SCHOOL/SURVIVERS

秋乃楓

第1話 終ワリ/始マリ

 20XX年、科学が今より発展した世界。

政府は自国の技術を発展させる為にとある法案を設立した。

それはMMOゲームを題材により高度な教育を行うという前代未聞の

モノでVRという仮想現実の世界を通して様々な体験を通じ、

将来の優れた人材を育成するというコンセプト。

それはプロジェクト・フューチャーという愛称の元、構想から現実へと至った。

海に面した位置に建てられたそこは人口240万人の中で内160万人が学生という

大規模な学園都市として設立された。


これは学生達の、学生達による将来を掛けた果てしない争いの物語である。

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 目覚ましをセットしたスマホのアラームが鳴り、一人の少女がベットの上で目を覚ます。ボサボサになったショートヘアの黒髪に赤いインナーカラーを入れている彼女の名前は平井美羽ひらいみう、何処にでも居る普通の16歳の高校生。

欠伸を一つしてからアラームを止めるとベットから降りて部屋を出る。

階段を下りてリビングのドアを開けると黒髪を後ろでポニーテールに結んだ姉である平井侑香里ひらいゆかりが台所でスーツの上に桃色のエプロンを巻いて調理していた。


「おはよー、お姉ちゃん」



「おはよーじゃないわよ。今日からでしょ?新しい学校。ちゃんと入学証持った? 」



「持ってるよ、大丈夫だってば!スーツケースも荷物も全部準備したし 」



「なら良いけど 」



「今日は何?トースト?それとも白いご飯? 」



「トースト、目玉焼きにサラダ。いつものよ? 」


 ウキウキしているが姉の作る朝食を食べられるのも今日で最後、

明日からは学園都市にある学生寮での生活が始まる。

2人の両親は地方に住んでいて一番上の兄が先に上京し姉の侑香里が続いて上京、美羽本人は姉の家に住む形で上京した。美羽は通信制の高校に通っていたが

途中で退学し聖陽学園という最新鋭の設備が整った学校へ転入する事になった。

朝食を済ませてから水色のフード付きパーカーとヘッドフォン、赤色のスカートにそれぞれ着替えてから姉と共に家を出ると玄関先で振り返る。


「じゃあ、今度は夏休みに 」



「そうね。寂しくなるけど...ちゃんとやんなさいよ?上手く行けば将来安定なんだから 」



「そりゃあ勿論頑張りますよ。それじゃ、また! 」


 侑香里とグータッチを交わしてからスーツケースを引いて右方向へ歩いて行く。最寄りのバス停で今度はバスへ乗って移動すると約20分で聖陽学園前へ辿り着いた。

そこは海沿いに面した場所であると同時に多くのビルや建物が立ち並んでいて

言い表すなら都市と言っても過言ではない。彼女はバスを降りて学校がある方面へと

向かって歩いて行った。

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 同じ頃、1人の少年が立ち尽くしていた。

黒髪のショートカットヘアに上下黒の学生服姿の彼は高岩勇輝たかいわゆうき

と言ってこの聖陽学園の生徒。そして彼の目の前に居る4人組は元々彼が居たチーム...ギルドという集団のメンバーだった。


「...では規則通り、今日付けでキミを我がギルドから追放とする 」



「そんな...どうしてですか、福山さん!まだ選ばれてそんなに経ってないのに… 」



「どうして?それはキミが一番知っているだろう。は我がギルドに相応しくないんだよ 」 


 リーダー格である福山徹ふくやまとおるという長身で細身の男が淡々とそう告げた。


「貢献度が低い者、役に立たない者、品性を欠く者は我がギルドに不要...それに使えるスキルは未だに戦闘鼓舞だけ。そんなモノは何の役にも立たない、つまりゴミという訳だ 」



