第10話 人の身体をリサイクルするな
シャワーを浴び、私達は借りている部屋へと戻ってきた。思わずベッドにダイブしたのは言うまでもない。それにしても、暫く、ステータスを見ていなかったが、ちょっと見てみるとしようか。私は起き上がると、ベッドの上に胡座をかいた。
「ステータスオープン。」
私の前にステータスウィンドウが開かれる。ネレイドは、同じようにベッドに付していたが、私の言葉に反応して、頭の上へと乗ってきた。
【レイ・ムメイ】
天賦:【勇者】【タイプ:召喚】
職業:【魔法使い】
固定スキル:【
効果:詠唱加速 、魔力向上、魔法威力向上、成長加速、目標自動照準
取得:【火魔法(下位)】【探索魔法(下位)】【水魔法(下位)】【風魔法(下位)】【土魔法(下位)】【収納魔法】【解析魔法(下位)】
能力値
STR:9 CON:7 POW:13 DEX:13 APP:13
SIZ:8 INT:15 EDU:15 MP:463(残:430)
ステータス結果に、属性魔法からの変化はなかったこと、まだ下位なんだなという部分に、腕を組み、右手で顎を触る。やはり、魔法は四元素を元にした属性魔法であり、その効果がイメージによって変化することが多いのだろうか。
まぁ、魔法はイメージであることは証明できている。何処かの機会で、魔術書か何かを探すとしよう。そう考えていると、ネレイドがベッド横のデスクに置いた手紙を指差した。手を伸ばせば取れる位置にあり、まだ開いていなかった。
「みぃ!」
見ようと言わんばかりに鳴いているネレイドに、私は頷いて手紙の封筒を開いた。手紙の封筒は、黒色で金地で装飾が描かれていた。中二病心を擽るデザインである。
拝啓から始まった内容に、私は眉を顰めた。宛先は私ではあったが、出だしには、勇者と書かれていた。宛先はと、封筒を見ると、隅に異国風の言語で、書かれていた。
吸血大公──ブラム・クラウディウスと。
クラウディウスといえば、ここにかつてあったという都市名だ。そういえば、誰も吸血大公の名前は出さなかった。もしかして、誰も、知らない?どうしてそこを聞いてこなかったんだろう、私!
封筒を持ったまま、あーだのこーたのと唸っていると、ネレイドが私の頭を叩いた。早くしろと、催促をしてくるかのようで、私はむんず、と掴んで捏ねまくった。ネレイドは、抵抗するように暴れていたが、知らない。そうして、一通り捏ねくり回したあと、手紙をようやく開いた。ネレイドはぐったりしたように溶けながらも、手紙を開くと元へと戻り、頭の上へと乗った。
拝啓、勇者殿と書かれた手紙には、回りくどい、話し方がめんどくさい、単刀直入に書けと言わんばかりの書き方であった。そんな長々と書かれていたが、ざっくりと纏めてしまうと、招待状だった。どうして、招待状なのかというと、どうやら、再戦を望んでいるらしい。あなたを倒した勇者はもう死んでるんですけど。
───古き因縁を精算致しましょう。
そう締めくくられている言葉に、率直な感想といえば、知らんがな、であった。ネレイドは、よく意味が分からなかったのか、途中でこれなに、と言わんばかりに紙を叩いていた。そりゃあそうだわ。回りくどすぎて分からないもの。そんな言い回しだった。
しかし、クラウディウスと。ファンタジーやミステリーをそれなりに読んできたから分かる。絶対にこの都市と関係性がある。むしろ、無かったら、叫んでやるからな。
まぁ、向こうの目的は大まかにこうだろう。弱っちい勇者を倒して、その身体も眷属にしちゃおう、ということだろうか。人の身体をリサイクルしないでもらっていいかな。
丁寧に場所も書いてくれている。一応、聞くけれど、これ、私が竜大公と手を組むなんて考えがないのかな。それとも、一般的に
まず、斃されても消滅しない不滅性をどうにかしないと、ずっとストーカーしてくるのである。鬱陶しくて仕方ない。それに、デュエム嬢も安心して遊ぶことができない。幼い子は遊ぶのが仕事だ。すくすく育ってほしいものである。
そうと決まれば、吸血鬼を倒すための魔法を覚えるしかない。働かせ、想像力と、思ったが、アルコールの入った頭は限界だったようで、眠気が襲ってきた。忘れてたわ、と思う頃には布団に倒れ込み、意識を手放していた。
──その夜、夢を見た。
見知らぬ場所に、私は立っていた。私は透明で、声も出せない。私と同じ空間には、人がいた。
月白色の、短い髪の男性。ストレートヘアというよりは、ところどころ跳ねている。私と似た軍服のデザインの色違いの黒色のコートを羽織り、黒の襟の白色のシャツに、蒼い宝石がつけられたネクタイを締め、ベストを着て、白色のスキニーパンツを履いている。
