【ボイスドラマ】クールビューティーな白鳥さん
にわ冬莉
第1話 クールビューティーな私
──変わらなきゃいけないって思ったの。
「私の名前は、白鳥珊瑚です……ふぅ」
このアニメ声……。
自分ではずっと可愛いって思ってたんだけど、「珊瑚ちゃんって、声とか喋り方、かわい子ぶりっこしてて気持ち悪い!」って言われたあの時、ああ、違うんだ、可愛くないんだ、って初めて知った。
だから中学卒業のタイミングで、私はキャラ変をしたの。クールビューティーを目指して、“可愛い”から“カッコいい”へのシフト。ちょうど身長も伸びてきたタイミングだったから、成功したと思う。学校も、すごく遠くを選んだから、昔の私を知る人物は誰もいないし。
長話をするとバレちゃうから、会話は最小限。だけど、微笑みは絶やさず、声はなるべく低く、動揺は見せず、大人の対応。そんな風にしていたら、何故だか急にモテ出したんだよねぇ。
……男子からじゃないよっ? 女子からだよっ?
んもぉ、ほんと意味わかんない~!!
私は男子と、普通に恋愛したかったのにぃぃ!
放課後、手を繋いで帰ったりぃ~、二人で映画観に行ったりぃ~、夜の公園で思わずキスしちゃったり! ……って、ちょっと~! やだやだ恥ずかしいぃ! きゃ~! でもぉ、あぁこぉがぁれぇるぅぅ! やりたいやりたい~! そういうのやりたいよぉぉ!
……でも。
私に求められてるのは、それじゃない。そもそも私には、可愛いなんて似合わないってわかったから……。
身長も伸びて、髪を短くして、クールビューティーでいくって決めたあの日から、私の作戦は、ある意味、大成功を収めてるんだ。今更「可愛い」に戻ることなんか、出来ないんだよぅ。
◇
「それじゃ、私はここで。え? ああ、ごめんね。ちょっと図書室に用があって……うん、また明日ね」
私はクールに微笑み、軽く片手を上げると、渡り廊下でクラスメイトと別れた。
ばいばーい!と可愛く手を振る彼女たちを見てると──羨ましいしかない! 私だって「ばいばぁぁい!」ってはち切れんばかりの高音を出して思いっきり手を振ってみたぁい!
……ううん、ダメよ。いつまでも過去にしがみついてる自分、めっ! 私はあくまでもクールビューティーを目指してぇっ、目指し……ううう……。
かぁわぁいぃいが恋しいよぉぉぉ!
叫びたい! 甲高い声で「きゅ~ん❤」とか「きゃぁぁん❤」とか、叫びたぁぁい!
……なんてことは口に出さずに、私は図書室へ向かう。
物語の中でだけは、可愛いが許される。私はきゅんでスイートな恋愛小説を読み漁っては、私の中にある消化しきれない想いを、ひたすら消化するんだ。
「あっ、新刊出てる……」
小さな声で呟くと、大好きな恋愛小説の新刊を手にする。これ、めちゃくちゃ切ないラブストーリーなんだっ。主人公は健気で頑張り屋で、だけど報われない女の子。そんな彼女が恋をした相手が、なんと親友の彼氏で、何度も諦めようとするんだけど、お互い惹かれ合っちゃう。それが親友にバレて、親友が自殺未遂とかしちゃって……ああ、この先どうなっちゃうのぉぉ? ……ってところで終わってたんだ。早く続きが読みたぁぁい!
いつもだったら借りて帰って家で読むんだけど、もう我慢できないっ。今日はここで読んじゃうもんねっ。ってわけで、私は席を探す。テスト前じゃなければ、図書館なんて人も少ないから、席はいっぱいあった。
窓際の、カーテンが揺れるあの席。あそこで本を読んだら、パッと見、クールビューティーいけそうじゃない? な~んて。ふふっ。
スキップしちゃいそうな心を抑え、私は澄ました顔で席に着く。一瞬辺りを見回したけど、人はいない。よっしゃ、読もう~!
一度大きく息を吐き出すと、心を落ち着かせページをめくる。そこには確実なるきゅんがあり、健気と切なさと可愛いが渦巻く。
待って、彼ってば彼女の親に責められて、主人公と会うこと禁じられちゃったじゃない! 主人公、自分のせいだってめちゃくちゃ泣いて、彼とはもう二度と会わないって……でもでも、それでほんとにいいのっ? だって二人は運命の相手でしょうっ?
ああ、ほら、やっぱり惹かれ合ってるじゃないっ。秘密の花園で手を握り合って……言葉なんかいらないんだね、素敵ぃぃぃ!
私、夢中でページをめくってた。だから、本を読みながら自分がどんな顔してるかなんて全く考えてもいなかった。
なんとなく視線を感じ、ふと顔を上げる。と、私をじっと見てる二つの目。ひゃぁ! 焦ったぁぁ! でも大丈夫、ちゃんといつもの私の声で、少しだけ戸惑った感じで……
「……あの、なにか?」
そう口にした。相手は……中等部の男の子? 上履きの色が中等部の色なんだもん。まだ幼さの残るキュートな顔立ち。背も小さくて、目がクリッとしてて、すっごく可愛らしい感じの男の子だった。
私の質問に、その子は一瞬驚いた顔をした。そして、信じられないことを口にしたのよ!
「いえ、なんだか可愛いな、って思って、つい」
か、わ、い、い?
ちょ、今、私に向かって「可愛いなと思って」って言ったぁぁ?
「あの、私……ですか?」
思わず聞き返しちゃう。本の表紙とか、本棚のことだったらごめんだけど!
目の前の少年は、童顔のくせに大人びた視線でコクンと頷き、私をじっと見つめてきた。どうやら合っていたらしい。私のことを可愛いと……って、私? だって、私よっ? クールビューティーはじめました、の私に向かって、可愛い? ヤバい! 恥ずかしさと焦りでいつものクールビューティーがぴぃぃぃんち!
「そのっ、な、何かの間違いじゃないかな? 私に、かっ、可愛いとか」
声は保てた! だけど、めちゃくちゃ噛んだよぉ!
「そんな赤い顔して、ほんと、可愛らしいですね、先輩」
小悪魔的な微笑みで首を傾げる男の子に、私は……射貫かれそうになった。
~続
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