「ッ...... 」


すると今度は彼の近くに居た桃色髪をツインテールにした少女が飴を舐めながら話し出した。


「ま、居るだけお荷物ってヤツ?カワイソーだよねぇ、折角抽選で選ばれたのに入学してたった数日でポイだなんてさ!キャハハハッ!! 」



 これ以上は何も言い返せず、差し出された用紙を受け取るとそこへサインを書き記した。背後では自分を笑いものとし嘲笑する声だけが聞こえて来る。

彼等はこの学校に存在するカースト制度の中の上位種達であり、毎回1枠だけ抽選で決められて構成されるのだ。勇輝も抽選で選ばれたが満足な活躍すら出来ぬまま

こうして追放されてしまった。本来は1年以上は持つ筈なのだがリーダーの権限でそれは好き勝手出来てしまうのは事実でこれに関しては制度を作った教師陣も見て見ぬフリをしている。何故なら福山徹の父親はこの学校の理事長であり、下手に意見すればどうなるか解らないからだ。


「はぁ...僕はこれからどうなるんだろう...今更、スキルを変えてくれだなんて言えないしなぁ 」


 入学した当初は格好良いという理由と安定しているという理由でブレイバーというクラスを選択した。だが現実はそう上手くいかない、言ってしまえば自分は落ちこぼれだからだ。幾ら頑張ろうが、努力しようが何も変わらないのは事実で毎日が地獄の様に感じられる。校内へ戻ると友人の須田明すだあきら小河原岳人おがわらがくとと出会った。明るめな茶髪のボブカットで眼鏡を掛けた明が話し掛けて来る。


「顔色悪いけど...大丈夫か? 」



「ま、まぁね...追放だってさ 」



「追放!?まだ選ばれて五日目だぞ、幾ら何でも早過ぎるって!!普通はもう少し様子を見るとかさ...そりゃあ俺達はランク下のクラスだけど...... 」



「良いよ、もう決まったんだから。少し1人にしてくれないか? 」


 勇輝はそう言い残すと二人の前から去った。

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 その頃、美羽は事務室で羽切昴はぎりすばるという若い男性教諭と

一対一で話し合いをしていた。机の上には各クラスの説明が記載された用紙の他に

学生寮や施設で使うIDカードが置かれている。

彼から説明されたのは学生寮の門限、授業の話、ギルドの説明と校則及びその他。

後はクラスだけなのだが美羽はペンをクルクル回しながら一覧を眺めていた。


「おすすめはブレイバーだけど、女子ならウィッチャーが人気だね。後は平井さん次第だと思うけど...テストプレイの成績からしておすすめなのはマスターかな?キミなら十分やっていけると思うよ 」



「ふぅん...このっていうのは何ですか? 」



「シャドウ?あぁ...これは比較的に選ぶ生徒が少ないクラスだよ。言うなれば少数派でこれを最初に選んだ生徒は決まって途中で申請し別クラスに変えてしまうんだ。サブクラスも扱い難いって話だよ。だから── 」


しかし美羽は薄桃色の舌を少し出してニッと笑った。



「...へぇ、面白そうですね。私、シャドウにします 」



「そうかシャドウにするのか......って本気で言ってるのか!?キミの腕前ならどう考えてもマスターの方が良い筈だぞ?! 」



「でもこれ、言っちゃえばゲームでしょ?最初から強いなんてつまらないじゃないですか。努力して強くなるのがゲームの醍醐味、苦難があってこそゲームは面白いんです!! 」



「し、しかしだねぇ...! 」



「大丈夫ですよ、そう簡単に根を上げたりしませんから 」


 美羽はペンでシャドウという字に丸を付けると微笑んだ。そして一通りの説明を受けて教室から出た後に昴から貰ったのはそれぞれ箱に入った小型のスマホの様な端末と何かを嵌める為の銀色をした装置の様な物。それを不思議そうに彼女は見つめていた。


「これ何ですか?特撮の玩具みたいな… 」



「これがV.R.D.(バーチャル・リアリティ・ドライバー)といって仮想世界へ行く為のベルト、そっちの端末がクラスギアといってベルトに装填する装置の様なモノ。呉々も無くさない様にしてくれよ?データが全てそこへ記録されるから。まぁ常日頃、バックアップは取ってるから大丈夫だとは思うけど 」



