【ASMR】邪な私と不器用な先生の、未公開原稿

にわ冬莉

第1話 いつだって応援したいのです!

SE/かちゃ、と鍵の施錠、バンと扉が開く

SE/バタバタと部屋を走る音


「せんっせぇぇ~!」


「おはよーございますっ! 進捗、どうですかぁぁ?」


「……あれ? なんで頭抱えてるんです? へ? お前昨日も来ただろ、って……」


「ええ、来ました! そして今日も来ました! だってそれが私のお仕事ですもん!(ドヤ!)」


「……あれぇ、あんまり嬉しそうじゃないですねぇ? え? 嬉しくない? えええ! そうなんですかっ? だって、私ですよ? この私が、先生の、応援に! 来てるのに?」


「……応援されたから書けるってもんじゃない、って……そりゃそうかもしれませんけどぉ。でもでも、応援されてる実感を得られると頑張れる、ってSNSに書いてましたよね?」


「そういうことじゃねぇ? えええ? どういうことですかっ? 私は先生が頑張れると思ったから応援しに来たのに、私の応援じゃ頑張れないってことぉぉ?」


「……あ、なるほど。本を読んでくれた人からの感想とか激励のこと、ですかぁ。確かに、読者さんからの感想とかって嬉しいですよねぇ!」


「へ? 書いたことないのにわかるのか、って? わっかりますよぅ。たまに読者さんが『この作品を世に出してくれた編集さんに感謝します!』とか書いてくださったりするんです。そういう時、めちゃくちゃ嬉しいですから!」


「そんなわけで、今日も頑張りましょう~!」


「……やだなぁ、あからさまに迷惑そうな顔しないでくださいよぅ。邪魔はしませんから」


「存在が邪魔っ? ちょっとぉ、随分じゃないですかっ! 大体、誰のせいでこうなってると思ってるんですかぁ? 先生がちゃんと締め切り守ってくれさえすれば、私だって毎日押しかけたりしないんですよ?」


「……ああ、ボツ食らった、って。編集長の要求、高いですもんね。わかります。私、先生の第一稿読みましたけど、よかったと思いますよ?」


「うわ、前のめりの『だろ!?』ですね。ふふ、先生もあれ、自信あったんだ~」


「……へぇ、そんなに長いこと温めてた話だったんですね。じゃ、先生の想いがいっぱい詰まった作品ってことだ!」


「でも、編集長からのダメ出しって、ストーリーじゃなくてキャラクターとか台詞の方ですよね? 主人公にリアリティが足りない、って」


「難しいですよねぇ、あんまりリアルだとドラマチックにならないし、想像だけだとリアルさに欠ける。特に先生が書いてる、青春アクションファンタジーだと、ちょうどいい匙加減が必要になるっていうか……」


SE/近寄り、PCをのぞき込む


「(声、近い)今どこらへんですか? ああ、このシーンですね」


「ヒロインの可愛さに、ヒーローが初めて気づく。その初々しさとかドキドキ感とか……うん、確かにもう少し……って、ふぇっ?」


「ななな、何言ってるんですかっ。胸見えそうって……先生のエッチ! 変態!」


「だって、屈まなきゃ画面見えなかったからぁ。私が迂闊でしたぁぁ(むくれる)」


「とっ、とりあえず私、お茶でも入れてきますので、書いててください!」


SE/パタパタと部屋を走る音。パソコンを打つ音


「(遠くから)せんせぇ、コーヒーでいいですかぁぁ? ……はーい。お砂糖、入れます~? わかりました~。……ミルクは~? きゃっ、あわわ」


SE/食器を落とす。カチャン、パリン、悲鳴


SE/溜息、椅子を引き立ち上がる。スリッパの音


「……せんせぇぇ、ごめんなさぁい」


「コーヒーの粉をこう、移し替えようと思ったら……カップにコンッって当たっちゃって、そしたらカップが落下して……ふぇぇぇ」


「あっ、片付けなら私が! 先生に怪我でもさせたら、大変ですからっ。……痛っ!」


「言ってる傍からなにしてるって……ごめんなさぁぁい。私、邪魔しに来てるんじゃないんですぅ。応援しにっ……来たのにぃ(メソメソ)」


SE/かちゃかちゃと食器を片付ける音


「先生の手を煩わせるような真似して、ほんとにすみませんでした。私、本当にダメダメですね……」


「え? 手? あっ……」


SE/水の流れる音


「先生、優しいですね……」


「そんなことなくないですよっ。私の怪我のことまで心配してくださって。ほんとだったら『俺のカップ割りやがって、弁償だぁ!』ってなるじゃないですか!」


「え? そんなやついるのかって? いますよぅ。世の中の半分はそれだと思いますよ? もっと悪い人なら『お前の体で払ってもらおうか。へっへっへ』なんて迫ってきたり!」


「……ふぇ? せんせ……じゃ俺も体で払ってもらおうかなって? そんなっ、私、心の準備がぁぁっ!」


「……冗談? じょ、冗談……っ! んもぅ、びっくりするじゃないですかっ。先生も極悪同盟の一員なのかと思っちゃいましたよっ」


SE/水の音、止まる


「絆創膏、ですか? ああ、私自分でっ、……ありがとうございます。ああ、消毒痛そう……ううう、ちょびっと……染みますぅ……」


SE/絆創膏貼る音(?)


「……(恥ずかしそうに)ありがとございます」


「(ぼそっと)……せんせ、優しい」


~続く

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