第11話
「大公殿下、よろしいでしょうか」
「構わんよ、アリス嬢」
「我が艦アリスイリスは所有者の変更を認めません。大公領軍の艦隊に所属というのが最大の許容範囲となります。ただし、その場合でも我が艦と艦長は如何なる束縛も受けることはありません」
「お、おい、アリス……?」
「つまり所属はしてやってもいいが指揮命令系統からは外れるということか?」
「
「協力は?」
「可能と判断した範囲内となります」
「あくまで自分たちの判断を優先するか。この場で君たちを拘束することも出来るが?」
「どうしてもなさると
「アリス!?」
「ほう。なかなか言うではないか」
「5万6千回のシミュレーションで大公領軍はもちろん、帝国全軍を
「ドリス!」
「はっ!」
体感で30分ほど待たされただろうか。データを受け取っていったん退室してから戻ってきたドリス伯の顔は青ざめていた。彼に耳打ちされると座っていた大公殿下が椅子を蹴って立ち上がる。
「ここでしばらく待っていてくれ。この者たちになにか飲み物を」
控えていたメイドの一人が軽く頭を下げてから扉を開け、大公と伯爵に続くように部屋から出ていった。
◆◇◆◇
ナルコベース司令室。そこには大公領の全ての情報が集められている。また太陽系はもちろんのこと、銀河アースガルド帝国全域の様子も瞬時に伝わってくる重要拠点でもあった。
「報告せよ」
部屋に入るとアロイシウス大公は全体を見渡せる司令官席に座り、重苦しい雰囲気に包まれた室内の者たちに命じる。
「送られてきたデータを解析致しましたが、とても信じられません」
言ったのは情報処理班の班長だ。
「
「はっ! 5万6千回に及ぶシミュレーションの結果は全て
「具体的には?」
「ほとんどの性能は秘匿されたままでしたが、シールド性能は明かされておりました。我が帝国最大のインペリアル級戦艦の全砲門による一点集中砲火でもシールド飽和は不可能です」
「不可能? 何時間かかるというのだ?」
「ですから不可能と……」
「まさか……」
「そこにアストロ級2000隻以上が加わっても結果は変わらずです」
インペリアル級戦艦の主砲は超高出力レーザーである。艦体の上部と下部に各18門、計36門に加えて250門の高出力レーザーも搭載されている。
一方アストロ級戦艦の全長は約890m。主砲はインペリアル級と同じ超高出力レーザーで、艦体上部と下部に各8門ずつの計16門が搭載され、高出力レーザー砲も80門ある。
この帝国最強と
「さらに宙賊艦隊を拿捕したシステムですが、艦の制御系統を完全に掌握しておりました。これをやられたら手も足も出ません」
「なんだと? 最大で何隻まで掌握可能なのだ!?」
「最大は分かりません。最低でも8万隻は3分とかからずに制御系統を奪われるかと……」
「は、8万……?」
その他にもデータが精緻過ぎて解析しきれない部分があったそうだが、アリスの言葉は事実と認められたようだ。
「で、ですが殿下、あの者たちを拘束すれば……」
「いや、艦の大きさといい、現実に65隻もの宙賊艦隊をわずか一艦で拿捕したばかりか完全武装解除までやってのけたのだ。あれは我が帝国の技術をはるかに凌駕していると見るべきだろう」
「殿下……」
「敵対は愚策と考える。そもそも罪を犯していない者を拘束する法は我が帝国にはない。なにより彼らは士官学校の生徒だしな」
「しかし殿下への不敬は……」
「貴族を敬わなければないないというのは条文として明文化されているわけではないぞ。殺したり捕らえたりするために
つまり不敬罪とはハラスメントと同様、ある意味受け手の感じ方次第と言えなくもないのである。それで殺されてしまった者は死んでも死にきれないが、表立って口にする貴族は珍しい。大公アロイシウスはまともな考えの持ち主と見ていいだろう。
逆に皇族に仕えているせいか、ドリス伯は選民意識が強いのかも知れない。
「それよりもどうやって味方に引き込むか、だ」
「領軍艦隊への所属は認めておるようですから、特に策を弄する必要はないのでは?」
「指揮下に入らないと言っているのだぞ。それにあれを愚弟が欲しがらないと思うか?」
「陛下を愚弟などと……ですが間違いなくご所望になられるでしょうな」
「愚弟は我慢を知らん。欲しいと思ったら是が非でも手に入れなければ気が済まない。子供と同じなのだ」
「さすがに殿下の艦隊所属であれば無体を申されることなど……」
「あるな」
「ありますねえ」
二人が出した結論は、ひとまずアリスイリスを
「殿下、フォボスより緊急連絡です!」
「何事だ!」
「尋問中のトマス・ムルデン元伯爵について、超マイクロボムにより脳の半分以上が焼失、修復不可能だったとのことです」
「なんだと!?」
「本人は痛みを感じることなく、死んだことにも気づいていないのではないかと……」
「そんなことはどうでもいい!」
「殿下、黒幕はムルデンではなかったということになりますな」
「彼らを待たせすぎても仕方ない。戻るぞ」
一瞬思案顔を見せたアロイシウス大公はフェルトン伯爵を伴い、ハルトたちが待つ会議室へと向かうのだった。
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