「成る程。VRゴーグルとか付けたりしないんですね? 」



「まぁね。うちの学校は研究モデルだし、卒業生も出してるから技術面でも政府は協力的なんだよ 」



「そっかぁ、因みにエリートで卒業すると何処で仕事出来るんですか? 」



「大手のゲーム会社やそれに関連した企業は勿論、政府の職員にもなれる。無論この学校の教師にもね。進路指導に関しては渡した資料に書いてあるから目を通しておくと良いよ。じゃあ授業は明日の9時から、遅刻しない様にね 」



「はい!色々とありがとうございました!! 」


美羽は頭を下げ、昴と別れると鼻歌交じりにスーツケースを引いて階段を降りる。

すると金髪の男子生徒と擦れ違っては彼はそのままフラフラと上へ上がって行くがその様はまるで正気を失っている様にしか見えない。

もしやと思った彼女はスーツケースを持ち上げてその後を追い掛ける、すると予感は的中し

彼は屋上へ出て行くとそのままフェンスの方へ歩みを進める。そして立ち止まった彼が端末等を捨てようとした時にスーツケースを手放し、走って行くとその腕を掴んで止めた。


「うわぁッ!?何だよ離せよ!!離せったら!! 」



「何してんの、これ大事なモノなんでしょう!?マジで壊れるから止めなってば!! 」



「キミには関係ないだろ!? 」



「関係大アリだっつーの!! 」


こうして無理に引き止めると美羽は呆れた表情を浮かべながら彼を見下ろしていた。


「バッカじゃないの!?全く…ウン千万もする機械を放って壊そうとするだなんて!! 」



「もうどうでも良いんだ…だから…だからほっといてくれよ!! 」


すると彼は嗚咽混じりの声と共にポタポタと涙を流し始めた。


「ちょッ、泣かないでよ!?っと…何か有ったの?良ければ話聞くよ?何か只事じゃ無さそうだもん 」


しゃがみ込んで彼を落ち着かせる、それから事の経緯を全て説明して来た。


「成る程…上位ギルドから外され、オマケにカースト?って奴も上から一気に下へ降格、だから自暴自棄になってたと…それとバディも居ないからもう退学しかないって言われたと 」



「うん…どうせこのまま落ちこぼれで終わるんだ。ブレイバーを選んだけど…結局は戦闘鼓舞っていうサブスキルしか使えない。どうせ僕は役立たずだから… 」



「…ちょっとそれ貸して 」



「え?何を? 」



「その手に持ってる端末に決まってるでしょ?ほら 」


彼から端末を借りてステータス欄をチェックする、そしてサブスキルには戦闘鼓舞と記載されていた。


「高岩勇輝…クラスはブレイバー、サブスキルは戦闘鼓舞…武器はカリバーン…か。成る程ね、大体解ったよ 」



「やっぱり役に立たない…? 」



「違うってば、その逆!戦闘鼓舞っていうのは所謂味方の攻撃値を上昇させるスキルの事 」



「それは僕も知ってるよ。でもそんなモノ有ったって別に…何も… 」



「要するにいざという時に使えば幾らHPが高い相手だとしてもこのスキルで攻撃力を底上げすれば勝てる可能性が半分以上、上がるの。話を聞く限り、役に立たないっていうのは向こうにウィッチャーが2人も居るから全体強化で相乗されてこのスキルそのものの効果が消されちゃうんだよ 」



「な、成る程… 」



「…でも幾らでも役に立つ。戦闘鼓舞は確かスキルアップすれば勇者の意志に進化する、そうなるとウィッチャーを上回る筈だからね。まぁ向こうはマスタークラスが居るから知らないなんて訳無いとは思うけど 」



「あのさ…どうしてそんなに詳しいの? 」



「ん?決まってるじゃん、ゲームが大好きだからだよ。この学校の教育方針は都内で初めて

ゲーム技術を取り入れた学校…ゲームを通じて沢山の事を学んで将来に活かせる様にする。でも、下手な制度や上位ギルドが邪魔で生徒の扱いに差が出ている……ならそんなモノ壊しちゃえば良いんだよ 」



