月と金

ススム

パンドラの箱

  いつも少しだけ長引いてしまう

  友との帰り道

  このままでいいやって思うのに

  門限があるとか 礼儀とか

  理由があるから

  軽口叩いて「また今度」




  違う道を

  同じように進む

  靴音を聞きながら

  木々やビルの影に町は包まれて

  世界の向こうに見える雲と山だけが

  夕焼けに輝いていることに

  そこで初めて気が付くんだ




  町の影はついに夜闇に場を譲った

  片耳のAirpodsが唯一の慰め

  いくつか浮かんでいた 星も

  厚い雲が隠してしまった

  もうあの足音は聞こえない




  すれ違う人々も

  夜の闇に溶け込んで よく見えない

  きっと自分も同じように

  誰からも見られていないんだろう

  冷たい滴が顔を伝って

  雨が降ってきた

  平気なフリして歩き続ける

  自分にだけ聞こえるイヤホンの音

  日々の疲れと 人知れぬ悩み

  これを癒せるのはたった一人

  だけど


  でも そういえば

  あいつはこの曲、嫌いだったよな




  雨が強まり 足を速めた

  全身ずぶ濡れで ひたすら走った

  水のざわめき以外

  もう何も聞こえない




  それは秘密に似ている

  それは孤独を強いている

  誰もが心に抱えてしまっている

  それを開けるのがとても恐ろしい


  世界で一番見知った友なのに

  お互いそう信じているのに

  深入りを許さない

  目に視えない壁

  冷たい鋼鉄の壁

  血の通った自分の手の温もりでも

  すべて開け放つことは不可能なのか

  そんなこと誰も

  求めてないのだろうか.....






  迷惑な雨もいつの間にか止んでいた

  息を整えて 引いていく雲の間に

  星が一つ二つちらついているのを

  黙って数えた

  じっと見つめていると

  蝋燭の火みたいに

  揺れているようだった




  「また今度」って言い合うとき

  胸の内をくすぐる温かさ

  きっとそれが希望なんだろうな  

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