推しが《千刃の姫》と呼ばれ始めたので、縛りダンジョンで最強を目指す

をれっと

第一章 縛りダンジョン!?

第1話 プロローグ

「うっく……ふん!っつ!だぁっく!ぬんぐっぐっぐっぐっ!…しゃあああ!」


 俺は締道極しめみちきわみ。絶賛ゲーム配信中である。俺は発売から10年以上経った死にゲーを、ノー武器ノー防具ノーデスノーバグ縛りで配信していた。


 もうずいぶん遊び尽くした。味がしなくなるまで遊び尽くしていると思う。骨の髄までしゃぶりつくし、ついには骨を噛み砕いて味わい出したとも言える。このゲームは続編が出ているというのに、そちらは買わずにこのゲームを遊び続けている。


 俺は飽き性だ。しかし、一つのゲームを10年以上遊んでいる。それはなぜか。


 俺は極度の貧乏性だからだ。


 今では貧乏ではないが、俺の小さい頃は親の「お金さえあれば」「お金がない」という言葉を聞き続けながら生きてきたせいで、俺は貧乏性になった。


 たいていのものを買う時、俺は極度のストレスを感じる。このゲームを買う時も、配信機材を揃えた時も、1ヶ月以上悩みに悩み続けてようやく購入に踏み出したくらいだ。


 俺はゲームが大好きだ。リアルでは高いお金を払わないと味わえない、このを、安価で味わうことができる。しかし、俺は極度の貧乏性なので、新しくゲームを買う勇気はない。では、どうするか?


 自分で縛りを設けて、何十通り、何百通りの遊び方を模索し、実践するのだ。そうすれば、一つのゲームで遊べる時間は長くなる。さらに、縛りを増やせば増やすほど難易度が増し、このヒリつきも一層大きくなる。


 あまりにも合理的で賢い自分に感謝したい。安価でこれほどまでに楽しむことができることを。


 さらにそこに、配信をすることによって自分に監視者をつける。そうすると、縛りを緩くしたり、甘えたりすることはできなくなるし、俺のとてつもないプレイングを見てチヤホヤしてくれるだろう。ついでに広告収入も手に入れば最高だ!


 そう思って始めた配信なのだが……


『おめでとー!』


「お、霧龍さん、ありがとー!」


 チラリと自分の配信画面を見ると、視聴者数は2と書いてあった。一つは俺が自分で自分の配信を開いているだけなので、一人しか見ていないということになる。


 学生時代、本気でゲーム配信者を目指したことがあったが、その時から今までほとんど視聴者はいなかった。今でもたまに見にきてくれる人はいるが…でも本当にたまにといった感じだ。というか、霧龍さんくらいしか見に来ない。まぁ彼女はネッ友みたいな節もあるからな。


 一人も純粋な視聴者がつかない原因は明白。俺のトークスキルの低さだ。


 そもそも俺は人が見ていようが見てなかろうが、ゲームに集中しすぎて話すことを忘れてしまうタチなのだ。まず向いてない。


 しかし、夢見てしまうのだ。ゲームで遊んでるだけでお金が入ってくる状況を。


 まぁ、そんな俺も今では社会人。平日は馬車馬のように働き、帰ってきてからは無気力か、残業終わりで自由な時間などない。もう夢は追えそうにない。


 こんな社畜こどおじになるつもりなんてなかったのに……


 俺は悲しい気持ちになりながらも、キリがいいので配信を切ろうと思ったその時、霧龍さんがこんなコメントをした。


『SNS見た?すごいことになってるよ』


 俺はすぐにSNSを開いた。


「え?」


 そこには、こんな投稿があった。

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総務省_危機管理広報


【速報】本日12:18、東京都渋谷区にて異常空間のゲートを確認。

政府はこれを「未知構造体(通称:ダンジョン)」と定義。

付近住民は避難を開始しています。詳細は追って報告します。

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 SNSはその話題で持ちきりだった。


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アンガーアンカー


ダンジョンの中入ってみたwwww


【動画】

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 その動画には、やけに整備された道が映っていた。明かりもある。そしてよく目を凝らすと、スライムっぽい姿も見える。


 しかし、その投稿者はそこらへんで引き返したようで、それ以上の情報はなかった。


 さらにダンジョンで検索をかけ、スクロールしていくと、こんな投稿が増えていた。


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nene_365


 友達がダンジョンに入って行ってから帰ってこないんだけど…

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 どうやら数時間前、奇妙なことが起こったようだ。世界中で同時に震度2程度の地震が発生していたらしい。


 ただ、良くも悪くも地震に慣れすぎた日本人である俺は、揺れたことにも気づかずに配信していた。


 俺はその瞬間につぶやいた。


「これ、ラノベでみたとこだ!」


 間違いない。これは現代にダンジョンが現れるパティーンのやつである。


 そして大抵、魔石で電力問題が解決し、魔法で医療が進み、そして配信活動が活発化するのだ。


 そこで俺はようやくテレビをつけた。


『ダンジョンに入った人々の行方不明が相次いでおり、奇妙な生物がはっけんされているようです。政府は、これを緊急事態とみなし、ダンジョンへの侵入を禁止しました』


 完全にそうだ。


「ごめん、ちょっと配信切る!みてくれてありがとね!」


 俺は急いで配信を切り、証券口座を開く。


 大体現代ダンジョン小説において、魔石がクリーンなエネルギー源として注目を浴びたり、魔法で医療が進んだり、魔物の素材でファッションが進んだり、ダンジョン配信が盛んになったりする。つまり、需要が動くと言うことだ。


 俺は片っ端から上がりそうな業界に今までの貯金全てをフルベットした。今まで積み立ててた投資信託も半分売ってまで買った。


 おそらくだが、これからしばらくたつと冒険者という職業が出てくる。しかし、黎明期の冒険者はおそらく手探り状態での探索になり、非常に危険だ。さらに、ダンジョン配信がはやるとも限らない。


 それなら、今投資をしておいて、ダンジョン配信が盛んになってきたときに俺もまた挑戦できるようにしておいた方がいい。


 まぁ、配信のことだけを考えるのであればダンジョンが解放されてすぐに行くべきなのだろうが、俺も命が惜しいのでそこらへんは気の狂った先駆者様にお任せかな。


 俺は今後の方針を思い浮かべ、ニヤニヤしていた。

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