「無理だってば!!そんなの出来る訳が── 」


すると向き直った美羽は彼の口を差し出した端末で軽く抑えて話を続けた。


「やらない内から勝ち負けを決めたらそれは

ゲームじゃない。確かに勝者と敗者は存在する、でもそこに至る迄の過程が有るからこそゲームは楽しい…そうでしょ? 」



「う、うん…それはそうだけど……でもそれは一般的なゲームの話で… 」



「だからもっと気楽に行こうよ?ゲームで人生左右されるなんて重く考えるより、一生に一度しかない青春を限界まで楽しむぞーって感じでさ!!いひひッ! 」


美羽が微笑むと勇輝もまた僅かながらに微笑んだ。そして彼女は思い出した様に自分から自己紹介をする。


「私は転校生の平井美羽。ゲーム大好き今時JK!まぁ…今はこんな格好だけど明日からちゃんと制服着て来るから! 」



「さっきのステータスを見たから解ると思うけど僕の名前は高岩勇輝…って平井美羽ってまさかあの最年少プロゲーマーの!? 」



「そっ、スーパー天才ゲーマーMIU。まぁ天才って言われてもゲームの中だけだどね 」



「じゃあこれで本当に──!! 」


一抹の希望の光が勇輝へ差し込んだ時、屋上のドアが開いて1人の背丈が大きいスキンヘッドの男と取り巻き数名が入って来る。そして2人を見るやニヤリと笑った。


「おやぁ?役立たずの勇輝君じゃねーか。女なんて連れ込んでどうした、慰めて貰ってたのか? 」



「い、斑鳩…亮太…!! 」



「はははッ!!まぁお前のサブスキル知ったら誰もが笑うだろうさ。それにカーストも最下位のナードなんだからよォ?おいそこの女!そいつのクラスはな── 」


すると美羽がその言葉を遮った。


「戦闘鼓舞でしょ?知ってるよ 」



「なら結構。そんな役立たずと一緒に居たらお前にも不幸が移るぜ?だから早いとこ離れるか俺ん所に来るかをオススメするぜ?へへへッ! 」



「あっそ。別に良いよ、アンタみたいなハゲと居てもつまんないし 」


そう言われた亮太はカチンと来たのかズカズカと歩いて来て美羽の前へ来る、その長身で彼女の事を見下ろしていた。


「おい…俺は女に手を上げねぇ主義なんだ。あまり俺をイライラさせんなよ?どうなるか解ってんのか!あァ!? 」



「おー怖い怖い。それで?キレたらどうするの?ウサギとダンスでもするの?止めときなって、その巨体じゃ釣り合わないよ…私ともね 」


その一言に完全にキレたのか亮太はドライバーを取り出して彼女の前へ突き付けて来る。


「このアマ…叩きのめして解らせてやる!!決闘デュエルだ!! 」



「うへぇ、いきなり決闘かぁ...。あ、ねぇ勇輝君?此処って監視エリアの外? 」


振り返った美羽が彼へ尋ねる。


「え、えっと…ギリギリかな? 」



「そうかギリギリかぁ。なら此処で済ませちゃおう…転校初日で退学なんてイヤだしね 」


再び向き直ると美羽も受け取った箱からドライバーとクラスギアを取り出して笑った。


「ほぅ、新品か?なら早々にスクラップにしてやるぜ!! 」



「まだフィルムも貼ってないのに壊されるのイヤだから傷付けないでよね? 」


そして先に亮太が声を上げた。


「──変身トランス!! 」


続いて美羽が右手に持ったギアを正面へ突き出すと手元へ戻してから電源スイッチを入れる。

すると前髪が僅かに靡いたかと思えば彼女の目付きが変化し、白い歯を出して笑った。しかし突然端末側から機械音が鳴るとこう言われる。


[Please Input a Start up Code!Please Input a Start up Code!]