見知らぬ男性だった。見た限り、10代後半から20代前半までだろうか。そんな彼は、腰に剣を携えている。柄しか見えないが、柄は全体的に金色で、太陽をモチーフにした装飾が描かれている。他にも、太陽のモチーフの円の下の方には、鮮やかな青い宝石───私が持つ、イヤリングと同じ宝石、タンザナイトがはめられている。
そんな彼は、中心に円形の運動場のような雰囲気の空間を見下ろす場所で、誰かと話していた。どうやら、その人物は女性のようで、顔は影が掛かって見えなかったが、黒色の袖口がバルーンスリーブとなっている服に、金地で縦に線が入ったスキニーパンツを履いている、恐らくかっこいい系のような雰囲気を持っていた。
何を話しているかは聞こえない。だが、女性の言葉に、男性が、頬を赤らめて、何かを叫ぶ。それを見て、女性は口元に手を当てて笑っているようだった。その様子から、揶揄われているのだなという雰囲気は見て取れた。
男性は拗ねるように、眉を顰めながらも、何かを女性へと話す。読唇術なぞ会得していない為、何を言っているのか不明である。女性もまた、男性の言葉に腕を組み、右手を男性へと向けながらも何かを返していた。
場面が変わる。中心のあの運動場のような場所で、多くの観衆がいる中で、男性は剣を振るっていた。相手は、槍を持った男性で、突進するように男性へと迫ってきた。
だが、男性は身を翻し、その槍先を避けると、剣を男性の首筋へと突きつけた。音こそ聞こえないが、観衆の沸き立つ様子から、盛り上がっているのは見えた。
審判者のような男性が、手を上げ、剣を持つ男性へとその手を向ける。さらに、観衆は沸き立つ動作を見せた。
男性は、上を見上げる。その視線の先には、女性がいた。影が掛かって顔こそは見えないものの、服装は、先ほどと同じことから、場面が変わる前に話していた女性だということは理解できた。
女性は、拍手をしながら、男性を見下ろしていた。男性は顔を背けると、運動場のような場所を横断し、建物の中へと入っていく。まるで、武闘会のようだな、と考えていた。
私は眺めているだけだった。よくわからないまま、眺めている。建物の中に入り、控室のような場所で、一息をつく男性の顔が見えた。その瞳は、私と同じ、オッドアイ。そして、違うのは、ロシアンブルーの瞳は、左目だということだった。そんな彼が、私の立つ場所を不意に見て───視線があった。
そこで、目が覚めた。私は、むくりと起き上がると何度か瞬きを繰り返す。そして、ぼんやりとする思考の中で、先程の夢を思い返す。
そうして、浮かぶのはカピトリヌスでの杖の店主の言葉であった。
───対をあらわすかのように左右違う瞳がそれぞれ、が左右反対で現れる。
私は、自身の右目へと手を持っていき、覆う。目を瞑ると、鮮明にあの男性の瞳が思い浮かぶ。
「思ったより、若かったな。」
ポツリと呟いた。思い返せば思い返すほど、私の年齢よりも年下であるような気がした。どう見ても、自分より年上には思えない。これで年上だったら謝るしかない。
さて、どうして、私はその夢を見たのだろうかということを考えても答えは出ない気がするので、場所を考えるとしよう。おそらくだが、彼が動いていなければ、英雄の都カエリウスということだろう。運動場のような、武闘会を開いていた場所、あれは、コロッセオだ。私の世界でも、コロッセオはあった。なるほど、武を競うというわけか。弱肉強食の世界感かもしれないなと身震いをしていると、私が起きたことに気づいたのか、ネレイドが目を擦りながら、みぃ、と鳴いた。
「おはよう、ネレ。」
私は隣のネレイドへと視線を向ける。ネレイドは、あくびをしながら、みぃ、と鳴いた。本当に、人くさい動きをするスライムである。
私はベットから出ると、身支度を行った。顔を洗い、服を着て、髪を整える。そうしている間に、ネレイドは目を覚ましたらしく、ベットの上で跳ねていた。
私は壁に立てかけていた杖を取る。杖の状態は、問題ない。亀裂もなく、傷もない。銀色の月は輝いている。流石は、職人であると、カピトリヌスの杖屋の主人の男性の顔を思い出した。ついでに、なぜか、パラティヌスの支部長も浮かんだが、掻き消しておいた。
そうして、準備が終わると、私はベットで跳ねていたネレイドへと振り返った。
「よし、行こうか、ネレ。」
「みぃ!」
ネレイドは、私の頭の上へと飛び乗った。すっかり、定位置になってしまった。そうして、私達は宿屋を出たのであった。とりあえず、もう一度、パラティヌスの支部長へと会いにいくとしよう。
なぜか?理由は一つ、
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