まれびと 1

「さて、どうするか……。

 こういう時は、とりあえず責任者に挨拶するのが、定石で筋だよな」


 考え込んでいた時間は、おそらく十数秒ほど。

 俺が決断を下すまでの時間としては、最長記録であるかもしれない。

 即断即決即実行は、我がモットー。

 戦場においては、迷う奴から死んでいくのである。

 にも関わらず、これだけ隙だらけの時間を作ったのは、この現場げんじょうがあまりに不可解過ぎたことと、単純な話、オデッセイにとって脅威となり得る存在が認められなかったからであった。


 だが、もう結論は出ている。

 ならば、いつも通りにそれを実行するだけだ。

 世界が変わろうとも、時代が変わろうとも、それが揺るがぬテツスケ·トーゴーのドクトリンなのであった。


「責任者っつーか……。

 この様子だと、王様とか将軍とか、そんな感じの肩書きな気はするな。

 少なくともこの人たち、二等兵とか一等兵は名乗ってなさそうだ」


 ナイフみたいに鋭い耳を備えた人々……。

 疲労によってか、城壁の上でへたり込みつつもオデッセイを拝み倒す人々の格好は、誰も彼もが、ファンタジーゲームの戦士じみたもの。

 映画の撮影か何かだと思いたいが、時折見かける死体は、それがあり得ないことを示していた。


「音響センサーを調節して、と……」


 ともかく、情報だ。

 情報が欲しい。

 そのため、オデッセイの備える音響観測器を操作する。

 こいつのそれは、その気になれば強力かつ指向性の高いマイクとしても機能した。

 何しろ、このオデッセイは陸戦兵器だからな。

 例えば、市街地などで歩兵と連携して戦わねばならない局面で、これら索敵系装備は、敵の位置を探り出すのに極めて有用である。


 まあ、今このマイクで探るのは、遮蔽物へ隠れた敵兵の息遣いではなく、防壁の上や覗き穴からこちらをうかがう人々の話し声なのだが……。


『巨神様、動かなくなったぞ?』


『ガルゼの奴らを追い払ったので、お役目を果たされたのか?』


『そういう時というのは、元いた場所へ戻られるものではないのか?』


『いや、そう聞かれても、こんな状況は初めてなのだから……』


『もし、あのまま動かなくなったら、祭りの時とかはあそこで踊ったりしなければならんのか?』


 おっと、このオデッセイが動かなくなるんじゃないかと、心配してる人たちがいるな。

 お生憎(?)このオデッセイは、零点炉によって無補給でも半永久的に稼働することができる。

 今は俺が操縦してないから静止してるけど、こんな斜面で立ちっぱなしになったりはしないさ。

 ……というか、話を総合すると、俺がコールドスリープしている間に周囲で踊ったり崇めたりしてたっぽいな。

 そして、もうひとつ付け足すと、彼らが使っているのは日本語だな。

 情報その1と2。オデッセイが信仰対象になっていて、言語は日本語。文字は不明。


『お館様にご報告をせねば!』


『いや、どう考えても城から見えていただろう!』


『城の方から、馬が駆けてくる。

 おそらく、この件に関する伝令ではないか?』


 お館様、ね……。

 確か大名とか、偉い人を指す言葉だったか。

 で、今の話からして、やはりというかお城にいると。

 情報その3。おそらく一番偉い人が、お館様と呼ばれている。

 ん? ところで、あの馬に乗っているのは……?


『おい! 姫様だ!』


『馬に乗っているのは、姫様だぞ!』


 オデッセイのカメラアイでも、ズームにして確認した。

 馬――サラブレッドと異なりやや短足な種だ――に乗って町中を駆けているのは、あの尖塔にいた鎧姿の女の子である。

 そうか、姫様か。

 情報その4。あの美少女はお姫様。

 で、普通に考えると、お館様とやらのご息女だよな。


「だったら……」


 コントロールレバーを握り、脳裏で動きのイメージを浮かべた。

 それから、トリガー。

 イメージ·コントロール·システムが機能し、俺の思考をオデッセイが読み取る。

 そして、パイロットの思念を受けた鉄巨人は、すぐさまそれに応え、再度の跳躍を行ったのだ。

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