「…?あたしに何か言えって?じゃあアイツと同じで…変身トランス!! 」


そしてそのままドライバーへ装填すると顔と髪型はそのままに美羽の首から下が変化する。

口元に黒のマスク、黒のフードが付いた上着、発育の良い胸部を隠す形で黒色のタンクトップの様な服に加えて谷間と腹部は露出した状態、左右の腕と手首に銀色のアーマーが付くと下半身は黒色のホットパンツと左右太腿の半分を覆う様に黒のニーハイソックスが、そして足元は黒のヒールが付いたブーツが現れた。

変化し終え、目の前を見てみると変化した亮太は上半身半裸で筋肉質な狼の様な獣にしか見えない。


「……メインクラスはウォーリアーか。図体がデカいお前の好きそうなクラスだな 」



「そうだ!お前なんざ人捻りにしてやる!!それに引き換え…テメェはシャドウだな?はははッ、よりによってハズレを選ぶとは馬鹿な女だぜ!! 」



「ベラベラ喋るなよ、唾が飛ぶ 」



「へッ…そうかい…ならぶっ殺す!! 」


すると突然空間が変異し先程まで聞こえていた声や音も一切無くなったと思えば同じ空間がそこに形成されていた。これが仮想世界アナザーワールド、言うなればもう1つの世界という事になる。

此処ではどれだけ暴れて、どれだけ破壊したとしても元に戻る事から何の問題もない。

繰り出された右ストレートを躱した美羽は距離を取ってから続く跳躍からの振り下ろしを後方宙返りして躱してみせた。


「おいおい、逃げてばかりじゃ勝てねぇぜ?おらぁあああッ──!! 」



「そんなの知ってるよデカブツ!! 」


薙ぎ払う様な一撃が放たれると彼女はスライディングし躱して相手の背後を取る。すかさず右足での飛び蹴りを放ってダメージを与えたが僅か。因みに亮太のHPは2091、美羽のHPは250で今の蹴りで入ったのは僅か5ダメージでしかなく545対250では差があり過ぎるのだ。


「ちッ、まだ初期レベルだからこんなモノか…!! 」



「何かしたか?Lv10の俺様にLv1のお前が叶う訳ねぇだろうが!! 」


振り返ると亮太は見下ろす様にニヤリと笑う、

そして振り返り様に放った力強い右ストレートが命中し吹き飛ぶと一気に体力が50に減って200となってしまう。

受身を取って着地すると美羽はその場で端末を利用し確認してから両手に双剣を呼び出して構えた。


「ほぅ…?今度はそいつで来る気か? 」



「あぁ。シャドウと言えばだろう?暗殺者に刃物は必需品だッ──!! 」


左足で地面を蹴って駆け出すとそれを迎え撃つ形で亮太も突撃、力任せに右手を振り下ろすが直前に懐へ入り込むと右手の刃物で脇腹を斬り裂く。そして今度は振り返り様に左手の刃物で背中を斬り付けると左右で5ダメージ、計10ダメージ分減らす事が出来、2081となる。それでも差は埋まった訳ではない。


「その程度で俺様が倒せると思ったか!? 」



「ふん、言ってろ!! 」


その後も幾度に渡って10ずつ削り続け、その数は6回。つまり60ダメージを与えて漸く残り2021という所まで来たがその差は埋まらない。勇輝も鎧を纏ってそこへ来るとぶつかり合う双方を見ていた。


「やっぱり...天才ゲーマーでも斑鳩君は... 」


 そして轟音が響き渡ると同時に亮太の拳が屋上の床へ命中し白煙が立ち上る。

勇輝が振り返るとそこには美羽の姿は何処にもなかった。


「口だけ達者で大した事無かったぜ。ま...死んじまったかもしれねぇがな? 」



「そんな...平井さん!?平井さん!! 」



「さてと...そういやお前、福山先輩から言われなかったか?それ全部返却して自主退学しろって!!何時まで持ってんだ? 」



「い、嫌だ...!僕は僕はまだ──うぐッ!? 」


 胸倉を掴まれた勇輝は持ち上げられ、赤い瞳で睨まれる。

その威圧感は比べ物にならない。


「御託は良いから言う通りにしろって?さっさと!此処から出て行けって言ってんだよ!! 」


 その時だった。勇輝が亮太のHPバーを見ると数値が2021から5減ってと次第に2016、2011、2006、2001、1996、1991、1986、1981と徐々に減り続けて行く。

