あなたの手

 あなたの顔が大好きで、拝み倒して結婚してもらった六十年前。女学校の親友は伴侶を顔で選ぶのか?アンタらしいと笑いました。  


 出産、子育て、本当に良い父親でした。本音を言えばもう少し手伝って欲しかったけど上出来です。  


 二人目の妊娠中、あなたは職場の若い子と……いえいえ、これは忘れましょう。土下座とダイヤのネックレス、これで許してあげました。 


 子どもが嫁いだその後に、株で退職金を溶かしたけれど、不自由なくこの歳を迎えることができました。  

 

 三年前のあの夜にあなたが伸ばしてきたその手。


「こんな歳で気持ち悪い。」  


 振り払ったのは照れたから。  


 翌朝に「胸が痛い」と言ってから死ぬまでたったの六十分。  

 何か一言、送れるならば、あの日の私につたえます。


「その手をずっと繋いでて。」

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