの村も見て来たよ」

「ここからは少し道が険しいから、馬は下りて引いた方がいいよ」

 徐庶と陸議が頷いて、先導する黄巌こうがんについていった。


「当分晴れるみたいだし、明日ゆっくり回ればいいのに。

 元直、また何かして追われてるんじゃないだろうな?」


「ちがうよ」


 黄巌もからかうように言ったのだが、徐庶も笑って返している。


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