気が付けばいつの間にか990となっていた。


「な、何だ!?俺様の体力が減ってるだと!?畜生、どうなってやがる!? 」



「これは...一体...!? 」


 すると2人の背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「......シャドウ固有武器、双剣デュアルの持つアビリティ...毒刃。これは一定の確率で相手に毒状態を付与する事が出来る。さっき使わせて貰ったよ、あの一瞬でな 」


 だがその姿は何処にも見えない、勇輝を振り下ろした亮太が振り返って周囲を見回すがやはり居ないのだ。


「くそッ、何処だ!?何処に居やがる!!さっさと出て来い!! 」



「──此処だよ!! 」


 声が聞こえたのは自身の左側にあるフェンスの上から。

そこへ振り向いたと同時に右腕に何かが掠めて負傷する、900から855へ減ると

更に追撃で5ダメージ追加され850、755となった。


「て、てめぇ...ッ!卑怯だぞ!!正々堂々と──ッ!? 」


 すると突然、首の後ろに冷たい物が当てられて思わず固まる。

見てみるとそれは銀色をした刃、徐々にその姿が露わになると

直ぐ真後ろに美羽が現れた。


「さて此処でカースト上位の亮太君に質問だ。シャドウクラスのサブスキルは? 」



「は、はぁ!?ンなの知る訳ねぇだろ!!第一そんなヘボクラスなんざ興味ねぇよ!! 」



「おいおい...それでも上位の人間か?...ゲームの基本だぞ?それとも力技だけで強引にのし上がった脳筋タイプか? 」



「う、うるせぇッ!! 」



「ならそのミジンコ並みの脳みそに叩き込んでおくんだな。シャドウのサブスキルは気配消失...お前があたしを殴り潰す前にそれを使って躱し、高みの見物をさせて貰った。お前みたいなタイプは自分の勝ちが確定した時点でバトルを放棄し、あたかも勝負に勝った様に錯覚する!! 」


 強引に振り払われ、彼女は空中で回転し地面へ降り立つと

右手の刃物をくるりと回転させ刃先を差し向けた。話している間にも毒は回り続けていく。


「だからこんな単純な子供騙しに引っ掛かるのさ。残りHP400...さぁどうする?解毒剤でも使わない限りどんどん減っていくぞ?まぁ、あればの話だが 」



「ち、畜生ッ...!俺が負ける訳ねぇんだ......俺は最強なんだ!! 」



「それとさっきだと言ったな?これはシャドウクラスので卑怯でも何でもない...要するに使えないお前が悪い! 」



「ふざけるなぁああぁあああぁぁッ──!! 」



「...悪いが終わらせてもらう。ゲームと言えば必殺技、これでトドメだ!! 」


 大きく咆哮した亮太が襲い来るも美羽は動じない、そして

左右の剣を逆手持ちしポツリと呟く。


「──血刃円舞ブラッティロンドッ!! 」


 両手を広げて空中へ見えない足場を展開し彼女も仕掛ける、

そして電光石火の如く駆け出すと連続で亮太の身体や腕、足、脇腹を立て続けに斬り裂いたのだ。


「この...俺様が...負ける...だとぉ...ッ...!? 」


 そして亮太が倒れると同時に仮想世界が解かれ、美羽はギアをドライバーから外す。

同様に勇輝もギアを外すと倒れている亮太を見て驚いていた。


「私の勝ち!えへへッ、面白かったよ 」



「か、勝っちゃった...!?本当に勝っちゃった!? 」



「この人が使ったのは超狂化だけ、後は何もなかった。まぁウォーリアークラスは単純に殴った方が強いからそれを信じてやってたんだろうけど...どれも軌道が読み易くて単純だし躱そうと思えば躱せるよ 」



「簡単に言わてもなぁ...それより早く行こう、校則で立会人無しでの決闘は禁止だから! 」



「あ、えぇッ!?ちょッ...引っ張らないでって!服伸びちゃう!! 」


 こうして波乱の転校初日は幕を閉じた。

しかし、まだ物語は始まったに過ぎない...これは自身の将来を掛けた学生達の

学生達による、学生達の戦いと青春の物語である。

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